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よく頑張ったね いちくん。猫風邪で死にかけていた「市松」くんを保護して10年。

 6月の蒸し暑い夜のこと。仕事帰りの道端に、痩せこけ生まれたてのヒナみたいな小汚くとても小さな猫を見つけた。

 思わずその痩せこけた子猫を手に取ると、か細く「ニャー」と泣き動かなくなった。 私は近くの動物病院に(時間外だったが゛)駆け込み、彼を見てもらった。

 猫風邪「カリシウイルス」で酷い目ヤニと鼻水で顔は、ガビガビの状態で口でやっと息ができる状態。体もガリガリで183グラムしかなかった。

 一見した先生が「どうします、この酷い状態で処置しても助かる確率はありませんが。」と言われた。 躊躇うことなく「出来る限りの事してあげてください。」と言っていた。 また先生が「でももって4・5日ですよ」と。 「いいです、出来る限りお願いします。」と返した。

 一通りの処置が終わって重大なことが判明した。「この子両目ともダメですね。」と言われ、「それでも、結構です何とかします。」とまた返していた。 不思議そうな顔をしている先生から、これからどうすればいいか・やらねばならない事を聞いた。

 帰宅後 大家さんに包み隠さず事情説明し、家賃をチョット上乗せといことで飼うことを許された。

 ここから彼と私の生活が始まった。

 まず3時間おきに、濃いめのミルクと栄養補助剤をスポイトで飲ませ点眼・点鼻し顔を綺麗に拭き上げる。

 仕事場にも彼を連れて行った。その当時 倉庫内仕分けの仕事だったので、事務所に事情を説明し置かしてもらった。

 帰り際事務の人が飛んできた、一瞬嫌な予感がしたが「猫ちゃん鳴きだしたよ。よかったね。」という言葉。獣医さんが言っていた3日目が今日だ。

「よかった」という安堵。目が見えない未熟児で、親からも育児放棄された子猫。でもほっとけない。この子は私の子供の時と一緒だから。毛並みから「市松」と名付けた。

 1ヶ月経ち猫風邪も治った。体重も560グラムになり、元気に子猫している。検診に連れていき獣医さんもすごく驚いていた。ただその時の検診で心臓に雑音があり弁膜症だと告げられる。

 また先生に「多分3年か4年しか生きられないでしょう。」とまた言われた。

 「一緒にがんばろ、いちくん。」というと、見えない目で私を見つめ「ニャー」と一声 返事を返してきてくれた。

 1年後去勢にあたり、「心臓が悪いから、麻酔が効き過ぎるかもしれない。だから覚悟しておいてください。」と言われた。

 麻酔から覚める時間はかかったが、何とか事なきを得た。

 それから彼は、家に居る時は私から離れずいつも傍いる。私も初めて出来た家族だから愛おしい。

 3年が過ぎた時、突然心臓の発作が起きた。軽いものだったが、その時期が迫て来ていることを痛感した。

 このまま大丈夫じゃないのかと思い始めた6年目、また発作が来た。今度は、暫く入院することになった。彼がいない3日間すごく家が広く感じる。

 10歳なって1ヶ月過ぎた頃から、食欲がなくなってきた。彼は私の事を気遣い、大丈夫みたいな顔でいる。「気を使わなくていいんだよ」と言っている様だ。

7月半ばの在る夜、彼は私の腕枕の中で息を引き取った。

「ありがとう いち君。よく頑張ったね」と一言彼に言った。

 初めての家族の いち君。あちらで、また会おうね。寂しかった心の隙間を埋めてくれて本当にありがとう。

これを読んでくださった皆さん、読んでいただいてありがとうございます。

これが  いち君とノラ男の10年ばなしです。



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