ピアノ

ピアノを弾ける人が好きだ。「ピアノが弾ける」というだけで、その人の評価が2段階くらい上がる。
インターネットのオタクであれば、思春期に触れたものの中に1つは「これに嗜好を捻じ曲げられた」と言えるコンテンツがあると思う。私の場合、それがピアノだ。正確にはピアニストだ。

椎名林檎率いる東京事変の結成当時、ファンの中では「一期事変」などと呼ばれるメンバーのうち、キーボードを担当していたH是都M氏。思春期の私は彼を狂ったように崇めていた。
彼のピアノは打楽器だった。乱雑に鍵盤を叩いているように見えて、しっかりと音楽が奏でられている。当時は音楽のことなんて何も分からないし、今も分からないが、彼のピアノだけは他の誰とも違った。

不幸なのは、私が彼を知った時点で、既に東京事変のメンバーが変わっていたことだった。
彼が東京事変でいた頃の映像は、数曲のMVと全国ツアーのDVDしかない。これ以上増えようがない。
欲しいと思っても供給はなく、気持ちばかりが空回りして、結果的にピアノが弾ける人そのものへの想いがクソデカ感情になってしまった。
ちなみに、ひねくれた子どもだったので、公認である伊澤一葉氏のことはそこまで好きになれなかった。今ではしっかり好きだが、「また筋トレしてるよこの人……」という若干冷静な目線を送っている。

彼はピアノを弾き続けている。たまにテレビのCMでも目にする。
青春時代の熱狂はないが、見るたびに目を奪われる。
ピアノを弾く人は好きだ。でも、彼を超えるピアニストは私の中では今後も現れないと思う。

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