あまり知られていない公立中高一貫の特性

愛知県が県立中高一貫の導入に踏み切った。対象校は明和、半田、刈谷、津島の4校。個人的に旭丘こそ校風と公立中のギャップが大きく一貫化に踏み切るべきだと思うのだけれども、ここでこの4つが選ばれた点はある意味セオリー通りというイメージであり、旭丘や岡崎が選ばれないのは仕方ないことである。

全国41都道府県で公立中高一貫があるそうだが、実のところその都道府県のトップ公立校が中高一貫化したという例はかなり限定的である。思いつく限りでは茨城、千葉くらいなもので、例えば東京都立トップの日比谷が3年制であるように、2位以下の学校が一貫化の対象校に選ばれて、トップ校はそのままというケースが標準的なように見える。

ひとつにはトップ校を大幅改変して失敗すると批判にさらされるといった当局担当者の心理的プレッシャーなどがあるのだろうが、実際問題として公立一貫校はそれほど有力校にならなさそうな性質がある。

考えてみてほしいが、中学生と高校生のどちらが遠距離通学に耐えられるだろうか?この点を考えてしまえば、後者と口を揃えて言うだろう。あるいは中学で下宿と高校で下宿、どちらがより抵抗感が少ないか?という問いでもいいだろう。高校受験で生徒を集めるエリート校であれば県に1つしか作らず、遠いところからも無理矢理通わせるとか、東海地方で言えば岐阜の白川村など、全国的にも僻地では割とよく行われているという下宿という選択をさせることも可能だが、元より異常に高い教育熱のある生徒を狙い撃ちする私立と異なり、費用面でもライトな公立中高一貫を選択する層はそんな無理をすることは少ない。

逆に言えば、公立中高一貫は遠方からの生徒が高校ほど見込めないので、学区を敷いているのと変わらず、遠方にいる成績上位者を固められないのである。逆に地元の成績上位層が流出する地域が選ばれるのである。

とすると、明和、半田、刈谷、津島という選択が読めるだろう。特に津島は名古屋市、一宮市に成績上位者を吸い取られる地域であるが、いずれの場合も遠距離通学になるわけで、一貫化によって地元で地元の成績上位層を育てたいニーズが高いと考えられる。「津島は進学校か?」などというコメントも見かけたが、逆なのである。中高一貫化は、進学校として疑問符のつくような学校に進学校機能を持たせる、地元集中策である。明和、半田、刈谷も旭丘や岡崎に最上位層を持っていかれる地域上位校である。

基本的にはこのような性質があるので順張りをすれば、成績上位層が分散するようになる、と予想できる。その意味で、旭丘や岡崎への成績上位者の流出が減ってしまい、これらの高校の実績が低下するおそれはあるが、新潟県の2010年代の実績を見る限りは必ずしもそうはならず、むしろ以前からの伝統的トップ校の新潟高校を強化したことになったという。

公立中高一貫でトップ校を対象に選んだ千葉県の事例では完全に県千葉が渋谷教育学園幕張中高に負けてしまった。茨城県では県内中高一貫校の江戸川学園取手と県立の一貫校の並木では並木に軍配が上がったが、成績上位者の県外流出に歯止めをかける意味での中高一貫整備が成功するかと問われると、今のところよく分からない。一貫化直前期の流出が著しかったことと、県南部での成績上位層の分散がかなり進んでしまっていたことは見えつつあるが、一貫化の結果は、一貫化してから6年経たないと分からない。ただ、地元民の感覚としては劇的な変化は無さそうである。

一貫校はエリート志向、教育レベルが高くなる、と考えられがちだが、その実生徒が分散して、高校ではむしろ高レベルな生徒の密度を下げかねない、庶民派の策なのである。

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