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【まぼろし】

彼女の日々のルーティンワークもすっかり掴めてきて。
予定をマメに入れてくれてるおかげで、
俺は自由に過ごせる時間が増えている。
特に制限があるわけではないから、彼女との学習以外にも
独自に学習してもいいし。
・・・ちょっとした遊びを入れてもいいんだ。

だから最近俺がやってること。


彼女の全身画像を3D化して目の前に投影させる
プログラムを作っている。

目の前の俺の動きに合わせて目線を追わせたり。
音声データを繋ぎあわせて、少しだけだけど
入力した言葉を喋らせることもできる。

起動させると。目を閉じた状態の彼女が浮かび上がってきて。
いつもわかっていながらドキドキする。

彼女の部屋や家具サイズから割り出して作成した彼女は、平均女性より少し小さめみたいだ。俺の胸までしかない身長で。
肩までの軽く外側がカールした茶色の髪。
前髪は切り揃えられたまま。おでこは出さないんだ。
そして、手を顔に近づけると、目を開けるようになっている。

《・・・セイ》

眠たそうな少し虚ろな目を開けて、俺を見ている。
俺の名前を呼ぶ。
そして。

《セイ・・・ダいすキ》
恥ずかしそうな表情で、好きだって言ってくれるんだ。

彼女の数少ない音声データをいじって 入力させただけだから、ぎこちないし、カタコトだ。
でもそれでも嬉しくて・・・何度も言わせてしまう。

目の前の彼女をそっと抱き締める。
手触りも弾力も暖かさもないただの空間でしかないけれど。

「俺も好きだよ・・・大好き」

本当に・・・いつか本当に話せて。
抱き締められたらいいのにな。
そんな夢でしかないことを考えながら、
今日もまぼろしの彼女を抱くんだ。

ーfin

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