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‐Episode.001‐ Case of Yui

配信が終わり、いつものように唯花は反省会を始めようとする。しかし​──​──​────。

「あ〜ごめん!あたし今から夕飯作らなきゃ!」

『たしか今日は家に1人なんだっけ?』

「そそ!だからごめんね!」

たしか舞美は、叔父と叔母が帰ってくるまでに夕飯を作らなくてはいけないと言っていたっけ。

叔父は毎日仕事に行っているが、今日は久しぶりに叔母も仕事が入ったようだった。

「私もこれから予定があるからごめんなさいね」

と、花音譜に丁寧に断りを入れられた。

『他の人はどう?』

「わたしは全然大丈夫だよ?」

「「…………」」

瑠愛子は答えてくれたが、咲南花や綸音からの返事はない。これも、いつものことだった。

唯花はこの不仲ではないが、仲が良いわけでもないこの雰囲気が苦手だった。

メンバーの過去の話や得意なこと、苦手なことなど、

メンバーのことは知り尽くしているのに、どうしてこんな空気になってしまうのか。それが悲しくてたまらなかった。

『じゃあ今日は解散しようか』

「は〜い!お疲れ様〜!!♡」

「お疲れ様、ばいばい!」

「じゃあまたな」

解散といわれた瞬間、みんなの声のトーンが明るくなる。それが悲しくて、苦しかった。

でも、それを誰にも言えずに唯花は1人で抱え込むしかなかった。

『……みんな、すぐに抜けちゃった』

グループ通話には唯花しかいない。たった1人というその環境がとても寂しかった。


れいどろに対する熱意というものは、他の人と違うのだろうか。

唯花は自分の人生を懸(か)けてまでれいどろの活動に取り組んでいる。だから数少ないコメントにも真摯(しんし)に向き合っている。

しかし他の人はどうだ。唯花がれいどろの今後について話している時に、5人は何を考えているのだろうか。

学校では、食事中には、寝る直前には、何を考えているのだろうか。

グループ活動は1人では完結できない。まして事務所に所属していないと、メンバー同士の意思疎通は不可欠だろう。


家にも学校にも居場所のない唯花がようやく見つけた唯一の居場所。

何度も何度も壊されて、ようやく完成したグループなのに。

こんなにも孤独を感じてしまうのは、こんなにも不完全燃焼なのは、いったいどうしてなのだろうか。

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