夢を見ている。これは夢。



38℃の体温、喉を焼くチョコレートの甘さ、脳がどろどろに融けるような感覚。糖衣錠が散らばった部屋。

こびりついた記憶が、脳から瞼の裏へと飛散してくる。


電車の発車アナウンスが頭の中で反響している。

島式ホームでうずくまる。眠気、眠気、

いつか読んだ本で、癇癪もちのアリューシャは……



終電が来た。


掌ではヴォルビックのボトルが、異常気象に曝されて温くなっていた。半分以上余したそれをホームに置き去りにして、改札を抜ける。


Suicaのチャージ残高は?

その薬の規定用量は?耐荷重量は?血中酸素濃度は?今日の日付は?昨日のナイターの先発は?あなたは誰?わたしは?苦しい?眠ってしまうの?








視界が開ける。

と、同時に得体の知れないむなしさが、安酒混じりの胃液となって喉の奥に混み上げてきた。

遠く、ロビーからおやつ時の喧騒が聞こえる。カーテンで仕切られた狭い天井、見知った病室だ。


いつのまにか眠ってしまっていたらしい。



「休んでたんだね、ごめんね。検温していい?」


「……はい」



なにかの夢の続きを見ていた。

いつか見たことのあるような気がしてならないが、中身はよく思い出せない。


ただ、悪い夢であったことは確かだった。



38℃の体温。

なにか大事なことを思い出せそうな気がしたが、なんとなく思い出してしまったらなにかが終わってしまうような嫌な気分でもあった。


きっと、熱にうなされて見た幻想かなにかだろう。そういうことにしておこう。

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