新たな港湾政策へ

国土交通省が「中長期港湾政策(PORT30)」を発表した。

 AI/IoTを活用した港湾のスマート化へ舵を切ったことは、世界の港湾の趨勢に沿うものとして的確と言える。

 もう一つの柱は海上荷動きのとらえ方の変化である。これまでの政策では、基幹航路と称する北米や欧州航路中心の考え方で、京浜または阪神港に輸出入貨物を集中させるための国際コンテナ戦略港湾政策が主軸となっていた。わが国の地方港周辺の貨物を、両港で中継できるよう大型船の受け入れ設備の拡充や、助成金の充実などの施策が導入されてきた。しかし現行の施策は近い将来その役目を完了することになるだろう。
 今や世はアジアの時代である。アジアは低コストの生産拠点という位置づけから、莫大な消費市場へと変貌を遂げつつある。アジアで生産し、アジアで消費するというパターンが定着する。

 そのアジアで生じる海上物流は、「近距離」で「多方向」である。基幹航路で有効とされた「ハブ・アンド・スポークス」志向は通用しない。あらゆる地域に散在する荷主のために、どの港にも直接寄港が要求され、スピードと質の高いロジスティクスの提供が必要となる。PORT30はこの事実を直視し、アジア航路の誘致を重視している。

 国際コンテナ戦略港湾政策で謳われた「選択と集中」は、ここにきて「地方創生」という基本政策との確かな整合性を求められるに至った。

 日本は北海道から沖縄までの長い島国である。この国土をあまねく豊かにし、どの地方でも若者が定着するためには、雇用機会を創出する必要がある。

 戦後続けられてきた太平洋岸中心の産業政策は、ここで大きくベクトルを修正するべきだ。地震、火山噴火、台風、洪水など、天変地変がいつ起きるかもしれないこの国土では、首都圏一極集中は危険である。

 港湾政策は経済産業政策の変化を先取りする形で、日本海側などの地方港の後背地への企業立地を推し進めるよう、パラダイム転換を実現するべきであろう。地方港とアジア諸港を結ぶ海上物流の活性化である。
 この大きな変革を実現するためには、港湾管理を地方自治区分ごとから、もっと広域を対象にする必要がある。本来物流には国境や行政区分は邪魔な存在である。「おらが村」的狭い思考法を排して、地域経済の繁栄のために港湾関係者のみならず、物流、都市計画、企業立地、道路、鉄道などの専門家の衆知を結集し、大きな空間計画を立てる必要がある。

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