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‐Episode.000‐ Case of Rain Drops

ふぅ…っと息を吐いて、マウスをクリックする。

しばらくするとモニターには愛のあるコメントで溢れかえる。

配信を始めればたくさんのリスナーさんが配信を視聴して、6人が盛り上がればコメントも一緒に盛り上がる。

時にはストッパーのいない、収集のつかない配信になっちゃったりして。

でもそんなのもおもしろいよねと最後には笑いあって終わる。

​──​──​─それが唯花の理想だった。

しかしモニターに映るコメントには批判的なものばかり。閲覧数も先週より遥かに少ない。

6人のグループに

『本当に大丈夫かな?』

という不安のメッセージが送られるほどだ。

Rain Drops​──​──​────​通称“れいどろ”が活動を始めてから、何ひとつ上手く行っていない。

動画数に対して閲覧数や高評価数、チャンネル登録者数も明らかに少ない。

数字だけがすべてではないから、自分が楽しく活動できればそれでいいと最初はそう思っていた。

しかし日々募る寂しさと、れいどろと同時期に活動開始したグループが知名度を上げる度に虚しさが胸に広がる。

唯花は今日もダメだったかと諦めモードに入る。

『皆さんこんばんはー!私たちはRain Dropsです!』

『本日は毎週恒例の公式生配信!まずメンバーを紹介しましょうかね!』

自分でもつまらない配信をしているのは分かる。しかし、どうすればいいか分からない。

メンバーを集めたのは、れいどろを結成したのは、唯花だから。

れいどろが有名になれなかったら、批判的なコメントを受けたら、唯花のせい。

ずっと唯花は1人で抱え込んでいる。

事務所に所属していないため、何事も自分たちでやらなくてはいけない。そんな責任感から、唯花は早速胃が痛くなっていた。

『それじゃあそろそろ配信は終わるねー!』

予定よりも1時間も早いが、閲覧数も少なくコメントもあまりなかったため配信を長引かせるのも無駄だと判断したのだ。

「えぇ〜もう終わっちゃうの!?寂しいなぁ…♡」

「そうだね。みんなとお話できないのは寂しいけど、また来週もお話できるからね!」

「そうね。それに個人配信はいつでもできるものね」

そうやってメンバーはフォローしてくれているけれど。

どうしても胸のモヤモヤを捨てきれずに、不完全燃焼のまま配信を終わらせた。

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