宇宙灯1話 脚本


ヒト、猿、鳥、魚。彼らは生命を宿した肉体であり、この地球という星に絶え間なく存在し続けている。我々は生まれ、死に、また新たな生命いのちが誕生する。何故であろう。
もし仮にこれら生命いのちが有限であるとすれば、我々は単なる使い捨ての存在であり、この宇宙というヒトの叡智では図り知れぬ存在も、いずれ誰も知られざる無へと帰してしまうのであろう。
だがしかし、これが無限であるとしたらどうだろうか。死んだとしても記憶はリセットされ、また新たな物語として生まれ変わる永遠の存在である。ある意味輪廻転生とは、人間の僅かな希望から生まれた思想と言っても過言ではない。
となると我々の存在を確かなものとする意識。今この瞬間も絶え間なく脳を巡っている意識とは、一体どこからやってくるのだろうか。我々が存在する限り意識の根源が必ず何処かにあるはずなのだ。その根源は、宇宙の彼方にあるのだろうか。いやもしかすると、宇宙とは我々が思っているほど偉大ではないのかもしれない。
前置きが長くなってすまない。これから目の当たりにすることは、驚きと信じがたいことで溢れているだろう。だが、これだけは忘れずに考えていてほしい。我々は果たして何者なのか。我々が、今も尚生きている意識というものは一体何なのかということを。

2023年4月8日朝8時15分。自転車で信号待ち。快晴
ピロピロピロピロピロ ピロピロピロピロピロ
交差点の側にあるファミマの音

(今日から遂に高校生か)
街は朝から仕事に向かう車や学校の送迎の車で混み合っている

「ありがとう~ございました~」
近くのファミマの店員の元気な声が聞こえてくる

(僕、根暗で人見知りだから、友達作れるかな)
爽やかな春風の中、ぼんやりと快晴の空を見上げる

~西塚高等学校~
ガシャン。
<自転車を学校の地下の駐輪場に止める音>
光が駐輪場の入り口を照らす

~教室にて担任の先生のお話~

幾度の修羅をくぐり抜けてきたようなゴツい体の中年の男性が、教壇に腕を組みながら仁王立ちしている。そして、閉じていた目をカッと開き、大きく息を吸って話し出す。しかし、生徒は誰も反応しない

「みなさん....」
...。
「おはよーございますっ!」
...。
「今日は何の日ですかっ?!そう。みんな大好き入学式で、くしゅっ!(くしゃみ)」
...。
「私の名前は!丸藤峰尾がんどうみねお・だ!(男)三年間よろしくな!」

碧は少し眉間にシワを寄せる
(なんかこの先生いじってきそうで苦手だな...)

丸藤峰尾という名の男性は構わず話し続ける

「私は百舌鳥高校から転勤してきた!この中に芸術選択で美術を選んでいる奴はいるか!いたら挙手だ!」

クラスの3分の1が不安げに挙手する

「少ないな!しかしながら諸君!私がこの話をしているということは!」
...。
「しているということは!」
...。
「君!ということはどういうことかね!」

教室の中央付近の席に座っていた金髪で肌が焼けているギャルAに、いきなり質問をする。自分の顔を鏡で見てリップをしているギャルAが答える

「えー。ということはぁー。美術の先生ってことぉ?」(ギャルA)
「大正解!!勘のいい奴はとても大好きだぁ!」

丸藤峰尾は威厳のある顔から一瞬で笑顔になり、嬉しそうに話す。それに対してリップを宙で振り回しながら楽しそうに反応するギャルA。

「キャハッ。さっきからその変な喋り方ガチでエグチ~」(ギャルA)

「俺の名前は江口じゃなくて丸藤峰尾・だ!」

するとギャルAの後ろに座っていたギャルBが片足椅子に乗せ、前のめりになって反応する

「先生エグチの意味知らないの~?」(ギャルB)

丸藤は岩のような腕をクロスさせ怒涛の声を放つ

「そんなもん知らん!」
「知らないのマ?ねぇねぇ!うちら絶対気合うよね」(ギャルA)
「ヤバ~あーしもそう思った~!今日一緒に何処か行こー」(ギャルB)
微動だにせず自分たちの空気感を醸し出すギャル達。意気投合したギャルABは足をバタつかせながら一緒に笑っている

(このクラス怖ぇ~。ギャルいるし先生も見た目からしてヤバいでしょ!なんで入学式にボロボロの破けた白Tに短パンなんだよ!僕クラスまた間違ったのかな?!)
碧は身を縮める

丸藤峰尾はゴツい手を前に出して指を鳴らし喋りだす
「せっかくなので、最後にみんな隣の人と自己紹介をしようか!」

碧は隣りに座っているショートカットでメガネを掛けた黒髪の女の子に、視線を向ける。そして弱々しく自己紹介をする
音瀬碧なりせあおいです。特技はヴァイオリンが少し弾けることです。よろしくお願いします」

「一条せな(女)。よろしく」
一条せなは目を合わさず前を見ながら話す

「は、はい」
苦い顔をしながら碧は彼女の冷たい態度にさらに縮こまり、前を向く

~帰りの挨拶(時刻は12時)~
生徒は全員立ち挨拶をする
「「さようなら」」

碧は教室を出る
すると碧と小学の頃から付き合いのある霧崎経がイヤフォンを耳に付け左手にスマホを持ち廊下の隅に立って待っていた。

経は右手でイヤフォンを外し、スマホを持ったままの左手を碧に向かって上げる
「おう!碧。久しぶりだな」

碧は経の方に早歩きで近づく
「霧崎!久しぶり」

「碧時間あるか。飯食いにこーぜ!」:経
「うん。久しぶりに行くかー」:碧

パチンコ店やスーパーマーケット、コンビニ、家電量販店がある国道沿いを風を切りながら碧たちは自転車を漕ぐ

「街に出かけるのは久しぶりか?」:経
「勿論。僕は森を愛してるからね」:碧
碧は胸を高鳴らせている

「本当変わんねぇな」:経

碧はあることを思い出し、気まずそうな嫌そうな表情で言う
「そういえばさ、僕のクラス、ギャルがいて3年間やっていける気がしないよ」
「ははははっ。お前の性格じゃきついな」

ラーメン屋に着く。周りには飲食店が多くあり人が多い。奥の机に座る。食券機で注文したラーメンが出来上がるまで話をする

「碧と同じ高校に行けて嬉しいぜ。お前の父さんと母さんは元気か?」
経が暑い袖をめくりながら碧に話しかける

「ずっと変わらないな」
碧は店員が持ってきた水を両手で握って手を冷やしながら答える

「俺の父さんなんてな、昔は覇気があって格好良かったけどよ、今では近所の小学生にゲームばっかしてないで外で遊べだの宿題はちゃんとやっているかだの本当に面倒くせえ爺だ」
「それは大変だね」
苦笑いをしている碧

「あ!そういえば中学んときみたいに今日は何もやらかさなかったのか?」

碧は図星で一瞬固まる
「よくわかったね」

〜碧の回想シーン〜
カツカツカツカツカツ...<階段を登る音>

(ここが教室か)

ガラガラ<ドアを開ける音>

(僕の席は...。ここではない。ここでもない...。ない...ない...ない...ない。ふぅ。落ち着け落ち着け。焦るな。必ず何処かにあるはずなんだけど...。)
(あ、先生来た)

メガネを掛けた女の先生が澄ました顔で教室に入っていくる

「あのー...。すいません僕の席がないんですけど…。」

先生はメガネを掛け直して碧を見る

「ん?ハイ。お名前は。貴方のお名前」
「ああ!音瀬碧です」

先生は手元の資料を覗き込む

「えっとー。隣のクラスですね」
「隣のクラス?」
碧は理解できず困った顔をしている

「はい。貴方隣のクラスです」

脳の回転が追いつかない碧は二度目で理解する

「す、スミマセン。ありがとうございます」
碧はすぐさまお辞儀をして教室から出る

教室の皆からの視線が痛い

(うわぁーーーー。黒歴史決定!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ははははっ。お前らしいな」
経は腹を抱えながら笑っている

「初日からやらかした僕の立場になってみてよ」
「ははははっ。俺もその場に立ち会いたかったぜ」

「碧の担任の先生面白そうでいいよなー。俺の担任は生徒指導部で超厳しそうだからな」
経は頬杖をつき、羨ましそうに言う

「確か女の先生だったよね」
碧は顎に手を当てる

「顔は美人だけどなぁ。ああいう人に限って、固定概念に囚われて理念が古臭いんだ。」
経は腕を組んでため息混じりに言う

「でも僕の担任は、美術の授業で会うよね。」:碧
「ま!それはそうか。お前は俺と同じ美術選考だから俺の担任(書道の先生)と関わる機会ないもんな!(ドヤッ)」:経
「やっぱ担任で嬉しいんじゃん」
碧は呆れた顔をする

「わはははは!」
経は白い歯を見せながら笑う

ラーメン屋から会計を済まして出る
経がのれんをめくると陽光が降り注ぐ

経は自転車に座り前かがみになってハンドルにもたれかかっている
碧はハンドルを両手で握り自転車を支えている

「また碧の家に遊びに行きたいな」
「まぁ。機会があればね」

(ったく)経が微笑む

「今日はもう帰るか」:経
「うん。そうだね」:碧

互いに手を降って分かれる

一時間後~
陽光が碧の顔を照らす。頬に汗が流れる。碧は家に帰るために堤防を自転車で通る。堤防の斜面には丈の短い草が生えている

キーーキーーキーーキーー<自転車を漕いでいる音>

「♪、♪、♪」
碧はイヤホンで音楽を聞きながら鼻歌をしている

(あれは、僕の学校の制服。この道通る人いるんだな)

目の前に同じ学校の制服を着た髪の白い女の子がいる。碧は気に留めず通り過ぎる

「あの、すいません。碧くんだよね」

キュッ<自転車のブレーキ>

(あれ。僕の名前を呼んだ?)

碧は背後にいる女の子を見る。自分を指さしながら、しどろもどろに尋ねる
「ぼ、僕ですか?」

「はい。この場所知っていますか?」
透き通った紫色の瞳をした女の子は、碧に近づきスマホを取り出して目的地を見せる

「あ、はい知ってます」
碧は丁寧にその場所を指さしながら教える

夕焼けが2人の背中を照らす

「ありがとう碧くん」:せな
「僕と何処かで会ったことあるっけ…?」:碧
「今日あったばっかじゃん!」:せな
「えっとー。お名前は」:碧
申し訳無さそうに碧は尋ねる

「一条せな。もしかして忘れたの?」
せなは少し頬をふくらませる

(僕の隣の席に座っていたあの一条さん?今はメガネかけてないし、髪が白で目が青に変わってる。それに学校では、態度冷たかったような...)

「い、一条さんは何でこんな所でコスプレしてるの?」
「あ!....」
せなは突然何か思い出す

「今ここであったこと全て忘れて」
そして、せなは突然顔が暗くなる

「え?なんで」:碧
「なんでって何?口答えしないでもらえます?それにその一条さんって呼び方やめて。」
全くの別人のようになったせなは碧を睨みつける

「は、はいっ。さよなら」
殺気を感じた碧は慌てて自転車に乗り漕ぎ始める

(触れちゃいけなそうだったし、なんか事情でもあるのかな。悪い事しちゃったかな...)

森にある家に帰る。家の近くには川が流れており、木で囲まれている。碧の父と母は、木造建築のおしゃれな家で暮らしており、碧は巨大な樹の上にある家で別々に暮らしている

「ただいま」
碧は疲れた声で父と母の家に入る

「ゴホッゴホッ!」
父ののぶがハンカチを口に当てて苦しそうに咳き込んでいる

「お父さん大丈夫?!」:碧

円はかすれた声で答える
「ああ。いつもの咳だ。ゴホッ!」「それはさておき帰ってくるの遅かったな碧」
少し取り乱しながら、明るい声で咄嗟に話題を変える忍

円はキッチンのテーブルでニュースを見ながら白い猫のケンリョクを膝に座らせ焼酎を飲んでいる
母(音瀬愛瑠える)はキッチンで料理をしている

「まぁ。色々あってね」
碧はその場に重い学生カバンを置く

「今日は午前中で学校終わりだったわよね。昼飯はどうしたの?」
愛瑠は干していた皿を布巾で拭きながら不思議そうに碧に尋ねる

その間円はコップに入っていた焼酎をぐいっと勢いよく飲む

「霧崎とラーメン食べてきた」
「お!久しぶりにどうだった!父さん元気にしてるってか?」
父の顔には驚きと嬉しさが表れている

「うん。でも霧崎のお父さん、だいぶおじさんぽくなったみたい」
「歳取るってのはやはり怖いなぁー」
円は焼酎を左手で持ち陶器に注ぎながら落ち着いた表情で言う

「父さんも老けてきてるよ」
「お前...全然父さんのこと見てねえのな...(ガビーン)」
碧の鋭い言葉に円はうなだれ、注いでいた焼酎が溢れだす

「今日の晩ごはんは父さんが仕留めてきたキジよ。先風呂入る?」
愛瑠が碧に話しかける

「うん」
碧は一旦自分の家に戻るため床においていた学生カバンを屈んで手に持つ

「碧!なんか今日あったか!いつもより暗いぞぉ!」
円がいきなり後ろから碧の肩を組んで抱きついてくる

「なにもなかったよ!」
円を引き剥がそうと碧は体を大きく揺する

「ここで騒がないの。もぉ。」
少し困惑した表情を見せながらも仲の良い円と碧を見て微笑んでいる愛瑠

風呂と晩ごはんを済ませた碧は自分の樹の家でヴァイオリンを弾いている。弾き終えたあとヴァイオリンを持ったまま椅子に座り、窓から電気の消えた父と母の家を眺める

(父さんも母さんも寝たみたいだし歯磨きして寝るかぁ)

重い腰を上げて洗面所のドアを開ける。僅かな明かりが、碧の背後から洗面所の鏡を照らす。鏡を見ながら歯磨きをする。急に手を止める。そして約10秒間自分を見つめる。この時、時計の秒針の音だけがする

は、だ...。...は一体。なぜ...いる。)

そう思った瞬間、まるで心に穴が空いたような感覚に陥り、地面が黒い渦に見える{画角:斜め上・ハイアングル}

(ハッ!)
たまに脳をめぐる違和感。何を考えていたのか自分でも分からない
(僕は今何を考えていたんだ)

歯磨きを終わらせ、碧は気を紛らす為にベランダに出る
〜春風が森の匂いを運ぶ。月の光が森の闇を照らし、そこにはアンビバレンスな世界が漂う〜

(ん。あれは...さっき会った...一条さんだ!こんな夜中に何をしているんだろう)
50m先の木々の間に一条せなの姿がある

一条せなは苦しそうに息を切らせながら、森深くまで木を支えにして必死に歩き続けている

(辛そうにしているけど大丈夫かな。怖いけどこっそり後をつけてみよう)
碧は音を立てないようにしながら家から出る

(速い!このままじゃ見失う。バレないようにしないと):碧

カサカサ.....。
高くまで伸びた雑草をかき分ける
(無理だ。追いつけない)

木の麓に座り込む
(帰ろうかな)

「ゃ..て!!」

(ん?なにか聞こえたような...)

碧は声のする方を覗き込む
(一条さんだ!それに隣りにいるあの人は誰だろう)

円を描くように木と丈の高い雑草で囲まれた場所に謎の男とせながいる

「来ないで...。やっとここまで来れたのに...」
せなは両腕を頭上の木に押さえつけられる

(?!こんな所で一体何をしているんだ!明らかにあの男は怪しいな)

「そんな事言われましてもねぇ。私共も困るんですよねぇ」
ニヤニヤしながらせなの顔を覗き込む

(絶対助けた方がいいよね。でも助けるってどうやって。僕になんか...)

「今この状況を誰かにでも見られていたら、またお仕事が増えるんでねぇ。ご主人さまに怒られてしまいます」

(ご主人さまってなんだ?それに僕見てるけど...)

「さあさあ急ぎましょう!」
男(名はフロック)は両手を広げ焦点のズレた歪な目で又もや、せなの顔を覗き込む

(どうする!迷っている時間はないのに!あの人の事情(ここであったこと全て忘れてと言われたことについて)なんて分からないけど、警察に連絡するのが一番良さそうだな)

碧は屈んだ状態で急いでスマホをポケットから取り出し110に電話をかけようとする

(ビクッ!!)
碧は肩を背後からフロックに掴まれる

「おやおや、こんな所で何をしていらっしゃるのですか?」
「うわぁぁ!お前、お前誰だ?!(震える声)」
碧は近くの草むらに逃げようとするも恐怖のあまりに腰を抜かす

タキシードを着た謎の男(フロック)が、慌てて落とした碧のスマホを拾い上げる

「これはこれは、懐かしいですねぇ」
フロックはスマホで何をしようとしていたかを確認する

「フッ。そんなことした所で。別に構いませんが。あー。今回はやや面倒なことになりますねぇ」

(体が動かない!)
「な、何をしたんだ!」
碧の体はフロックの謎の力によって跪いた状態で体が動かなくなる

「このお方は、事が済み次第元に返させていただきますよ」
フロックはせなに近寄り、せなの顎を指揮棒で突き上げる

「しかし、これをお目にした貴方様には死んでいただきます」
指揮棒を碧に向ける

「あ、せっかくなので是非ご清聴なさってはいかがでしょうか。そろそろ始まりますよ」
フロックは指揮棒を手のひらで鳴らす

(僕を殺す?こんなことになるんだったら!一条さんを興味本位で追わなければよかった!)
碧は目に涙を浮かばせながら鼻水を少し垂らしている

楽器を持ったタキシード姿の22人が空気中から現れる

「ひっ!」
碧はあまりの怖さに声を漏らす

「さぁ素敵な眠れるコンサートの始まりです!」

ヴァイオリンやフルート・コントラバス・ハープの音が森の中を響かせている。音楽がなり始めたと同時に女が苦し始める

(一条さん!)
自分の無力さに唇を噛みしめる碧

すると指揮棒を振りながらフロックが碧の目の前まで歩み寄ってくる

「そんなに歪んだ顔して、リラックス♪リラックス♪し、て!」

グサッ。
振り回していた指揮棒で突然碧の右肩を刺す

「ぐわあああぁァァァ!」
碧は跪いたまま本来動けないはずの体が激痛で反り上がり口と肩から血がドクドクと流れ出る

「いい♪いい♪そ、れ!」

グサッ。
右足を刺す

「グッェ゙!」
(あぁ。訳、わかんないよ...。なんでだよ...)
抵抗する気力もわずかながらに残っていない碧は地面に頭から崩れ落ちる

「やめろ。私だけで、じゅう、ぶ、んだろ。うっ!」
せなは頭痛をこらえながらフロックに向かって弱々しく叫ぶ

フロックは、くるりと回り苦し紛れに話す一条せなへ近づく
「かばう余裕なんてありますか?そもそも、貴方様がここに居られるお陰で、彼もこのような事になってしまったのですよ?」

そしてフロックは地面にうずくまっている碧の惨めな顔を見てつぶやく
「ったく。見ていて反吐が出てしまいますね」

フロックは星の少ない夜空を尊く見上げる
「あー。先に終わらせるとしましょうか。最後の盛り上がりです!」
フロックは目をつぶり指揮棒を荒く激しく思いのままに振る

(意識が...。僕はほんとに死ぬのか...。死にたくない)
碧の重いまぶたが徐々に下がっていく

演奏は終盤に差し掛かり、音が鳴り止む頃には、碧も一条せなも眠りについた

「女の方は無事祓えたのですね」:フロック

せなは意識が消え木にぶら下がっている

「「はい」」:黒スーツを着た22人

「汚らわしい。後は、この男を殺すだけ。やはり人間という生き物は憎たらしいほど儚い」

グシャ。
刃と化した指揮棒が碧の胸を貫く

「では、さようなら。グフュグフュフュフュフュフュフュ」
肩を踊らせながらフロックと22人の黒スーツはせなを連れて跡形もなく何処かへ立ち去っていく。

その後、闇の中で一匹の黒い蝶が碧の頭を飛びまわり、どこかへと消えていく

〜碧の夢の中〜
(ああ、またこれか。僕が風邪を引いて寝ている時によく見る夢。まるで、海底の奥深くへ沈んでいくような感覚。)(ん?誰かの声がするな。)
「”#$’!(”#)$(%’#($#’」
「$”(#$#”()”#$(”!”#$%!#」
「#$%#(”’$”#($#”#$(”$%”」
「’#$#”&#’$$!’#?」
「&%$#%(’’&()(’&%$%&&’%」
「’&%$’((’&%(&(&%%$$’」
(よく聞こえない。ずっとこのままでいいのに……。)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

4時間後
「ここは…」

ベッドに寝ていた碧は重いまぶたをゆっくりと開く

(いつもの僕の部屋?!一体なぜ…うっ。頭痛がすごい。)
碧は頭を抑えながら体を起こす

(さっきの男は?!)
碧はとっさに窓の方を見る

(僕死んでいないし…いつの間にか寝てたみたいだけど…。夢というにはあまりにもリアルすぎる…)
ベッドの上で自分の存在を確かめるかのように手を閉じたり開いたりする

「カネ…」
枕元で寝ている猫のカネを撫でる

「碧ー。朝ごはんできてるぞー」
父が樹の下から朝一番の大声で呼んでくる

「はーい」
眠い目をこする

「ん?」
勉強机に見知らぬ掛け時計が置いてある

(こんな時計持ってなかったよな。一応父さんの家に持っていこう)

キュウィーーン。
触れた瞬間に床に亀裂が入る。その亀裂は渦を巻く

「え?ちょと!」
混乱状態の碧は何かにしがみつこうと模索するもそのまま亀裂に吸い込まれていく

「うわぁー!」

プッツン。
<碧の頭の中で何かがちぎれたような音がした>

碧は目を開けると夜空が見える
(ここは...。夜だ)(さっき朝になったばかりだよね...)
父と母が住んでいる家が目の前にある

(自分の家に戻ろう)
碧は自分の家に戻ろうと後ろを振り向く

(僕の家がない...。あれ?誰だろう...)
あるはずの碧の家がなく、そこには大きな岩があり、見知らぬ男と赤ん坊を抱いた女の人が座っていた。碧は近づく

「きれいだなぁ。どこか故郷に似ているな」:見知らぬ男

会話が聞こえてくる
見知らぬ男と女の視線の先には、夜空が無数の星で青く輝いており、満月が森と川を照らしている

「そうね。なんだか懐かしいわね。匂いも景色も」:見知らぬ女
「ああ。何事もなくここまで来れたのが本当に不思議だ」:男
「優君、この子の名前何にする?」:女
「あぁ、そうだな。あおい。碧でどうだろうか」:男
「いい名前ね。貴方の名前は碧。これからよろしくね」:女
「オンぎゃー。オンぎゃー。オンぎゃー・・・・・」
名前をつけられた赤ん坊が大声で泣き始める
そしてその瞬間、目の前の地面から種子が芽生え次第に大きくなり巨大な樹ができた。これが現在碧が住んでいる家の原型である

それを見た碧はいつの間にか頬が濡れており、その場で涙を拭っていた

キーーーーーン。
(耳鳴りが酷い)(あれ。風が吹いている?)

碧は閉じていた目を開く

(はっ!)
碧の目の前には草の生えた地面があり、ゆっくりと空に向かって遠ざかっていく

「?...ええええええ!こ!これ夢の続きだよね?」:碧
「違う。このままだと碧は死ぬことになるぞ」:カネ

碧は横を向くと、同じく空中に浮いたカネがいた

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