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『UNDER COVER』3話

○アパート・906号室
部屋の奥から現れた背の高い男に、山頭火は話しかける。
「ショウくん…こんなとこで何やってんだよ」
「ショウさん知り合いなんすか?」
山頭火にボコられていた半グレたちがショウに泣きつく。
「前に言ったろ、後輩に元ヤクザ組長の息子がいるって。こいつがその山頭火だよ」
半グレたちに衝撃が走る。
「こいつが!めちゃ強いけど学年全員の女子に振られたっていうあの」
「全員には振られてねぇーよ!」
越智は怯えている。
「ショウくん。なんでこんなことしてんだよ!女の子にも脅しかけてるそうじゃねぇか!」
「ああ、そいつと一緒に入ったのはお前の女か。ようやくモテるようになったか?」
その頃のいずみはコンカフェでSaiや他のイケメンたちに介抱されて、幸せそうである。山頭火の表情を見てショウは察したようだ。
「ごめん」
「謝るんじゃねーよ!」
「変わらねーな山頭火。懐かしいよな。昔は一緒に悪さして、よその奴らと喧嘩して、お前は負けなしだった…そのあとオメエの兄貴に追っかけられて大変だった」
「別に今も変わらねぇよ。クソガキの俺らには、その程度で十分だったろ」
「オメェが何もしなくてもよ、街はどんどん変わってくんだよ。俺たちもずっとガキじゃいられねー。金を稼がねーとな」
「でもこのやり方は違うだろ」
山頭火の一言で、部屋に再び緊張が走る。
「…今日はひとまずこいつ連れて帰れ」
越智にもう帰っていいと合図をする。
「こんなとこでやりあってもしょうがねぇ。それに山頭火、俺はお前に組織に入ってもらいたい」
「帰るぞ」
越智を引っ張りあげ、出口へと促す。
「お前が入るならそいつと女、抜けさせてもいいぜ」
「…また連絡する」
「そうこなくちゃ。待ってるぜ」
ショウの方は振り返らず、部屋を出ていく。

○コンカフェ・ダブルフェイス・店内
山頭火が店に戻ると、チヨといずみとリツコ、Saiが待っていてくれた。
「ありがとうございます。大丈夫でしたか?」
「ああ、越智も少し殴られてたけど無事だよ。病院寄って、家に帰ってった」
出迎えてくれたが、まだ問題は解決していなかった。みんなイヤモニで、山頭火とショウの会話を聞いていた。
「山頭火さん…これからどうするんですか?」
Saiが尋ねる。
「ショウくんは…」
山頭火の頭の中に、ショウとの思い出が甦る。
「ショウくんは馬鹿なんだ」
学生時代全く勉強ができず下の学年の山頭火と一緒に補習させられたり、道を間違えまくって他校を3時間待たせてから喧嘩したりなど、馬鹿エピソードがたくさんあった。
「おまけに両親が蒸発しちまって、金なくて高校中退したって聞いてた」
Saiは何も言わず聞いている。
「でもすげー優しくてさ、喧嘩の時は絶対下の奴らは守って、女にも絶対手をあげない、かっこいいやつだったんだ。貧乏なのによ、腹減ってる俺らに飯奢ってくれたんだ。俺のが年上だから、下に優しくすんのが当たり前だって言って」
「俺もショウくんのこと、かっこいいやつだって思ってる。だから」
山頭火は顔をあげ、Saiの方へ向き直る。迷いが晴れたようだ。
「一発ぶん殴って目を覚ましてやらないとな」
Saiも笑顔で返す。
「頼みます。帰ってきたらみんなでお祝いしましょう」
「ちょっくら行ってくるわ」
店を出ると山頭火は電話をかける。
「今から会えるか?」

○街外れ・空きビル
取り壊し予定と書かれた廃墟ビルがある。ガラス張りで、ヤクザの事務所が入っていそうなビルだ。
山頭火が入ると、ショウと部下2人はすでに来ていた。
「懐かしいだろこのビル?お前の親父が持ってたもので、よく俺たちも空いてる部屋に集まってたよな」
山頭火は黙っている。
「このビルももうすぐ取り壊しだってよ。悲しいよな。俺たちの街がどんどん変わっていく」
「俺たちは金の力でのしあがってよ、この街をもっと最高の街にしたいんだ。お前の親父も呼び戻せるぜ。そのために力を貸してくれよ」
ショウは腕を広げ山頭火に近づく。
「親父はもう引退してる。今更この街に戻っても、ゲートボールぐらいしかすることないぜ」
「お前が親父の代わりになればいい」
「悪いけどショウくん」
山頭火は臨戦体制に入る。
「俺は半グレにはならない。もちろんヤクザにもだ」
「残念だ」
2人の部下が山頭火を囲い混む。1人は警棒を、もう1人はスタンガンを持っている。
「格闘技経験者のお前に一対一では勝てないからな。悪く思うなよ」
山頭火も、武器を持った相手に複数で囲まれては分が悪い。
しかし慌てることもなく、山頭火は拳銃を取り出す。
ショウたちの表情がこわばる。
「お、おいお前なんでそんなもん」
「俺の兄貴が警官なこと忘れたのかよ。ここ来る前に交番でちょっとくすねてきたんだ」
半グレはその場から動けない。
「ショウさん、これハッタリですよね?」
「ハッタリかどうか、確かめてみるか?3人で来ても1人には撃ち込めるぜ」
ショウとスタンガンを持った男はビビっている。
「こ、殺される!」
警棒を持った1人が耐えきれずその場から逃げ出した。
「ば、ばか!」
山頭火はその隙を逃さず、スタンガンを持った方にダッシュで近づく。
慌ててスタンガンを向けるも、一対一なら山頭火はいくらでもかわせる。
スタンガンを避けつつ、思いっきり蹴りを入れる。
「うがっ!」
倒れた半グレの額に拳銃を当てる。
「バン!」
半グレはびっくりして泡をふく。
「嘘だよばーか」
敵は一瞬で残り1人になってしまった。
「警官が拳銃盗まれたら大問題だろ」
拳銃はコンカフェにあったエアガンで、念の為持ってきていた。
「ショウくん、もうやめろよ」
「ウルセェ!俺にはもう、もうこれしかねぇんだよ!」
突っ込んでくるショウに、山頭火は拳を叩き込んだ。
ショウは気を失い倒れる。
「馬鹿野郎…」

○街外れ・空きビル
ショウが目をさますと、山頭火がショウのパソコンをいじっている。
「ショウくんパスワード教えてくれ。あの子の身分証データを消したい」
ショウは仰向けになったまま答える。
「9965だ」
「サンキュ」
山頭火はPCからいずみのデータを探し出し削除した。
ショウの元に近づき、座り込む。
「足、洗えねぇのか」
「高校中退のクソに、他の生きる道なんてねぇよ」
「親父もお袋もとんじまった。今まで優しくしてた奴らも、俺を助けちゃくれなかった。
むしろ弱ってる俺に貸してた金返せと、学費や生活費をぶんどって行きやがった。
俺が他人から金巻き上げたって良いだろうがよ!」
山頭火は黙って聞いている。
「俺も兄貴が引き取ってくれなかったら、アンタと同じことしてたかもな」
「なあ、こんな半グレがどうやって生きたらいい?他になんの仕事すりゃいいんだよ」
「半グレがやる仕事っつったらそりゃあ…
コンカフェだろ」
「は?」

○コンカフェ・ダブルフェイス・店内・衣装部屋
「今日からバイトに入ったショウくんでーす」
「背高いし、キャストでもいけそうだな」
「スーツが似合うな。八王子みたいなヤンキーファッションはやめて、こっちの路線にしなよ」
店内のホールで、ショウに衣装を着せながら、衣装組は多いに盛り上がっている。
「山頭火くん、これは?」
店長はちょっと怒り気味である。
「まあまあ店長、お客さんからの相談を解決したんだし、これぐらいはいいだろ?ついでに人手不足も解消!」
店長はやれやれという感じで、あんまり歓迎はしてなさそう。
「警察に言うか?」
「言わないよ。ここは若者を応援するところだって言っただろ」
この店長は何考えてるか分からないが、少なくとも悪人ではないような気がした。

○コンカフェ・ダブルフェイス・店内・客席
「本当にありがとうございました!」
チヨといずみは山頭火にお礼を言う。Saiとリツコも一緒だ。
いずみは改めて山頭火に近づき、
「本当に助かりました。何かお礼させてください」
山頭火はおまわず鼻の下が伸びる。
「そ、そしたら…ぜひ今度デー…」
「そう言うところがモテない理由だぞ」
店長が山頭火を止めてくれた。
「あの、山頭火さん」
いずみが再び山頭火に話しかける。
「は、はい!」
リツコのすぐそばなので、デレたりしないよう、精一杯平静を装って返事をする。
「一緒にバイトしてた、越智くんの分のデータも消してもらえましたか?」
「ああ、あっちは偽造免許証だったから消す必要ないよ」
「えっ」
「ほら小学生とか中学生とかは、酒飲むために偽身分証作ってもらうじゃん。それと同じやつだったよ。住所も全部デタラメだった。さっき連絡しようとしたけど、そのアカウントももう使われてなかったぜ」
周りからなんでそんなこと知ってんだって顔をされる。
「違うよ!俺はやってない!周りがね!」
話を聞いていた店長も割り込んでくる。
「そんなものを用意してるってことは、最初から闇バイトだってわかってて申し込んでたんだな」
「越智くん…なんで…」
「そんな回りくどいことするんだよ」
山頭火もいずみもSaiも越智の行動の理由がわからない。
店長が口を開く。
「最近半グレの中に、妙な動きをしている奴らがいるらしい」
「積極的に他のグループのシマを奪って勢力を拡大しているチームがいると」

○都内マンション・夜景が見える部屋
薄暗い部屋の中、4人の男が集まっていた。
真ん中には、不思議なオーラを纏った謎の男がソファに座っている。
他の3人は、皆その男の方を向き、彼の動きを見逃すまいと構えている。
越智が謎の男に話しかける。
「ショウのグループは小規模だがいいルートを持っていました。これでまた販路が拡大できましたね。あのチンピラが潰してくれて、手間が省けました」
割れたメガネを、高そうなものに変える。
「まだまだ、これでは足りない」
話を聞いていた謎の男は立ち上がる。
「他のヤクザが持っていたものも、半グレが持っているものも、全て奪う。次にこの街を仕切るのは、俺だ」

終わり

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