各都道府県別進学校事情(北海道東北編)

進学校の分布は教育環境という意味で興味を持つ人も一定数いるだろう。ただ、関心を持つのはいいとしても、トップレベルの学校に実際に通うことができるのは数少ない。そこで、各都道府県の各地域で最上位の学校だけではなく、地元の国公立大学ならある程度合格できるという水準の普通の進学校(たびたび「自称進」と言われるが現実的な進学機能を持つ学校である)も含めて紹介する。

北海道

日本の都道府県で唯一道を名乗り、東北地方全県合計よりも面積が広い上に、人口的には都道府県別ランキングでは群を抜くようなことにならないことからわかるように、人口密度が低い地域である。しかも、中心都市である札幌市を除けば人口が分散していることから、交通網も札幌周辺以外は公共交通は弱いと言わざるを得ない。したがって、進学校は札幌周辺のみ都市型の性質が見られ、それ以外は過疎地域の特徴が強い。

札幌周辺は都市型ではあるが、名古屋と類似した、公立上位校を中心としたタイプである。すなわち、札幌南、札幌北、札幌東、札幌西、札幌旭丘といった通常の公立高校を基本としつつ、札幌開成のような公立一貫校、北嶺、立命館慶祥をはじめとする私立校もある。各学校同士は役割分担が学力ならびに校風によってなされていると見られる。その詳細については地元の塾や、進学実績、出身者ならびに現役の高校生等へインタビューするなどをして知ってもらいたいところではあるが、灘や開成というような水準で東大合格可能レベルの生徒が学校全体に占めるような学校こそないものの、「成績下位層の一部を除けば現実的に北大合格可能」という、地元最難関大学に自然に行ける環境を構築する程度には成績上位層を集積させている学校(札幌南、札幌北)があるのが札幌の特徴である。

実際、トップに当たる札幌南高校は東大16名、京大23名、国公立医学部52名と言うことで、これらの学校に合計して88名(重複除く)合格ということで、成績上半分であればある程度現実的に東大京大医学部ないし、これらに次ぐ一橋、東工大や旧帝大が現実的であると考えられる。

札幌周辺では北大に次ぐ大学として道教育大や小樽商科大学が上がる。これらが「地方国立大学」の役割を果たすため、こちらの合格実績を見ると、札幌国際情報、札幌新川、札幌月寒、札幌手稲、札幌藻岩、北広島の公立校と、札幌光星、札幌第一、北海の私立校が両者に2桁合格をしており、上述の札幌市内の上位校も概ねこれらの大学には2桁合格をしているが、唯一札幌南は小樽商科5名、道教育大5名と、札幌南のレベルからするとこれらの地方国立大相当では大半の生徒が物足りないと考えるのだろう、ということが見て取れる。

一方、札幌都市圏の外では地方都市にある程度の公立進学校が一定の集住がある都市で成立している。すなわち、旭川の旭川東、小樽の小樽潮陵、岩見沢の岩見沢東、釧路の釧路湖陵、帯広の帯広柏葉、室蘭の室蘭栄、苫小牧の苫小牧東、北見の北見北斗、函館の函館中部である。私立校も函館ラサールや、藤女子など比較的健闘する学校もあるが、現状では札幌都市圏を除けば公立進学校が優位にあるといえる。

これらの地方都市のトップ公立進学校の進学実績を見ると、東大や京大は年間数名程度であり、成績上位層を含めても北大を中心に考えているように見える。北大にはこれらの公立進学校で一番実績のある旭川東で2021年には41名合格し、国公立医学部に15名合格といった数字を踏まえると、おおむね上位2〜3割程度は北大など旧帝大クラスの大学が現実的だろうが、さすがに下半分くらいまで回ってくると(特に旭川東以外だと)北大は厳しいのかな?という印象を与える。もっとも、当該学校内部の雰囲気を実際に知らないことには適切な判断ができないため、詳細は地元で当事者になった場合に関係者に聞くなどしてほしい。

旭川では旭川東がやや上位校なこともあって補完する旭川北や旭川西も道教育大進学者が2桁いるが、概ね都市規模が小さいため、大体の地方都市では都市内2番手校でも国立大学は上位層でないと厳しいという水準であり、数字だけ見ると、国立大学や相応の大学に行きたいのであれば、地域内2番手校であればある程度の上位成績がほしいというところだろう。

上記学校に通学が困難な地域もあるが、そのような場合は寮のある学校等を選んで下宿するか、進学校という選択を諦めて地元の学校にすることが多く、定常的ではないものの地方の普通の高校から北大などの大学に合格者が出ている学校も少なからずある。

東北地方

概ね似たようなサイズの県が並んでいる地域であり、進学校分布の性質も比較的類似している。とはいえ、宮城県は仙台市を抱えていることからやや特異的であり、また、青森県と福島県は歴史や地形的な経緯から進学実績を県内の地域ごとにある上位校で分散、岩手県、秋田県と山形県は抜群の実績を誇る県内トップ校が1校だけあり、2位以下の学校が各地に分散する形態をとっている。

宮城県については仙台第二、仙台第一、仙台二華の3校が特に目立っている。東大や京大志望の最上位層を特に集めているのが仙台第二、東大や京大を狙う層は少ないが、東北大に集中的に合格実績をあげている仙台第一、両者をふくめ比較的幅の広い層を輩出する仙台二華といった具合である。

仙台第二は東大13名、京大11名、国公立医学部46名と合計70名であり、成績上位半分であれば東大京大医学部や、それらに次ぐ一橋、東工大なり、地元東北大の合格が現実的な環境であると推測される。(実際には関係者に調査してください。)

仙台市内には他にも仙台第三、宮城第一といった東北大合格実績の多い高校や、旧帝大に一定の合格実績を持つ仙台青陵もあるが、仙台市外では2021年に東北大に2桁合格の実績を持つ学校がない。上位大学進学は仙台市内の公立各校に任せ、地元では地方大学すなわち山形大あたりをある程度まとめて合格できる程度の学校を作っているというようで、公立で石巻、多賀城、古川、古川黎明および、私立の聖ウルスラ英智、仙台育英が山形大学に2桁合格の実績をあげている。

青森県の場合は弘前、青森、八戸の公立3校がそれぞれの地域のトップ校であるが、県下で分散しているため、いずれの高校も東大合格は1桁である。このように3校に分散するのは地域を跨ぐのが不便な上にいずれの地域も特段に強いわけではないことによるもので、良くも悪くも独立した階層構造がある。そうした階層のトップがこの3校である。

弘前高校を例に実績を見ると、定員240名の高校で東大2名、京大2名、国公立医学部18名の合計が22名である。確かに東北大学で37名、弘前大71名ということから、地元志向が強いところが垣間見えるものの、「上半分にいる」程度では東北大はまだしも、東大京大医学部レベルはさすがに厳しいのではないかと推測される。(実際には関係者に尋ねて確認してください。地元志向が強いだけという可能性も当然あり得るので。)

ただし、普通に考えれば、こうした学校でも遠いと言う場所は少なくない。こうした地域では、要求を下げるほど遠距離通学しなくても済むわけで、より小さな地域の独立性が見えてくることがある。弘前、青森、八戸の次にくるのはさらに細かいところでやや独立性が出てくる五所川原、三本木、田名部、三沢といったところだろう。一方で、こうした小規模の地域に区分した立場からは「特別」になる弘前、青森、八戸の各地域には、そういった特別な地位の学校は入学難易度が高いため、2番手校が存在し、そのような2番手校は独立した地域の進学校に匹敵する実績を持つ。実際、青森東、八戸北、弘前中央の3校は弘前大学に2桁合格実績を持つ。

青森県の私立で有力校はほとんどないが、東北大および弘前大の合格実績で県立上位校に並んでくるのは東奥義塾くらいである。

次に福島県であるが、福島市周辺で県立福島、郡山市周辺で安積、いわき市周辺で磐城の3校が抜群である。ただし、分散していることが効いて、青森県同様東大合格実績は1桁である。東北大合格実績はこの3校でやや異なり、福島が35名いるのに対し、安積は24名、磐城は11名である。理由の一つとして福島は電車で1時間ほどで仙台まで通学可能だが、他の地域からは仙台まで出にくいといった地理的特性が影響しているのではないかと考えられる。

他県同様にこれらの学校の環境を進学実績から一応推測する。県立福島で東大6名、京大3名、国公立医学部11名の合計が20名。県立福島の場合は東北大に電車通学可能な環境な地域を通学地域に含んでいるが、東北大に35名合格とそれほど多いわけでもなく、定員320名だからやはり東大京大医学部合格はかなりの上位成績でないと現実味は少ない環境と推測される。

青森県と違ってレベルを下げると地域の細分化が進む傾向はあまりない。すなわち、これらの3校に次ぐ進学校で、これらの学校から距離が遠い学校は会津と白河くらいである。会津は福島大学に22名合格、白河は20名合格しており、会津地域と白河市周辺をカバーしていると見られるが、この水準の進学実績を見せている学校は、安積黎明、福島東、また、これにやや劣るも比較的実績のある学校が磐城桜ヶ丘、郡山、郡山東、福島西といった形で、地域の分割以上に、特別な3校を補佐する学校が軒を連ねる。

私立は日大東北、福島成蹊の2校が福島大学に2桁合格を挙げているが、やはり目立った進学実績を上げる学校はなく、公立王国といって差し支えないだろう。

秋田県は単純でわかりやすい。すなわち、県全体でダントツの実績を誇る秋田高校だけがほとんど東大合格実績を独占し、県全体で2021年に13名合格している中で12名が秋田高校出身である。また、東北大学についても、他校がなかなか2桁合格できない中で2021年48名合格という、やはり圧倒的な地位にある。

定員280名の秋田高校ながら、東大12名、京大4名、国公立医学部27名の43名が合格しており、東北大48名であるため、福島や青森と比べると上位成績者が集中しているとわかる。15%の生徒が東大京大医学部に合格しており、上位5分の1ないし4分の1くらいまでならば、ある程度現実的に東大京大医学部を検討できるのではないだろうかと推測する。

さすがに県域全体では地元で進学需要をカバーしたいというところもあり、秋田高校に次ぐ地位の高校が各地にある。具体的には大館鳳鳴、大曲、能代、本荘、湯沢、横手の各校と、市内の秋田高校を補完する学校としての秋田南、秋田北、秋田中央がある。このうちやや実績が高いのは横手と秋田南で、横手は東北大に12名、新潟大に17名、秋田南は東北大に9名、新潟大学に29名の実績をあげるが、他校は東北大や新潟大は1桁合格が基本であり、秋田大に20名程度の合格実績をあげる、「地元国立大志向」に応える学校となっている。

秋田県は全国で最も私立高校の地位が低い県である。手元にある情報で秋田大学に2桁合格した高校はなく、過去70年間で東大合格者は唯一明桜から1名のみという状況である。

ついで山形県。山形県は強固な学区制度が現在もあるが、秋田県と並んで一校の公立校が卓越し、私立が弱い県である。すなわち、山形市の山形東高校が10名というギリギリではあるが、東大2桁合格実績をあげ、東北大も他校が二桁をなかなか出せない中で45名合格である。

山形東だが東大10名、京大3名、国公立医学部21名と合計34名。定員は240名のようなので、やはり秋田高校と同程度に上位1/5ないし1/4くらいの生徒は現実的に東大京大医学部が見えるのではないだろうか。

とはいえ、山形市内に通いづらい遠方にも進学需要があり、それらに応える学校はあって、酒田の酒田東、新庄の新庄北、鶴岡の鶴岡南、米沢の米沢興譲館、長井、寒河江の6校は東北大に複数名の合格実績がある。また、山形市内には山形東を補完する山形南、山形西の2校に複数の東北大合格実績がある。さらにこれらを補完する山形中央、山形北も2桁の山形大学合格実績があることから、山形市外の「地域の進学校」の大半の生徒と同程度の学力水準の生徒はこれらの2校にも進学しているように見える。

山形県も私立校は弱い。東北大学合格実績は日大山形が3名挙げているが他になく、山形大学合格実績が二桁なのは先述の日大山形と米沢中央の2校である。これらには一定の学力上位層の流入があると見えるが、東京や高知のように私立が公立校を大幅に上回る地域にお住まいの方からは想像もつかないほど公立校が強いことは疑うまでもない。

岩手県も傾向は類似している。すなわち、盛岡第一が東大の合格をほぼ独占(といっても8名だが、他校は1名出した学校が2校だけ)し、東北大で他校が2桁になかなか到達するのが難しい中で44名合格するという突出ぶりである。

盛岡第一は東大8名、京大1名、医学部20名の合計29名で、定員は280名。秋田や山形東と比べて東大京大医学部の占有率は低く、東北大44名を考えても、学校全体で現実的に東大京大医学部を考えられる割合はやや低いように思われる。

当然全国第二位の面積の岩手県で盛岡だけというわけにはいかないので、他地域の進学校もあるにはあるが、東北大に2桁合格できたのは盛岡第一を含めても、一関第一と盛岡市内の盛岡第三の3校にとどまる。これ以外の学校の地位は概ね「地元国立大学にはある程度まとまって生徒を送る」というもので、岩手大学合格実績が二桁あるのは上述の3高の他には、公立では大船渡、久慈、黒沢尻北、不来方、花巻北、福岡、宮古のほか、盛岡市内の盛岡第二、盛岡第四、そして私立の盛岡中央となる。これからもわかるように、岩手県も例に漏れず私立高校の地位が低いことがわかる。

まとめ

北海道東北地方の進学校は公立の3年制高校が中心である。公立で一貫校を設立している場合もあるが、その場合には3年制の伝統校の地位が高いため一貫校の地位はそこまで高くはなく、札幌市である程度の実績をあげている例があることを除けば中高一貫校は成績上位層においてなおあまり浸透していないことがわかる。

札幌市仙台市を除けば人口が少ないこともあり、中央の高いレベルの大学にたいして、その学校の平均的な学力の生徒が現実的に受験できるようなレベルの進学校を作るには、多少無理をしてでも広域から生徒を集めるよりほかない。地域住民及び道県の教育委員会の判断として、そういったハイレベル進学校を無理してでも作ったのが秋田、山形、岩手であり、逆にそのような意味ではややレベルが落ちるものの、県土に分散させる選択をしたのが青森と福島である。

どちらがいいかの判断は難しい。中学生時代の私からすれば、平均的な学力でも高いレベルの大学に行けることはものすごく魅力的に映ったので、「秋田、山形、岩手の方がいい」と考えるだろうが、現在の私からすれば中央の大学にそこまでこだわるべき合理的な理由を持っている生徒もそれほどいない気がするし、進学校調査はすればするほど、進学校というものがただ成績上位者を集めているから実績をあげているだけで、もともといい大学に行ける生徒は、別にこの程度の違いには何ら影響されず、どこからでも行きたい大学に行けると思うので、だったら県土に分散させた「青森、福島の方が正しい選択ではないか」、とおもう。

ただ、どちらの類型であっても、地方国立大学にまとまって合格者を送るというのであれば、ある程度各地に分散して存在している。県に1つレベルのハイレベル進学校であっても中央の難関大学に実際に行ける水準の学力のある生徒が多数派を占めることはまずなく、大多数の受験生の視点を考えると、最終的に地方国立大やMARCHあたりを選ぶのだが、学校内に一定の中央志向を持つ生徒がいる環境に少しボーダーが上がることと遠距離通学を覚悟で選ぶか、ボーダーが下がって近くの学校になる分だけ、校内でやや上位成績を求められる高校にいき、そしてその場合には大方中央志向の強い人が少ない環境になるか、ということであろう。

次回は関東地方を予定しているが、関東は人口密度の高い南関東と低い北関東というざっくりとした分け方ができる。かたや札幌でみたような傾向をより強化する形を見て、かたや東北地方的な見方ができる。

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