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鷹匠壽 予約への挑戦 10日目

前回までのあらすじ。
鷹匠壽の予約をとるべく、若旦那に土下座。しかし、首を縦に振らず肩を落として帰ろうかと思ったが、仕入先トラックを追いかけ、鴨の仕入先 肉のとりせんにたどり着き、鴨が新潟にいるという情報をもらう。
そのまま新潟に向かい、福島カモ養殖場で、真鴨の肉をゲット。鴨をゲットしたことを鷹匠壽へ報告すると、
天然物じゃないことをバカにされたため、大日本猟友会経由で、フランス産の天然真鴨をゲット。
七輪で焼くための玉鋼の鉄板を作ってくれそうな山奥の刀匠を見つけた。
 
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山奥の刀匠から、材料は豊富にあり作ってくれるという話をもらったが、なにぶん作ったことがない初めてのもの、
やってはみたいが、作れるかどうか自信がないという話ではあった。
 
鍛冶場から東京に戻った岩松、すでに鷹匠寿で供する鴨を超えている説もあるが、まだまだ力を緩めるわけにはいかない。
山奥の刀匠から、いろんな話を聞いた。日本では、人間国宝を受けた刀匠は6名しかいない。
しかし、どの刀匠もすでにお亡くなりになっている。
 
全国の刀匠に電話をしていた際、何人かの刀匠に私には出来ないが「この人なら作れるかも」と言われた人がいた。
今一番、人間国宝に近い刀匠 吉原義人氏 72歳。東京在住。
そもそも、次の人間国宝であろう方に鴨肉を食べるために、貴重な玉鋼で鉄板を作ってくれという話をすること自体失礼。
もしそんな話をしたら、絶対に怒られるに決まっている。
 
 
 
 
 
が、しかし
 
 
駄目元で、都内の吉原氏の自宅まで、くそ重い七輪を3つも抱え、通勤ラッシュで満員の山手線に揺られながら行ってきた。

 
着くと、汗だくの岩松の姿と荷物の多さからか ただ事ではないことを感じてくれ、自宅の中まで通してくれた。
そして、いつもどおり、この挑戦の話をした。
 
黙ったままの吉原氏。


岩松は、くそ重い七輪を3つ、テーブルの上に並べ
サイズ感を確かめるための、ダンボールで作った擬似玉鋼の鉄板と
近所のスーパーで買ったしいたけ、白ネギを乗せた。

 
吉原氏は、
私の作ったダンボールの擬似玉鋼鉄板を、1分程度だろうか じっと見つめ
沈黙を破った。
 
 
吉原氏:刀の鋼っていうのは、特別な鋼なんですよ。世界中で一番綺麗な金属なんです。他の金属と比べてもまるっきり違うんです。
金属っていうのは、全部溶かして作る。でも玉鋼っていう金属は一度も溶けてないんです。それが日本刀の一番の特徴なんですよ。
私だったら玉鋼の良さを残して、鷹匠寿よりもっと良いものを作る。
 
 
もっと良いものを作ると。。。
 
 
 
 
え、今何て言った? 作る? 作ってくれる???
 
 
岩松:え!? 作ってくださるということですか!
 
 
吉原氏:私が、この仕事を受けるかどうかは、私が納得するものが作れると確信したときです。
今は、作れるとも作れないとも言えません。7月初旬に茨城の作業場に行って、あなたの言うものを、私が自分で納得行くまで作ってみます。
それから、また連絡します。
 
 
岩松:ほんとですか!!!ありがとうございます!!!!
 
 
最高すぎる。恐るべし、次の人間国宝様。怒られるかと思ったら、自分の納得行くまで、作ってみるときた。
流石としか言いようがない。

 
吉原氏:一つ言いたいことがあります。
 
 
岩松:何でしょうか?
 
 
吉原氏:この仕事、実は待っていました。鷹匠寿の玉鋼の鉄板。いつか、この手で作りたいと思っていました。
 
 
岩松:え!?
 
 
吉原氏:私も鷹匠寿で食べたんですよ。玉鋼の鉄板で鴨を。なので、あなたの言っていることはわかります。
カリフォルニアのナパのワインと、あの鴨。非常に合います。
あの鉄板に、私も思うところがある。私なら、もっと、良いものを作ります。
お約束は出来ませんが、待っていてください。
 
 
岩松:神様、ありがとうございます!!!!
 
 
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【吉原義人プロフィール】
東京都葛飾区在住の刀鍛冶師。文化庁認定刀匠および日本職人名工会殿堂名匠。若い頃に高松宮賞など上位特賞を総なめにして脚光を浴びる。伊勢神宮の御神刀を制作するなど、現代の刀匠を牽引するといっても過言ではない刀鍛冶 吉原義人氏。作品は国内だけでなく海外でも評価が高く、メトロポリタン美術館やボストン美術館にも収蔵されている。

11日目へと続く

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