回し者お姉さんはどう生きるか ~肋骨に腫瘍が見つかった話~

病院の広い待合室でがんセンターへの紹介状を待ちながら、生まれて初めて「死ぬかもしれないな」と思った。


はじまりと下がらぬ熱

7月19日の夜、突然左わきが痛くなった。寝返りを打とうとすると痛い。
「どうせ寝違えとかだろうし寝れば治るだろう」と思っていたが、残念ながら翌日もちっとも良くならず。

その日のうちに発熱があり、夜には38度台まで熱が上がる。
さすがに発熱外来に行くべきだと思い、翌日かかりつけ医へ。何故か体温は36度台で、念のためコロナの検査をするも陰性。

医師「コロナじゃないですね、風邪薬3日分出しときますね」
私「じゃあこのわきの痛みは何なんですか?」
医師「さあ……

それがわからないから来てるんやろがい。
薬剤師さんはとても丁寧に対応してくれて、「リンパですかねえ?」と言ってくれた。薬剤師さんいつもありがとう。

2度目の発熱外来と紹介状

薬を飲めば一時的に熱が下がるものの、切れるとすぐに39度近くまで熱が上がる生活が続くこと4日。
さすがにしんどすぎるので、7月25日に2度目の発熱外来へ。かかりつけ医は発熱外来が午後しかやっていなかったので、市内でもそこそこのサイズの大病院を選択。主人の運転で病院へ向かった。

発熱外来ではコロナの検査と血液検査を依頼。医師は「どうせコロナだと思うけど、どうしても検査したいって言うなら血液検査するよ」くらいのテンションだったけど、自分の中ではコロナ以外の理由だと思っていたので苦手な採血も頑張った。
コロナはまたしても陰性。血液検査では炎症反応が出ていたようなので、「肺炎とかがないかCTをとりましょう」と言われ、言われるがままにCTへ。

そのCTの結果、「肋骨に見たことのないものが映りこんでいる」と医師。
見たことのないものって何だよ。
整形外科の医師にも見てもらったけれど、こんな例は見たことがないとのこと。発熱外来の医師も平成2年から医師をしていて一度も見たことがないらしい。

CTの画像を見せてもらうと、マックのポテトみたいな細い肋骨の先に、チキンナゲット的な丸い物体がくっついている。このナゲットがいわゆる腫瘍らしいが、現時点ではこれが何なのか全くわからないとのこと。骨かもしれないし骨じゃないかもしれないらしい。何だそれ。
「うちではわからないからがんセンターで診察を受けてきてほしい。効くかわからないけど薬を出しておく」と言われ、待合室で待った。待合室のテレビではちょうど高校野球の茨城県大会決勝がやっていて、主人と2人で高校野球を見たりスマホをいじったり、給水機の麦茶を飲んだりしていた。
しばらくするとがんセンターの予約が取れ、診察が2週間後に決まった。

最初は「謎の病気ってことは治療名や手術名に私の名前がついちゃうかも!?」などと思っていたが、時間が経つにつれてだんだん不安になってきた。
「わからない」ほど怖いものはない。この頃はまだ38度以上の熱が1週間続いていたし、貰った薬を飲んだところで熱が下がる確証すらもなかった。そのうえ、肋骨にある腫瘍は何なのか全くわからない。
見ていただければわかるとおり、私はまだまだ日本の平均寿命には達していない。「死ぬには早いと思うんだけどな」と思いながら、午前の診察が終わり人がまばらになってきた待合室でがんセンターへの紹介状を待った。

心身ボロボロ期

さて、1週間発熱が続いたうえに謎の腫瘍が見つかると人はどうなるだろうか。そう、心身ともにボロボロになる
この頃、私の身体には以下の不調が出ていた。

  • 発熱

  • 左わきの痛み

  • 肌荒れ

  • 口内炎(3つ)

  • 急性膀胱炎

  • 脚の紅斑

  • 両足のむくみ

ろくに物も食べられず歩くこともままならず、トイレでもがき苦しまなければならない地獄絵図。
急性膀胱炎はさすがにしんどかったので、発熱外来に行った翌日に同じ病院の泌尿器科へ行った。担当してくれたのは若い男の先生で、肋骨の腫瘍との関連性を否定したうえで「ごめん、カルテ気になったから見ちゃったよ。ちゃんとがんセンター行きなね」と言ってくれた。

身体がそんな感じで一向に良くならないので、精神面もどんどん沈んでいった。
正直今も復活しきってない。これまで普通にできていたことができなくなる。心のキャパシティが狭くなる。悪い方に悪い方にと考えてしまう。
何もわからない状態で2週間待ち続けるのは、本当にメンタルに悪い。
仕方がないので、8月1日に心療内科に行った。カウンセラーのアドバイスをまとめるとこんな感じ。

  • あの病院はわからないとすぐがんセンターに紹介状を書くから気にするな

  • がんセンターはこの辺で一番の医療機関なので、どんな結果になっても安心

  • 何もわからない状態がストレスなのは当然

  • 旅行に行ったり趣味に没頭したりして、意識を逸らした状態で検査の日まで過ごすと良い

アドバイスどおり、本屋でパズル雑誌を買って遊ぶことにした。この手の雑誌は小学生の頃によく読んでいたけれど、大人になってから遊んでも楽しい。結局4冊も買った。

そうして遊んでいるうちに熱も徐々に下がり、わきの痛みも引いてきた。
がんセンターの診療の日が近づいている。当初は「早く知りたい」と思っていたが、少しずつ「知るのが怖い」という気持ちに変わっていた。

行くぜがんセンター

8月8日。運命の日がやってきた。

初めて行ったがんセンターは、とても大きくて立派な施設だった。
言われるがままに受付を済ませ、「当院の資料ですのでお持ち帰りください」と渡された封筒の中身を確認する。

「がんと宣告された皆様へ」というタイトルの小冊子が入っていた。
まだ何の診察や検査もしていないけれど、思わず身構えた。

初診なのでまずは施設案内のレクリエーションを受け、看護師による問診を受ける。
問診ではこれまでの病状や普段飲んでいる薬・サプリメントのほか、親の住所や年齢など、一見病気と関係なさそうなことまで詳しく訊かれた。緊急連絡先に主人の名前しか書いていなかったから、おそらく第二連絡先として確認しておきたかったのだろう。
私がビビり散らかしていたせいもあってか看護師さんがとても親切で、優しく励ましてくれた。

それが終わるととうとう医師の診察の時間。
診察室で待っていた整形外科の医師は、地元の大病院の医師が匙を投げたCTの画像を見て「おそらく良性」と言い放った
しかし念のため検査をしたいとのことなので、血液検査と尿検査、くわえてレントゲンも撮影することになった。

検査結果が出るまでは暇なので、レストランで昼食を食べながら待った。
レストランは11階にあり、周囲の街並みや海が一望できた。天気が良ければ富士山が見えるそうだが、その日は曇っていて見れなかった。

ついでに足のむくみと紅斑を皮膚科で見てもらうことに。これは予約をしてなかったのでめちゃくちゃ待った。
診察は30分ほどで、話をじっくり聞きながらさまざまな可能性について考慮してくれた。整形外科もそうだが、がんセンターの医師はとても丁寧に診察してくれる。いい人たちだ。
結果、「1週間安静にして様子を見ましょう」という結論になった。何事もなかったようで何より。
ちなみに、1週間後の診察ではだいぶ良くなっていたので「原因がわからないから予防ができないけど、もし同じ症状が出たら安静にしてれば大丈夫」と言われた。これに熱とか別の症状が加わらなければそんなに心配いらないらしい。

整形外科の方はもっと何事もなかった。
検査によって良性であることがほぼ確定したので、「3か月に1回くらいレントゲンで経過観察できればいい」と言われた。でも皮膚科のついでに顔を見せてほしいらしい。
もし突然大きくなったら切除が必要らしいけれど、切除するには手順を踏まないといけないらしく、医師からは「面倒だし手術したくないよね」みたいな雰囲気が見え隠れしていた。
発熱の原因はリンパの腫れらしいけど、なぜ腫れたのかは謎のままだった。普通は腕が上がらなくなるほどリンパが腫れることはないらしい。もしリンパがまた腫れたらすぐ来いと言われた。
1週間後の予約を取り、問診を担当してくれた看護師さんからお菓子をもらってがんセンターをあとにした。

これから先どう生きるのか

これまで大きな病気を経験したことがなかったので、正直めちゃくちゃびっくりした。今でもまだびっくりしてる。自分の肋骨に腫瘍があるなんて信じられないけど、押されると痛いので確かにあるんだと思う。
数週間本当に大変だったけど、将来もっとやべえ病気が見つかったときの予行練習だと思えばいいかな。

人とはちょっと違う肋骨とともに生きていくしかないので、経過観察をサボらずに続けていきたい。
良性なのも現段階ではってだけなので、不安要素はあるけれどじっくり見守っていこう。

おまけ

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