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在学中のもう一つの旅~フィリピンへの旅(2)~

 マニラには3日ほど滞在し、早朝に長距離バスで6時間以上かけて、北部のバギオへと向かった。快適とはいえない未舗装の道だが、郊外に出ると緑が眩しいほど鮮やかだった。バギオは夏の避暑地で大統領の別荘もあった。
 
 不安を感じつつマニラで紹介されたその宿に行ってみると、大きな公園のすぐそばで意外と小ぎれいな宿だった。宿の主人は先の戦争の記憶をポツリポツリと話してくれ、写真も見せてくれた。中心に一本メイン通りがあり、あちこちからアメリカンポップスが大音響で流れていた。教会や名所を散策した後、次に行くバナウエの山岳地帯の民家を再現した公園に立ち寄ってみた。記念写真を撮っていたとき、年配の女性と目が合い微笑みかけてくれた。しばらくするとそこにいた男の子が民族衣装に着替えて現れ、いっしょに記念写真を撮ってくれた。バナウエの宿が決まっていないと伝えると、ここに泊まるといいとメモを渡してくれた。

 この後訪れたバナウエは、バスでさらに6時間、イフガオ族が築き上げたライステラスで有名で、ぜひ行ってみたい所だった。紹介してくれた宿はペンション風で、スイス人、ドイツ人、そしてアメリカ人宣教師が滞在していた。


 翌日はあいにくの雨、同宿者とライステラスへのツアーに出発した。ジプニーで1時間余り、車窓からの眺めは、まさに熱帯の山岳地帯。まるで桃源郷のような美しい眺望が拡がっていた。この先は徒歩しかなく、緑豊かな田んぼの脇をひたすら下っていった。途中、制服を着た小学生たちとすれ違ったが、はにかむ表情が愛らしかった。幾重層にも織りなす棚田のもっとも低いところに学校とイフガオ族の民家があり、お土産を売っているすぐ隣で、カラフルな衣装で踊りを披露してくれた。少数民族の誇りと伝統を感じながら、来た道を引き返した。

 昼食の後、ジプニーの乗り場へと歩いていたとき、みすぼらしいボロをまとった女の子が、妹、弟といっしょに洗濯している姿に出くわした。キャッキャ言いながら楽しそうに洗っている姿は、微笑ましくもあったが、先ほどの子どもたちとの格差を感じざるを得なかった。おそらく学校には行っていないだろう。雨が降りしきる中、傘をさすこともなく一心に洗濯している姿は、この旅でもっとも印象に残った。

 バナウエを発ちマニラへと向かうバスの中で旅を振り返りながら、自分にできることは果たして何だろうかと考えた。そして3か月後、社会人になったのを機に、現地の子どもを支援する里親制度「フォスタープラン」に参加することを決めた。サポートの対象は、フィリピン・ルソン島南部に住む10歳の男の子だった。


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