Don't Trust (anyone) Over Thirty
昔話をしよう。
僕がまだ中学生だった頃。わりと真剣に、ああ、僕のような特別な存在は、きっと二十歳で死ぬ。と思っていた。
そう、どこにでもいる痛い中学生だった。
塾通いだったので、特に勉強で落ちこぼれることもなく、かといってよくできたわけでもなく、スポーツもこれといって秀でてもなく。
今のようにネットはなかった。触れる大人は「親戚」や「教師」、テレビの中の人たちだった。
マンガはたくさん読んだ。横山光輝の三国志がバイブルだった。
ご多分に漏れず、大人たちは白々しいと思っていた。ほんとうのことなんて、誰も言ってないじゃないか、と。
ぼくの時代はギリギリ体罰ありかなしかくらいで、ガシガシ叩く強面な教師には普通にあきれていた。
牢獄だ、管理されている。とまでは思わなかったけど、午後の授業、暖かい日差しの中寝ること以外、とくに夢も希望もなかった。比較的モテた。
当然、自分の親も白々しいと思っていた。あなたたちが僕について知っていることは、せいぜい誕生日や好きな食べ物であって、僕の思いや僕の僕についての僕ではないと。
ちなみに、親になった今ならわかる。僕は十分に祝福され、十分に愛されていたことに。
――イントロ、静かに、下手だけど味のある演奏で
君たちは特別じゃない。残念ながら、特別ではない。
君たちの親族と、数人の仲のいい友人以外は、君に興味はない。言い換えれば世界のほぼ全ては君に興味がない。なんなら、僕も興味がない。
1つだけ付け加えるならば、「まだ」興味がない。
そのことに気がついて、ぼくは心が軽くなった。なんだ、まわりは関係ない。自分に枷をかけているのは、自分じゃないか。と。
変に思われたら……
痛いと思われたら……
大丈夫、誰も何も思わない。何か一言二言残す人がいたとしても、明日には君の前からいなくなっている。
だからこそ、もっと自由になっていい。
知らん人の目を気にすること自体がもうすでにナンセンスで、知らん人は君に興味がない。どう思われる前にどうも思われない。
残酷だろうか、ぼくにとっては祝福だった。
1人になりたくても1人になれないし、1人になりたくなくても、1人になる。
上手くいかないように、上手く出来ている。
だから、空気を「読まない」訓練を。
大人になれば出来ることを先にやるのはただただもったいない。物事には順序があって、すっとばすとろくなコトはない。遅いくらいでちょうどいい。
昨日大切だったモノを今日無価値だと思っても「いい」。
つらければ、つらいと目に映る人全員に言っていい。
弱くてもいい。
きまりきったことなんて「ない」。
予定調和を踏襲する必要も「ない」。
覚悟があるなら、裏切ってもいい。軽蔑してもされてもいい。
膨れあがる自意識、得られない成功体験、立ちはだかる壁、全てが財産になる。うまくいかなくていいし、うまくいっている人に劣等感を持つ必要もない。
昨日より後退してもいい、背中を向けてもいい。心と体を軽く保って、いつでもどこにでもいけるように。
失ってわかる。今しか行使できない「感受性」とかいうやつは、確実に「ある」。
――唐突に、1サビ
理由はいらない。衝動の声だけを聞けばいい。それでだいたい正しい。
怒りも嘆きもあっていい、願わくばそこに少しの優しさがあってほしい。
――転調からの、Dメロ
ただし、これだけは聞き分けてほしい。人の親として、これだけは忠告したい。
自分を守る術を身につけろ。自分を守ることを最優先にしていい。
いい。
ネットを使うのであれば常に謙虚であれ。自分を大事にするのなら、相手も大事にするように。
――ブレイク開け、アウトロが流れ始めて
ここに書き殴っても、残念ながら君たちに僕の声は届かないだろう。僕に帰ってくるのは歪んだ残響だけだろう。
なぜなら、僕は30歳を超えて、のうのうと生きている。あのときに白々しさを感じていたOVER THIRTYになることに実にスムーズに成功してしまった。
ニヒルぶるな、その通りだ。今これを書きながら心の底から二十歳で死ななくて良かったと打ち震えている。プルプルしちゃって、プヨプヨしちゃっている。
幸せな日々を生きて(しまって)いる。
ただ、
あのとき、学ランと一緒に無根拠極まりない自己肯定感と全能感と自信をまとっていた濁りのない目の僕は、たまに僕の肩にちょこんと座って、おいおい、それでいいのか? 本当にいいのか? とクリーントーンで僕にささやきかけてくる。
ややクランチ気味の音になってはしまったが。僕は言う「うん、いい」。
「君はいまだ知らんと思うけども、この先びっくりする勢いで楽しいことがまっているんだよ」
幻聴では、ないと思いたい。
――終演後、ホールの明かり、付いて。
僕の子どもたちが大きくなったら(かつ、グレなかったら)この文章を読ませよう。パパわりと、ポエミーやろ?って。
――まばらにいた客もいなくなり、ようやく薄くかかっていたBGMが判別できた。昔何度か聞いたことのある、知っている曲だった。
カウンターの中でつまらなそうに雑誌を読む店主に、僕は静かにオーダーを通す。
「カルピス」
「・・・」
「カルピス、濃いめで」
ボウイも清志郎も死んだのに、なぜ僕は生きているのか。
店主は告げる。「妻と子どもたち、最愛の人と楽しく暮らすためだ」
満面の笑みで僕はグラスを空にした。
グラスの中で、氷がコリンと鳴った。
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