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『UNDER COVER』1話

『UNDER COVER』1話

◯悪徳コンカフェ・店内
コンセプトカフェの店内では、男性のキャストがライブをしている。ホスト風イケメンキャストの歌声に、女性のお客さんたちは釘付けである。
その中にサイリウムを振りながら泣いている女性(?)がいる。
「(アイドル、アーティスト、モデル、俳優、Vtuber。新時代のモテる男になりたい)」
「(なのになんで俺は女装して、イケメンアイドルのステージを見てるんだ?)」

タイトル
『UNDER COVER』

◯スタバ風のおしゃれなカフェ
「君、クビね」
突然店長から解雇を告げられて、種田 山頭火(16)はショックを受ける。
「なんで?真面目に働いているし、新メニューだってしっかり覚えてるのに!」
泣いている女の子が店長の横にいる。
「挨拶しかしてないのに、急に好きだとか言われて」
「この一ヶ月で君から告白された、キモいメッセージが送られてくると全女性スタッフから苦情が入った」
「あんな俺に優しくしてくれてたのに!俺のこと好きだったんじゃないの!?」
「んなわけねーだろ!そもそも視界に入ってねぇんだよ」
山頭火は女の子から罵声を浴びせられショックを受ける。
「出てけ」
店長に店から締め出された。

◯街中・路上
山頭火は店を追い出され、沈んだまま街を歩いている。
繁華街の街で、若者もサラリーマンもいる。別な喫茶店には放課後にデートしている学生もたくさんいた。
「そんな…高校生になったら、おしゃれなバイト先で可愛い彼女を作れると思ったのに」
頭の上には、ヤンキーだった中学時代の苦い思い出がフラッシュバックしている。
男だらけで喧嘩三昧、女子生徒には怯えられて、一度も話すこともできなかった。
「モテるために髪型変えたり清潔にしたりしてるのに!」
トボトボ歩いていると、小道の奥から、揉めている声が聞こえる。
「はっ!美女のピンチ?」
期待して振り返るが、3人の若いチンピラ風の男たちに囲まれていたのは、背の高い男性だった。
「やめてください。お店に迷惑かけないでください」
男性は端正な顔立ちで、彼の顔の周りだけ空気が煌めいているようだった。
「なんだ男か。しかもタッパもあるみたいだし、まあなんとかなんだろ」
「おらぁ!」
チンピラたちは店のものを蹴飛ばしたり、イケメンを殴ったりしている。
「お願いです。お店だけは」
イケメンは身を挺して看板を守っている。とても大切なもののようだ。
やり返さないイケメンにイラついてくる。クビになったばかりなので尚更イライラが止まらない。
「おい」
「あっ?」
「1人相手によってたかって何してんだ!」
山頭火はチンピラをボコボコにする。3対1だが、敵は全く相手にならない。
「げっ!こいつは花園中の山頭火だ!喧嘩が強くてモテないで有名なやつ!」
「殺すぞ!」
「ヒェー!」
チンピラたちは逃げ帰って行った。
「なんでモテねぇのバレてんだよちくしょう」
「あの」
立ち去ろうとする山頭火はイケメンに呼び止められる。
「よかったらお礼をさせてください」
助けてくれた山頭火への感謝で、イケメンのオーラは一層キラキラしていた。

◯コンカフェ・店内
「おかえりなさいませお嬢様」
「なんだこの店は」
店内はソファ風の椅子などが置かれ、明るい内装になっている。ちょっとレトロな喫茶店のような、落ち着いた雰囲気があった。
各テーブルでは、執事の格好をしたイケメンキャストたちが、女の子をおもてなししている。
「素敵なお召し物ですね、お嬢様」
「いけませんお嬢様。チェキは1人一枚まででございます」
山頭火はお店で一番良さそうな席へ案内されていた。そこへ渋めのおじさんがやってくる。
「店長の高浜です。この度はうちの店とキャストを助けていただきありがとうございます」
優しく落ち着いた笑顔で話かける。
「それはいいんだけどこれは何?」
「ここは『仮面執事喫茶 ダブルフェイス』。表向きは名家に仕える使用人、だけど裏では人気アイドルとして活躍する執事たち。そのことはお嬢様と2人だけの秘密で」
「そうじゃねぇよ!」
初対面で目上の人にも、山頭火はタメ語でつっかかる。
「コンセプトカフェは初めてですか?」
山頭火にも聞き覚えがあった。
「半グレたちが女の子からお金を絞り上げているという」
「それは一部の悪徳店舗だけね」
高浜店長は冷静に突っ込む。
「メンズコンセプトカフェは割と新しい業態でね。メイド喫茶の男性版といった感じさ。ホストとの違いは学生も入店できるところかな」
確かに客層の女の子は、山頭火と同じ高校生ぐらいの子も多い。お金もそんなに持っているわけじゃないだろう。
「うちはイケメンによるおもてなしと、アイドルの卵たちの生ライブが売りの、きちんとした店さ。さっき君が助けてくれた彼も、うちのキャストの1人だよ」
店内の奥にはステージらしき場所があり、20時から少年倶楽部のライブと書かれている。
さっきのイケメンはもう接客をしていた。話しかけられている女の子の目はハートになっている。高浜店長はイケメンにこちらへくるよう、手招きする。
「お客さんは9割女性でね。男性は確かに接点がないかもね」
「9割?(ここで執事になってバイトすれば、モテモテになって彼女も作れるんじゃ)」
イケメンが山頭火の方に近づいてくる。
「さっきは本当にありがとう。僕はSai(サイ)って言います」
「Sai?」
「昔の囲碁漫画のキャラからとったんです」
スタンドのように烏帽子を被った男性が見えるが気のせいである。
「(こいつ意外と渋いな)」
「ってかさっきの奴らはなんだったんだ?あとなんでやり返さなかったんだよお前」
「それは」
「お帰りなさいませお嬢様」
新しいお客さんが入ってくる。山頭火と同じ高校生ぐらいの、誰が見ても可愛らしい女の子だった。
「(めちゃめちゃ可愛い!)」
山頭火は女の子に見惚れている。女の子は店内を見まわし、山頭火の方へ向くと笑顔に切り替わる。
「えっ俺?」
「Sai!」
可愛い女の子は手を振りながら小走りにSaiへ近づいていく。
「星野お嬢様」
イケメンと美女がキラキラした空間を作り上げている。
山頭火は泣きながらハンカチを食いしばる。
「なぜ俺は男の敵を助けてしまったのか。モテる努力よりイケメンを殺して回った方が早い気がしてきた」
「その考えはやめた方が良いと思うよ」
高浜店長は山頭火の闇落ちを止めた。
「Saiはアイドルの卵でね。うちでもグループを組んで、メジャーデビューを目指してるんだ。だから」
「暴力沙汰はNGってことか」
星野リツコはSaiとの話に夢中になっている。
「推しのアイドルはいるかい?」
「この中で?」
山頭火は男を好きになるわけねーだろの目で高浜を睨む。
「いや女性アイドルでもいいんだけど」
「よくわかんねーや。推しとか言われてもピンと来なくて。ハマる気持ちとかも全然ないし」
「バイトをクビになったんなら、ちょっとうちを手伝っていくか?」
「えっ!」
山頭火は下心を含んだ笑みを浮かべる。
「ちなみにキャストはもちろん、ボーイもお客さんと恋愛禁止だから」
「えっ」
「あと年上とお客さんには敬語な」
「えっ」
「返事ははい、な」
「はい」

◯街中
大学生ぐらいの女の子がダブルフェイスに向かっている。
星野リツコとメッセージをやり取りしていて、「今日のライブ楽しみ」、「早くきなよ」とテンションの高い会話が続いている。
Saiに絡んでいたチンピラたちが、女の子に近づいていく。

◯コンカフェ・スタッフルーム
「とりあえず雑用から頼もうかな。キャストたちに呼ばれたら対応してね」
山頭火はゴミ捨てや、キャスト衣装の洗濯などをこなす。
仕事をしながらも、チラチラと星野リツコを見てしまう。けれど全く視界には入れていない。ずっとSaiに夢中だった。
「くそっチャラチャラしやがって」
「おーい。こっちも手伝ってくれ」

○コンカフェ・厨房
厨房では2人の男たちがドリンクやフードを次々に作っていく。
広くはないが清潔で、整理整頓されている。
1人の男がオムライスを作っている。動画などで見る、切るとトロトロな中身が出るあのオムライスのようだ。
下のご飯の装い方といい、卵の造形といい、丁寧でとても綺麗だ。
「美しすぎる!カフェでもここまでのやつはいなかったぞ!」
山頭火は思わず褒めてしまう。モテようとカフェでやったが、全然うまくいかず食べ物を粗末にするなと怒られたことを思い出していた。
褒められた大柄の男は嬉しそうに答える。
「普段は料理学校に通ってるんだ。一流レストランに就職して、いつか自分の店を持ちたいんだよな」
その横では、虹色の層をしたドリンクが注がれていく。こちらもチェーン店では見られないような美しさをしている。
注ぎ終わるともう1人の小さい男性も山頭火に自己紹介をする。
「俺はバーテンダー志望だよ。ホテル勤務を目指して就職活動中さ」
出されたフードとドリンクに気圧される。
「レ、レベルが高い」

○コンカフェ・メイクルーム
次にメイク室の掃除を命じられた。
3枚ほどの鏡が並ぶ狭い部屋で、薄くてペラペラだけどキラキラした衣装や、懐中時計やマイク、メガネ、カツラ、バッグなどの謎の小物たちが所狭しと置かれている。
室内では出勤したキャストたちがメイクアップしている。
「うおっ!」
思わず声が出て、化粧中のキャストが反応する。
「これが男のメイクか。初めて見た…」
「キャストや舞台に上がるやつは皆するよ。顔が照明に負けないようにね」
山頭火のような反応には慣れっこといった感じで、化粧中のキャストは返事をしてくれる。
「やってみる?」
「いや大丈夫…です」
「意外と一回やると普通になるよ」
山頭火はこれ以上何を話せば良いかわからず、あたりをチラチラ見回す。
すると繋がっている隣の部屋で、衣装を作っている男性がいた。
家庭用のミシンでテカテカした布を縫い合わせている。
「何か用?」
「あ、いや。服って手で作れるんですね」
縫っていた男性はずっこける。
「どうやって服が作られていると思ってんだ」
「なんていうか…機械で?」
小、中学時代に授業をろくに聞いていなかったせいで、恥をかいてしまった。
「衣装を自分で作ってるんですか?」
「そうだよ。この店にお金がないからと、俺はファッションデザイナー志望だからな」
「男でもファッションデザイナーになれるのか?」
「いるさ。女性やゲイのが多いけどな」
「えっ」
「ゲイの有名デザイナーはたくさんいるよ。ゲイじゃないと出世できない、なんて言われてたよ」
山頭火は初めて聞く世界の話に感心していた。
「こんないろんな奴らがいるのか…」
見渡せばみんな自分の作業や仕事を一生懸命こなしていた。
「今までいかに他のヤンキーに舐められないかしか考えてなかったぜ」
「バイト君、練習室のゴミ捨ても頼むよ」

◯コンカフェ・練習室
店の奥には大きなガラスのあるダンス練習室があり、何人かがレッスンをしている。
普通な店内にこんな施設はないそうだが、ライブが売りのコンカフェでもあるため、店長が用意したらしい。
ビデオを流しながら、曲に合わせて踊っている。ビデオにはSaiが写っていて、練習生は手本にしているようだ。
「これSaiか。あいつダンス上手いじゃねーか」
さっきの化粧中のキャストが練習室にやってくる。
「デビューを目指すために、みな仕事の合間を縫ってダンスや歌を練習してるんだ。売れてないアイドル志望の奴らさ」
「コンカフェってもっとチャラチャラしてると思ったぜ」
「うちは店長が特別なんだよ。俺たちみたいな未だ芽が出てない奴らを雇って、練習する環境を用意してくれてるんだ」
キャストたちは汗だくで踊り続けている。
部屋の奥にはたくさんの衣装や練習着がある。一際ボロい靴があり、それにはSaiと書かれていた。
「結構体育会だろ?Saiなんてもっとすごいぜ。家族も多くて貧乏だから他にもバイトして家に金入れて、毎日レッスンもしてる。小さい弟や妹たちのためにもメジャーデビュー目指しんのさ」
フロアにいるSaiは変わらず女の子と楽しそうに会話している。
「ホストもコンカフェの店員も、モテるためにただヘラヘラしてるだけかと思ってたぜ。こいつらは将来の夢のためにすげぇ頑張ってるんだな…」
山頭火のSaiを見る目は変わり始めていた。
「俺は何にも頑張ってこなかったんだな」

◯コンカフェ・ホール
掃除をする山頭火に、高浜は話しかける。
「中々骨がある連中だろ?どうだい?うちの店でやっていけそうかい?」
「あー。あんまり向いてなさそうかな」
Saiや女の子を遠くに見ながら、山頭火は返事をする。
「俺にはこんなキラキラした職場無理そうだ。みんな夢とか将来のために頑張ってる。不純な動機のやつがいていい場所じゃねーなって」
「そうか。君は必要な人材だと思ったんだがな」
「これからライブやるんだろ?邪魔になる前に出るよ」
「君さえ良ければ、うちの店に入って欲しいけどね」
「……考えとくよ」
二度とこなさそうな顔で、山頭火は帰る準備を始める。
「店長すみません!」
Saiが店長に話しかける。表情は曇っている。
「お嬢様の友達から、こんなメッセージが」
スマホのメッセージには、
「近くの変なコンカフェに連れ込まれた。助けて」
と書かれている。
「強引な手口……またあの店だな」
「悪どい客引きや詐欺まがいの請求をしているっていう」
「ああ。暴対法でヤクザはこの街から撤退したが、代わりに半グレが店を仕切り始めている。コンカフェや芸能をやってたら避けて通れないもんだ」
リツコは不安そうで、泣き出しそうな顔をしている。
「今日のライブをずっと楽しみにしてて、一緒に見るはずだったのに。チヨはどうなっちゃうの?」
Saiは切り出した。
「店長、自分この店に行ってきます」
「お前は店に残れ。キャストだし、デビューに向けて今が一番大事な時期だろ」
「でも……この人は大事な自分たちのファンです。このまま見過ごせません」
「Sai……」
リツコも心配そうに見つめる。
「ダメだ」
「店長の命令でも、できません」
店を出ようとするSaiを、山頭火が止める。
「離してください」
山頭火の力は強く、振り解けない。
「家族のためにもデビューしたいんだろ。さっきだって手を出さないように耐えてたじゃねーか」
Saiの頭に、今までの努力や家族のことがちらつく。
「おっさん、俺ちょっくら行ってくるわ」
「君……」
「俺はあんたらと無関係だからな。トラブっても問題ねーだろ」
Saiの体がようやく緩む。
「でもあの店女の子しか入れないよ」
今更な店長のセリフに山頭火も思わずずっこける。
「それじゃどうしたら」
「大丈夫。ここはコンセプトカフェ。お客様の願いを叶える場所さ」
店長の後ろには、メイク道具と衣装を持ったキャストたちがスタンバイしていた。

◯悪徳コンカフェ・店内
『黒の喫茶 ジンウォッカ』と書かれた怪しげな店がある。薄暗い店内で、ダブルフェイスとは大分雰囲気が違う。
黒い壁に熱帯魚の水槽が並ぶ、ホストクラブのような内装だ。
「姫、入られました!」
リツコと女装した山頭火が店内に通される。2人とも周りを見渡し、友達のチヨを探している。
「まずはお客のふりをして、チヨを探すわよ」
リツコは友達を救うため、自分も店に入ると言った。危険だとみんなが止めたが、顔がわからないこともあり、山頭火も従うしかなかった。
「友達のピンチに、人に頼るだけなんてできないわ!」
「(なんて友達思いのいい子なんだ)」
思わぬ形で可愛い女の子と2人きりになれて、テンションが上がる。
しかし
「お嬢様に何かあったら、わかってるね」
店長とSaiから謎のプレッシャーをかけられていたことを思い出し、冷静になる。

◯悪徳コンカフェ・店内・客席
ホスト風のキャストが近づいてきて、ドリンクメニューを出してくる。
値段はダブルフェイスと変わらない。
「姫は世界一幸運ですよ。ちょうどうちのNo.1のライブが始まります」
イケメンな男がステージに立ち、昔のビジュアル系のような楽曲を、LDHのような感じで歌い始める。
流石に上手くて聞き惚れそうになる。けれどリツコは全然楽しそうではない。周りを見回して、友達を一生懸命探している。
「(そうだ今一番大事なのは)」
「いた!チヨだわ」
奥の方に、少し揉めていそうな雰囲気の席があった。
リツコは立ち上がり、ダッシュで駆け寄る。山頭火も慌てて追いかける。
「チヨ!」
「りっちゃん!」
チヨはリツコに抱きつく。
「お友達ですか。ご一緒にいかがですか?」
チヨと揉めていたらしきホスト風のキャストは、慌てることなく対応する。
「さ、さっきも言いましたが、急用を思い出したので、今日はもう帰ります」
チヨはリツコを促し、振り返って帰ろうとする。そこへキャストたちが立ち塞がる。
「そうですか、では帰る前に姫のお代金を頂かないとねぇ」
バインダーには36万円と書かれている。
「私ジュースしか飲んでないです!」
「あれ。ちゃんとメニュー表に書いてありますよ」
さっきのメニュー表の下には、小さく1時間30万円プラスサービス料の文字があった。
「ぼったくりよ!」
「ルールはルールなんでね。なあにここは新宿、若い女なら稼ぐ方法がいっぱいある」
キャストたちが迫ってくる。他の女性たちはみんなサクラだったようで、ニヤニヤ遠巻きにこちらを眺めている。
「彼女はどう?一日10万以上稼げるとこ、紹介してあげようか?」
キャストが山頭火の肩を抱き寄せる。もちろんキャストは容赦なくぶん殴られる。
「ちょうど立て続けにバイトやめちまったからよ。いい店紹介してくれや」
「こいつ男!?」
「女装してでもうちの店に来たかったのか?」
「んなわけねーだろ」
カツラと服を脱ぎ、山頭火は正体を表す。
雑魚そうなキャストたちは慌てている。
「こいつは有名な山頭火!」
「こいつがあの?」
「一年で70人にフラれたという」
「そっちの噂はもういいんだよ!」
リツコとチヨも70人という数字に引いている。
「ああ引かないで!」
チヨの席についていたホスト風の男は慌てない。
「あんまりことを荒立てたくないんだけど…」
指を鳴らすと、奥から怖そうなガタイの良い用心棒が現れる。
山頭火の倍はありそうな巨漢だった。
巨漢男が腕を振り上げ、山頭火をぶん殴る。山頭火は不意をつかれ、ぶっ飛ばされてしまう。
「もうヤクザのケツモチはいらないよ。半グレ(俺たち)が稼いで、トラブルは腕っぷし(こいつ)に消して貰えばいい。」
リツコとチヨが引き剥がされ、キャストたちに連れて行かれそうになる。
「殺すと面倒だからな。男は適当にボコしたら裏に捨ててきてくれ」
「きゃー」
「助けて、Sai!」
女性の悲鳴を聞き、山頭火は意識を取り戻し立ち上がる。
巨漢男は山頭火に近づき、トドメを刺そうと腕を振りかぶる。
山頭火はパンチを避けて、リツコとチヨの元へ移動していた。
「なんだテメ…ギャッ!」
2人を押さえつけているキャストを殴り、解放する。
「女だけでも逃そうってか!残念だけど1人も逃さない!」
「結局この街で弱者は暴力から逃げられないのさ!」
巨漢男がまた山頭火に殴りかかる。
山頭火はパンチをあっさりとめ、逆に一撃で巨漢男をのしてしまう。
「な、なんだよこいつは!」
「だからあいつは種田山頭火ですって!元種田組組長の息子!武闘派ヤクザの跡取りだったやつです!」
「な!種田組は暴対法で解体させられて、もう東京にはいないはずじゃ」
山頭火は周りのキャストを次々ぶっ飛ばしていき、ホスト風半グレ1人だけになる。
「可愛い子供に罪はないからな。俺はこの街に残れたんだよ」

山頭火の頭に、父親と離れた日のことが蘇る。
少年の山頭火は、小さくなる父親の背中を見送っている。警官らしき大人が山頭火を慰めている。

「暴力からは逃げられないって言ったな」
「ヒィ!」
山頭火は脅しに壁を殴りつける。素手で壁に穴を開けてしまう。
山頭火は凄む。
「また夢を追いかけたり、応援してるやつの邪魔するなら、俺が潰す」
リツコは半グレの写真を撮る。
「さっきのメニュー表も、写真撮りました!警察や友達にも送るから、みんなもうこの店には騙されません」
「そ、そんな。俺のキングダムが……」
ホスト風半グレは泡吹いて倒れた。
「一件落着だな」

◯執事喫茶ダブルフェイス・店内
「怖かったよー!Sai!」
「頭なでなでして!」
「お嬢様!2人とも無事でよかった!でもお触りは禁止なんです!」
リツコもチヨも店に入るやいなやSaiにダッシュしていた。
美男美女のキラキラした空間がさらにパワーアップしている。
「可愛い子2人ともだと!やっぱあいつにタイマン張らせりゃよかった!」
山頭火は涙を流している。
「助かったんだから水刺さないの」
店長は再び山頭火の闇落ちを止める。
「さぁ、ライブを始めよう!」
アイドルの卵たちによる華やかなライブが始まる。
女の子たちは、ペンライトやうちわを振って楽しんでいる。
悪徳カフェのライブよりも荒削りだが、お客さんとアイドルが一緒になって楽しんでいる良いライブだ。
山頭火は店の奥で眺めていた。店長が話しかける。
「どうだい?うちのアイドルたちのライブは?」
「やっぱわかんねーや。しかも結局女の子たちはSaiに夢中だしよ」
「それでもいいじゃないか。あの子たちの笑顔は、君が守ったんだよ」
幸せそうにライブを楽しむリツコの笑顔を見て、山頭火もまんざらでもない笑顔を浮かべる。
「僕も歳でね。腕っぷしの強い身内は欲しいんだけどな。よかったらうちの店で用心棒をしてみないかい?」
「考えとくよ」

終わり

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