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『UNDER COVER』2話

○コンカフェ・店内・昼
「お帰りなさいませおぼっちゃま」
「おぼっちゃまはやめてくれ」
山頭火は再びコンカフェを訪れていた。
「お久しぶりです。この間はありがとうございました」
アイドルの卵、Saiに声をかけられる。本当なら呼ばれてもコンカフェには行かないが、今日はどうしても行かねばならない理由があった。
「あちらでお待ちです」

○コンカフェ・ダブルフェイス・店内・奥の部屋
Saiに案内されると奥には1人の女性がいた。前回助けたチヨだった。
「種田さん!この間はありがとうございました!」
「ど、どうも」
モテない山頭火は美女からのお礼に舞い上がってしまう。頭の中は、この後告白されたり、お礼にデートへ誘われる妄想でいっぱいだ。
「あとチヨさんから、もう一つ話があるそうです」
「聞きましょう」
「多分君が期待しているようなのじゃないと思うよ」
店長がそっと耳打ちをしてくれる。
「な、何も期待してねーよ!っていうか店長なんでいるんだよ!」
「自分の店にいるのは当たり前だろ。人手不足だし」
チヨは店長が来た瞬間にこわばっていた。どうやら聞かれたくないらしい。チヨがなんの話をするか、薄々気がついているようだ。
「僕からのお礼はまた後日させてもらうよ。今日はごゆっくり」
店長は席を外し、裏へと戻っていった。
「神出鬼没だな。あの店長は何者なんだ?」
「さぁ。スタッフもあまり詳しいことは知らないんです。元々芸能関係の仕事をしていたようで、この街の裏側にも詳しいらしいです」
「(俺の父親や兄貴のことも元々知ってたのか?)」
「あの…」
チヨが改めて切り出す。
「実は今日一つお願いがあって。種田さんがすごく強くて頼りになるので…友達を助けてくれませんか?」

「私のオタ友が、知り合いに誘われてバイトを始めたんですけど、それがどうやら闇バイトだったらしくて」
闇バイト
ネットやSNSで求人を出し、犯罪行為の一部に加担させる行為。
お金を引き出すだけ、受け取るだけ、薬物を運ぶだけなどを何も知らない人たちに行わせ、指示を出している犯人たちは捕まらないようにする手口である
チヨはスマホで2枚の写真を見せる。美人な女子大生と理系っぽい男性が写っている。
「友達のいずみと、その知り合いの越智くんです。最初に運転免許証の写真を撮られてて、闇バイト辞めたくても、家まで行って殺しに行くぞって脅されてるそうなんです」
Saiは思わず口を挟む。
「それは脅迫です!今すぐ警察に行った方が良いのでは?」
「私もそう言ったんですけど、自分が捕まる可能性もあるから警察に言うのをためらっているらしいんです」
「だからって危険です」
Saiは納得できていないようだ。
「山頭火さんのお兄さんは警察の方でしたよね?お兄さんに事情を話して、匿ってもらうことはできませんか?」
「うーん警察に言うのと同じにだと思う」
「何か方法はないでしょうか?」
「せめて身分証のデータを消せたらな。けど相手が大きい組織なら、それでも抜けられないかも」
美女の力になりたいが1人で組織と戦う危険さもわかっていた。
「すごい怖い人に脅されているそうなんです。闇バイトの担当者はショウって呼ばれていて、口と耳がピアスで繋がってる背の高い男性だそうです」
ショウという名前に、山頭火は反応した。それにSaiが気が付く。
「心当たりがあるんですか?」
「学校の先輩だよ、多分…」
山頭火は何かを決めたようだ。
「わかった。この件調べてみるよ」
「あ、ありがとうございます!」

○コンカフェ・メイクルーム
山頭火は誰かを探しているようだ。半グレ調査のために、また変装道具を借りるつもりらしい。しかし部屋には誰もいない。
「なーにしてるの?」
「うわ!」
背後には店長が立っている。
「誰か探しているのかな?衣装の大木ならこの後来るよ」
「へ、へーそうなんだ。いや道に迷っちゃって」
山頭火は立ち去ろうとする。
「ショウという男のグループなら知ってるよ」
店長からショウの名前が出たことに驚く。
「まだできたばかりの小規模なグループだ。ショウという男がトップで、暴力団の後ろ盾もないはずだよ」
「店長が客のプライベートを盗み聞きかよ」
「店内で犯罪行為の相談は困るからね」
「どうするんだい?依頼人を、いやショウという知り合いを説得しに行くのかい?」
店長は全てをわかった上で聞いているようだ。
「止めるのか?」
「いや。この店は若者を応援する場所だからね」
「ただ危なくなったらすぐ逃げること。自分の安全を最優先にするんだ。君たちはまだ未来のある若者だからね」
「わかったよ」

○駅 出口
駅の待ち合わせスポットに、チヨのオタ友女子大生いずみと、その友達の越智がいる。
いずみも越智も地味で控えめな格好だ。越智の方はいかにも騙されたりカツアゲされてそうに見える。
少し離れたところに、大きなリュックを背負った山頭火もいる。帽子を被り、顔は見えないようにしている。
「とりあえず配達員っぽく変装したけど、大丈夫だろうか」
組織を探るため、2人の協力の元、尾行してアジトを探ることにした。
ワイヤレスイヤホンをつけ2人と隠れて通話もしている。
「大丈夫よ。うちの学校にもたくさんいるわ」
チヨもグループ通話にいる。Saiも一緒にお店で待機してくれている。
「もしもし山頭火さんですか?」
いずみも通話に参加している。声は震えている。
「大丈夫です。近くにいます」
いずみの方へ合図する。
「よろしくお願いします。今日は私たちのためにありがとうございます」
「よ、よろしくね…」
モテない山頭火は女性と電話するのも初めてだった。耳から聞こえる声にもドキドキが止まらない。
「こっちは越智くん。飲み会で知り合って、バイト探してるって言ったら、ちょうど紹介してくれて…」
「すみません紹介した仕事が、まさかこんなことに」
「しょうがないよ。越智くんの方がたくさん呼び出されて大変だよね」
2人は慰め合いながらいい雰囲気になっていく。モテない山頭火はただそれを聞くしかなかった。

フリーターのような見た目の男性が、2人に近づいてくる。
「リンゴちゃん?」
「は、はい。リンゴです。小人さんですか?」
男は、黙っていずみに鍵を渡し、すぐ去っていく。2人も移動を始める。
「追いかけます」
「何を受け取ったの?」
「コインロッカーの鍵です」
いずみと越智は反対の出口にあるコインロッカーに着き、扉を開ける。
「ここで新しい指示が書いてあります。越智くんは大きなカバンを持ってアパートへ、私は小さいバッグを持って駅に戻れって」
「…アパートがアジトかもしれない!そっちを追いかける!いずみさんは荷物を渡したらすぐコンカフェへ戻って!」

越智が向かう場所は駅から距離があるようだ。その間にいずみは荷物を無事駅で受け渡し、コンカフェへ戻った。
「怖かったよ」
「無事で良かった」
チヨといずみの安堵の声が聞こえる。
「お嬢様、こちらにハーブティーを用意しております。心が落ち着きますよ」
「えっありがとうございます(トゥくん)」
なぜか電話越しにいずみが恋に落ちる音が聞こえてくる。
「ちくしょう!またSaiに持ってかれてる!」
Saiはキャストとしてお客さんに接しているだけだが、イケメンすぎてすぐ惚れられてしまう。
「なんで俺はまた変装して男を尾行してるんだよちくしょう」
越智は街からかなり離れた建物へと入っていく。10階以上はある、古めのアパートだった。
「きゅ、906号室です。バレたらまずいのでイヤモニ外します」
「わかった」
越智はエレベーターに乗り、山頭火は階段をダッシュで登る
9階にたどりつくと、ちょうど越智が906号室に入っていくのを見えた。
部屋の近くまでいき、聞き耳を立てる。
しばらく無言が続いた後、急に怒鳴り声と叩く音が聞こえてきた。
「…ああ!?……な………んだ………!」
「まずいな」
「どうしたの?」
「部屋の中から怒鳴り声が聞こえる」
「そんな!越智くんは!?無事なんですか?」
部屋から聞こえてくる怒鳴り声は止まらない。
「作戦変更だ。行ってくる!」
「山頭火くんあぶな」プッ
通話を切る。山頭火はリュックから何かを取り出し、チャイムを鳴らす。

○アパート906号室・室内
中には半グレの男が3人と、殴られている越智がいる。部屋は散らかっており、通帳やスマホなどが散乱している。
ピンポーン
半グレの1人が越智を睨みつける。
「おい、まさかお前、チクったんじゃねぇだろうな」
越智は震えながら首を横に振る。
ピンポーン
「宅配便でーす」
女性の声が聞こえる。1人がドアの覗き穴から見る。ポニーテールで帽子を被った宅配員が見える。
「荷物を受け取れ」
「はい」
リーダー格の男が、もう1人に越智の口を塞ぐよう指示する。
「開いてるよ姉ちゃん…ぐえ!」
宅配便を受け取りに行った半グレが、リビングまで蹴飛ばされる。
女装した山頭火が部屋に入り込む。
敵は残り2人で凶器も持っていないようだ。
「テメェやっぱり警察に」
山頭火はダッシュで越智の横の半グレに近づき、一撃でダウンさせる。
帽子がとれ、山頭火の顔が見える。顔つきから男だとわかる。
「お前、さっきの声…は…?」
山頭火はスマホを取り出して声を再生する。大木に教えてもらった、女性の声で好きな言葉を言わせられるアプリだ。
「この人は連れて帰ります」
「このクソ女装野郎!」
リーダー格の男は、机の上にある刃物を握ろうとする。
「おい」
山頭火が凄む。急な太い声に半グレはびびる。
「素人がそれ(凶器)を使うんなら、容赦しねぇぞ」
半グレは震えている。山頭火の背後に、刺青のような龍や虎が見える。もしこの刃物を握ったら、自分が殺されると感じてしまう。

「おいなんの騒ぎだ」
奥の部屋から別な男が出てくる。背が高く、口と耳がピアスで繋がっている。
「ってお前山頭火じゃねぇか」
「…ショウくん」
「お前もやっとうちの組織に入る気になったか?」

終わり

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