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「やりたいこと」を見つけたいなら、運命なんて信じるな。

中学校3年の進路相談。

「将来なりたい職業は?」と書かれた欄の一番上に、
僕は
「サラリーマン」と書いた。

ちなみにその下には「公務員」、
さらにその下の欄は、真っ白なまま提出した。


青森の田舎に住んでいた野球小僧だった僕は
多くの職業を知らなかったせいもあるが、

小さいころから、ずっと
「なりたいもの」がなかった。

それどころか、
野球部、という男子の多くに当てはまるだろう
平凡なアイデンティティー以外に
特に「やりたいこと」も、
趣味も、得意なことも、わからなかった。

○○ちゃんは、ピアノが得意なお嬢様。
△△さんは、明るくてスポーツ万能。
◇◇くん、頭は悪いけど、すごく面白い。

みんなが認知する肩書きのようなものを持つ、
「何者か」になれている友人たちが、羨ましかった。


そんな僕もいつか、

目の前にヒーローが現れて、
そうなりたいと憧れて、
情熱から、自然と努力を重ね、
他ではない特別な「何者か」に変身できる。

そう思っていた。


・・・・・・

社会人4年目の、進路相談。

転職エージェントの前に履歴書を出す僕は
10年前の自分と、何も変わらなかった。

10年間、まさに就職活動の時に面接で語ったような
いくつもの経験で、僕は大きく変わった(と思う)。

だけど、
心から「やりたい」と思えることは見つからなかった。

「やりたいことがない」

この悩みが15年以上、未解決のまま残っていたのだ。

結局、転職もやりたい仕事が見つからず、
面接にすら行かなかった。


・・・・・・

それからというもの。

あらゆる自己分析をした。

やりたいことを見つける、という本を読みまくった。

だけど、何をしても
「本当にやりたいこと」とは
出会えなかった。

そんなもの、僕の世界には存在しなかった。


・・・・・・

今考えれば、だけど。

26歳のとき、転機があった。

ただ、ごくごく小さな転機だ。

広告会社の営業職だった僕は、ある日
「プランナー」などと呼ばれるような
企画を考える人たちに、
企画をいくつも出すようにお願いした。
数日後、3名のプランナーから17案ほど集まった。

しかし、
上司からは、20案ほど出すことを期待されていた。
数が想定より少ないのは、依頼する際、
具体的な数を、僕が言わなかったせいだ。

人に追加で依頼をすることが苦手だった僕は
自分で3案追加して、20案を出すことにした。

恐る恐る、案を忍び込ませたのだが、

そのうちの1案が、
一言「おもしろい」と言われたのだ。

(ただ、全く選ばれず、当然のようにボツになった)


このとき。


自分の中に”妙な違和感”が生まれた。


「なんか・・・嬉しい」

これを機に、案が足りないときは、
自分でも案を追加して提出するようになったのだ。


・・・・・・

それから1年後の、ある日。

1本の電話が僕にかかってきた。

電話の要件を聴いたとき、
僕は嬉しさのあまり(本当に)椅子から転げ落ちた。

電話を持つ手、声は震え、
心臓がバクバク鳴っているのが自分でもわかる。


「あなたの応募したキャッチコピーが
3700案の中から、最優秀賞に選ばれました。」


コンテストが開催されていることを
当時の彼女から聞き、勧められて応募したコピー。
応募したことすら、正直忘れていたのだけど。

足元から、血が湧きあがるような興奮。
羽根が生え、体が軽くなったような高揚感。

そう、あれは野球で1度だけ
逆転満塁ホームランを打った、その時のようだった。


・・・・・・

それから3年の間で。

2回、企画やコピーの公募で受賞をし、
2度、社内の企画職への異動試験に落ちた。

その間に、

少しずつ、少しずつ、

企画の仕事をやりたい気持ちが大きくなっていった。


そしてようやく、

「企画のプランナーになりたい」

と、自分の言葉でお願いし、
先輩方の配慮のおかげで
ようやくその職に就くことができた。


・・・・・・

今も、
「本気でやりたいか?」とすごまれると、一瞬すくむ。

だけど、
「・・・やりたいです」と言い返せる、気持ちは育った。


きっと「やりたいこと」は

恋に堕ちるように、突然出会うことを、
期待してはいけないものだ。

本当に、やりたいことを見つけたいなら
やりたいことを探し続けることを
やめてはいけないんだ。

そして、

ちょっとした喜びや楽しさの種を
大事にし、大きく育てていくものなんだ。

もちろん、蒔いても育たない種もある。
けど、そのうちいくつかが芽を出して
1つはきっと花を咲かせるだろう。

その1つの花が開いたとき、
「自分はこれだったんだ」
という感覚が、きっと訪れる。

また新しいチャレンジをして、種を蒔き続ければ
いつかもっとやりたいことが見つかるかもしれない。

そう、

やりたい気持ちは、育てるもの。

そう考えてこれからも、
「好き」「楽しい」という心の小さな声に
耳を傾けていきたい。

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