「四角関係で誰にも愛されなかった私」企画書

キャッチコピー:青春は汚い

あらすじ:クラスで出来た四角関係は内二人が結ばれるという結果となり、残り二人は失恋に終わった。ただ、一人、八木雫は四角形の中で誰にも矢印が向けられなかった。悲しみにくれる中、好きな人と幼なじみが二人で家に……。
 四角関係は広がり、不器用ながらも青春を繰り広げる。恋を知らぬ少女。一ヶ月のみの関係。同性恋愛。兄弟恋愛。失恋愛。少年少女がそれぞれ抱える悩みに、恋に葛藤する。

第一話:
 私達のクラスでは四角関係という綺麗な四角形が形成されていた。
 勿論、四人が四人思い通りに行くわけでもない。だから中には上手く結びついたり、結びつかなかったりなんてこともある。
 そんなの恋愛では付き物。 そう思うのだろう。
 誰かから愛されてもそれでは事足りず、だけど私は自分の愛する人と結ばれたいからと言って、向けられた愛を振り払う。
 自分が好きな者と結ばれることだけを夢に見て。
 なんて強欲。
 恋は互いの想いが通じ合って初めて形になる。
―それが叶うのなんて夢の、夢のまた夢
「一颯くん、付き合わない?」
 雫は好きな人に夕方、教室で尋ねた。
 まるで告白を成功するのは当たり前と言わんばかりの余裕ぶりで告白していた。
「ごめんね………俺、好きな人いるんだ」
「何言って‥‥」
 思っていた返事と違う、だって彼はあのとき言ってくれていたのに――
「隣の席の子、可愛い!…俺の彼女にしたい」
 入学初日、あの小耳に挟んだ言葉。
―けど、今思えば彼に隣は私だけではなかった
 あぁそっか、一颯の言う隣は雫じゃなくて、反対側に座ってた雅ってことか。
 そんなこと今更気づいてももう遅くて、告白した後からは気まずい空気がそこらを漂っていた。
 好きだった、あの顔、表情、仕草、チャラくたって優しいところも。

 私は八木雫。
 私は唯一この四角関係で誰にも愛されなかった女だ。

「雫、ちゃん‥‥‥‥?」
 雅が落ち込んだ様子の雫の顔を横から覗き込む。
「‥‥‥‥‥」
 雫は信じたくない思いから雅とは目を合わせようとしなかった。
 確かに雅は魅力的だった、華奢で小顔で人形のようで。
 コミュ障という点を除けばクラス一位も夢ではなかっただろう。
「‥‥‥‥」
 そう、彼女のコミュ障は異常だった。
 同じグループの雫ですらこうである。
 自分でも心配して声をかけようとしているのがわかっているのに名前を呼んで終わりそれだけだ。

「な、何でなの?‥‥‥‥‥‥ほんと何でなの?!」
 こんなにもコミュ障でどうしようもできない雅にも要都という彼氏がいて、それだけでなく一颯までもあの子を好きに。
 この四角関係内の男からの矢印は全て雅に向けられている。
 まるで雅は王女様で、雫はそこに仕える使用人か何かしか見えてこない。
 私だけ誰にも‥‥‥‥‥。

 数時間後、雅と要都は――
「‥‥‥‥っはぁ‥‥はぁ」
 息を切らす雅の音が、この二人以外誰もいない美術準備室によく響いた

第二話以降:
―雅と要都が付き合いたての頃
「雅」
「?」
 美術の授業中であったが、雅は好きな人の口から自分の名前があがったため、視線を向け頭を傾げる。
 言葉は発さないまま、ただ頬を赤らめて。
「好きだ」
「‥!?!?!」
 小声で聞こえたその声に動揺して顔を更に赤く染め上げ、手でその小さな顔を覆い隠す。
 そんな雅を前に要都はどうも不服そうだった。
 少し悩んで考えているようないるような、雅からすれば何がどうなっているのかよくわからなかった。
キーンコーンカーンコーン
 六限目のチャイムが鳴った。
気をつけ、礼
 号令後、雅はゆっくり席から立ち上がり、要都へ手をそっと差し出す。
 すると要都はその手を強引に引っ張り、雅が姿勢を崩して歩くのも気にしないまま美術準備室に連れ込んだ。
「‥?」
 上目遣いの彼女を前に彼氏側としても可愛さに魅了され、時間というものを忘れそうになる。「‥‥‥雅は俺のことが好きなのか?」
 その質問に対して雅は大きく頭を上下に振る。
 その姿すらも愛おしく、小動物を見ているような感情がやってくる。
「なら伝えて欲しい、お前の気持ち」
 普段落ち着いている要都だって少しは不安にもなる。彼女がいつまで自分のことを好きでいて、一緒にいてくれるのか。
 ただ雅の場合はそれが読み取りづらく、分かりづらい。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥!」
 飛び込んだ。
 要都の方へと。
「‥‥‥‥」
 一度優しく抱きしめ、そしてそのまま雅を床に押し倒した。
 二人の距離があまりにも近いため、息を吐いて吸うという行為が耳元で聞こえてくる。
「教えて、雅の気持ち」
 いつもの落ち着いた声が雅の耳から脳に届くくらいにもじんと響く。
 雅は言葉で愛を伝えることができない。
 だから、その分――
 雅は要都の唇に細々とした小指で触った。
 それはなんとも美しく心地く、指先から感じた。
 唇からでも少し温かさを感じる。
「‥‥‥」
 ふたりはこのとき、きっと時間なんて忘れてしまっていた。
 要都は思う、雅が言葉にしてくれるまで待とうと。
 例えそれが叶わなくなかったとしてもいまはこれで充分だ。

 「雫~」
 背後から幼なじみの中川沙莉の声が聞こえ、雫はさっと振り向く。
「‥‥何よ‥」
 「およ?何か辛いことでもあったの?この沙莉ちゃんが相談乗るよ~」
 肩に優しく手を添えて、雫の背後からひよこっと登場する。
「し、失恋‥‥‥した」
「え!?」
 雫の涙目の返答に思わず声を漏らし、取り乱す。
「ちなみにその相手は?」
「‥‥‥一颯くん」
 雫は俯いてそれ以上何も言わない。
 雨も振っていないのに地面の一部は水玉模様に染まる。
「ハードルたかぁ。あいつ結構なチャイカスで有名じゃ~ん。てか恋の相談ならはやめにしてほしかったんですけど~」
 そんなことを口にしながら沙莉は左頬に手をおいてため息を吐く。
 心無い言葉にも聞こえるが、沙莉はいつもこんな調子だ。
 何となくこういう雰囲気にして場を和ませたいのかよくわからないが、彼女の性格が良い方じゃないことだって雫も把握している。
 ただわかっていても悲しくなるものだ。
「だって、沙莉は恋愛感情とかないタイプだし‥‥‥相談したって意味なんかないって思ったの!!」「はぁ、あんた意味とか求めて人に相談すんの?心外心外~」
「そうじゃない!」
「じゃあ何?恋愛してない私は仲間外れですか~」
 そんな嫌な雰囲気を残したまま、くるっと向きを変えて沙莉はこの場を離れようとした。

 その瞬間――
「ねぇねぇ中川さん、ちょっといいかな??」
 雫の元好きな人代表、小柳一颯が現れた。
 どうやら二人と同じく学校帰りのようで、カバンを後ろにして持っている。
「あ小柳くん!何か用?」
 沙莉は先程の声よりトーンも上がって瞬間に猫を被った。
 ついでに前髪を直しながら上目遣いなんてしながら。
「えと、ここじゃ言いづらいから家来ない?」
「んー…。わかった!」
 沙莉は一度雫の方を横目で見たあと、返事をし、自分の長いポニーテールを嬉しそうに左右に揺らした。
 そしてそのまま雫なんて気にもせず一颯の真横へ駆け寄り、二人は肩を並べながら雫から遠く離れていく。
「(もう私用済み‥‥‥‥?てこ何で家に行くの‥‥‥‥‥?考えたくない、私って何なの‥‥‥‥?)」
 雫は一人、蹲って頬を流れる涙を拭う。
 そしてその行動すら、雫を沈める。
 自分には誰も涙を拭ってくれる人はいない、傍にいてくれる人がいない、それを考えれば考えるほど自分を嫌いになった。

一方、沙莉と一颯は――
「へ~ここが小柳くんの家ね、ちょっと意外かも!」
 連れてこられたのは中々古めな団地だった。
 かなりのねんきもはいっており、住人の年齢層も30代後半といったところだろう。
 普段ちゃらちゃらしてる割に家は団地という点において沙莉は意外性を感じ、一颯に目をやる。
 一颯はそんな沙莉など気に留めず、ただ黙って階段を登っていく。
 ふたりのローファーの音がやたらと床や天井に響き渡る。
「………」
「………」
 三階に登るまでの間、しばらく沈黙が続き、流石に沙莉も気まずそうにしながら一颯の後を着いていく。
 沈黙を抜け、303号室の部屋の扉の前で一度足を止めた。
 一颯はポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込み、手慣れた手つきで扉を開けた。
「……お、おじゃましまーす」
 一颯に続いて沙莉も部屋に入っていく、玄関に入ると一颯はぴたっと足を止める。
がちゃん
「中川さん、お願いがあって……」
 一颯はいつもより少し真剣な表情になって後ろを向く。
「ちょ、ちょっと待って………………あの、私まだ処女なの(これ誘われてるよね!?普通に)」
「へぇそうなの(え、なんの報告!?)」

「それでも、大丈夫なの?(えぇそんなに反応薄いもん!?いや高校生だし当たり前?)」
「大丈夫だけど?(何の話?)」

「…………」
「…………」

「「(ちょっと待って!?)」」

「(誘ってると思われてる!?)」
「(待って誘ってなかったの!?)」
 変な勘違い、理解に苦しむ沼からそれぞれ抜け出した二人は突如焦りだす。
「えっと…一旦座る?」
「う、うん」
 座ったものの二人は気まずい空気に飲み込まれ、今にも死んでしまいそうだった。
 そこで沙莉が踏み込む。
「い、一応確認するんだけど小柳くんは沙莉の事好きじゃないよね?」
「え、僕は女の子は皆大好きだよ。………食べちゃいたいくらい」
 その発言と同時に机の上にある飴玉を口の中に入れ、舌でころころ音を鳴らしながら転がした。

「(や、やっぱり誘われてる!?)」
「(あ、また変なこといってしまった)」

「それで沙莉にお願い……って?」
 沙莉は警戒した子猫のようにおそるおそる尋ねる。
 決して油断せず、ただ一直線に沙莉を見つめて。
「中川さんって舞莉ちゃんっていう妹ちゃんいるよね」
「えうん、いるよ?(何で知ってるの)」
 一颯はゆっくりと腕を動かし、頬杖をつき、小悪魔の様な甘い、でも悪い表情で――
「実は――君の妹を俺のものにしたいんだ」

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