見出し画像

「つくってみよう みんなのかるた」


 みんなのかるた

初めてのエッセー集「同じ月を見あげて ハーモニーで出会った人たち」(道和書院)が、4月26日に発売になりました。
 私の勤務先であるハーモニーは、統合失調症を始めとする心のトラブルを抱えた人たちが通所する場所。そのハーモニーで30年近い年月の中で出会った人たちと私のストーリーを綴っています。

*本の中に入れることのできなかった文章も多くて、カットしてもらった章の一部を紹介しようと思います。

 今回は、幻聴妄想かるたづくりと並行してハーモニーが行っている、幅広い人たちを対象にしたワークショップ「つくってみようみんなのかるた」と、そこで参加者が作ったかるたの紹介です。


同じ月を見あげて 

ハーモニーで出会った人たち

<お求めはこちらから>
出版社サイト  Amazon  ハーモニー通販サイト

新澤克憲(著)
発行:道和書院
初版発行: 2024年4月26日
体裁・総頁: 四六判並製・272頁
ISBN: 978-4-8105-8105-3063-4 C3047
装画: ウルシマトモコ
装幀: 高木達樹
定価 2,000円+税
 

つくってみようみんなのかるた
 ハーモニーが作った「幻聴妄想かるた」のシリーズには、直接「精神症状」を扱ったものもあれば、当事者の日々の生活のつぶやきのようなものもある。
 かるたを手にした人がどんなふうに感じてくださるのか、実際のところ関心があったし、不安でもあった。取材に対して「楽しんでください」と答えることはあるが、「こんなふうに感じてほしい」というメッセージは控えるようにしている。
 
 2014年の2番目のかるたを発表した時のことだ。展示会場にゲストブック代わりの白い札を置いて、来場された方たちに、自作の札を書いていただいたことがあった。色鉛筆などで色をつけられるようにしてみたら、これが予想外に好評だった。
 
 メンバーへのメッセージを記した札、子供たちの書いた等が沢山のこされていた。その中には自身の「不思議な体験」「いままで人には言わなかったけれど、頭から離れない思い」「少々もてあまし気味の自分のくせ」なども残されていた。
 もしかして、かるたとして残していける体験や思いは、ハーモニーの人たちだけでなく、日本中にあるのではないかと思いたった。


2015年 @女子美大学



 その後、展示会や講演会の会場で、白い札を置いて描いてもらったり、「つくってみようみんなのかるた」と題したワークショップを講演会の中でも行っている。
 かるたのテーマは幻聴や妄想には限定せず「人にはあまり言わなかったけれど、自分でも奇妙だなと思っている自分のこと」「人から不思議がられる自分の癖」ありますか?なにも思いつかない場合は「ハーモニーのかるた大会をやってみた今の気分でもいいですよ」ということにしている。
そして、来場者の作ったかるたにハーモニーのメンバーが「やっぱり闇の組織はあると思うんですよね。がんばってください」とメンバーがコメントしてみたりする。
 当事者の集まりで披露された「入院なんて18回したぞ」「保護室を壊しちゃった」とか「深夜、自販機に指令を受けて一晩中歩きまわっていた」という内容に札には、ハーモニーのメンバーたちと歓声をあげた。


【聴こえた声】
おとがする 皆が寝ている はずなのに
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/137598552713/

聞こえたよ、災害でもないのに サイレンがhttp://harmonykaruta.tumblr.com/post/138515241418/

自分だけ知らない みんな 宇宙人
https://harmonykaruta.tumblr.com/post/176576034648/


【不思議な経験】
よなかに ベットのすみに 黒ずくめの人が 座っているhttp://harmonykaruta.tumblr.com/post/137595704353/

【当事者の集まりで】
かわに とびこめという しれい
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/138518658088/

再入院 オレは多いぞ!18回
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/138514850433/

保護室を 破壊しました 完全に!

 精神疾患の診断を受けていない人の中にも6%の人が「声」を聞いた体験を持つという調査結果もあるそうだ(*)。「声」を病気に症状のみに限定する必要はない気もする。
「誰かに見られてる気がする」「名前を呼ばれたはずなのに」「着信音がしたのに着歴がない」など、若い人たちの描いたものの中には人との関係からくる不安を表したものが多い。

【見られてる】
いいことをすると ねこがみてる
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/138514022728/


みられてる だ~れもいない はずなのに
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/137595506478/


ぼくを見るな その目はいつも ぼくを見ている
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/137597643093/


 
【自分の中に】
頭の中に ぐしゃぐしゃした 何かがある 
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/153495727763/

突然 大声で 叫びたくなる。
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/138055984818/



うずくまると 首が落ちてる
http://harmonykaruta.tumblr.com/post/156916978223/



2018年 @駒沢大学



ホワイトマン

 
 参加者に描いていただいたかるたによって私たちが力を得ることも少なくない。私にとっても忘れられない何枚かのカードがある。そのうちの一枚を紹介したい。
 



 

 絵札は鉛筆で丁寧に描かれていて、うっすら色鉛筆で塗られている。
和室の室内が描かれていて、掃き出し窓のカーテンの向こう側の床の間あたりに白装束を身にまとった人が立っている。
マントをヒラヒラさせている様子は、往年の戦隊ヒーローや月光仮面のようだ。
  字札には七色の文字で「ホワイトマン 来てくれて ありがとう!」と綴られている。原因はわからないけれど、10代後半の息子さんが長い間、家から出られない時期があったそうだ。
 心配しても何も話してくれず、心配な毎日が続く。ある日、彼が、窓の方を見ながら、突然言った。 「ほら、おかあさん、カーテンの所にホワイトマンがいるよ」 彼女には目をこらしても誰かいるようには見えない。
 どうしてしまったのだろう?一瞬、息をのむような思いだったが、息子さんの話を否定してはいけないと、動転する気持ちを抑えて、そうね、ホワイトマンだねと答えたそうだ。 ほどなく不思議なことが起きた。あんなにかたくなに外との接触を避けていた息子さんが少しずつ、外に出られるようになったのだ。
 成人した彼は、今では元気に毎日を送っているということだった。
 彼女は、あの時、自分には見えなかったけれどホワイトマンが息子に会いに来てくれたのではないかと言う。今頃になって言うのもおかしいけれど、私には見えなかったけれどホワイトマンは確かにいたんだ。
 ホワイトマン、息子を迎えに来てくれてありがとうと言いたくて、この札を書いた。そう、教えて下さった。


幻聴妄想みんなのかるた

 
 息子さんから話しかけられた時に、お母様はホワイトマンを見てはいない。しかし、息子さんの声を否定せず耳を傾けている。そのことを私はハーモニーの人たちの話を聞き続ける自分自身に重ねていた。ホワイトマンは、私にとっては「地面を揺らす若松組」であり「起きている間はずっと見えている小さいおじさん」だったのかもしれない。

 当事者が、自分の身に起きたことを語ることをためらい、迷い、足踏みをするように、その話を受け取る側も戸惑いながら、そこにいる。「信じてよ」と言われて身体がこわばり、「妄想かな」と尋ねられて一瞬言葉を飲み込む。それでも私やハーモニーのスタッフたちは「言葉に耳を傾ける」「人に思いを馳せる」ことを続けてきた。言葉を受けとめることの可能性を、このホワイトマンのエピソードは思い出させてくれた。
 
「みんなのかるた」のワークショップで描いた札を誰もが見れる展示室のような書庫のようなものがweb上で、できないかなとスタッフと話し始めたのも、ワークショップを続けている頃だ。後に加わったスタッフがHPを作ってくれた。まだまだ、発展途上だが、アーカイブのページには500枚ほどの札が納められていて、今も新しい札が加わり続けている。

【幻聴妄想みんなのかるたHP】
https://gencyoumousou.jimdo.com/
 

 
(*)日本臨床心理学会編「幻聴の世界 ヒアリング・ヴォイシズ」中央法規2010 p.36

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?