ケニアでマイクロファイナンス立ち上げ──信用証明のない人へ、いかに融資を実現したか:HAKKI AFRICA・小林嶺司
この記事は、GOB Incubation Partnersが運営する「GOBメディア」でも掲載しています。
ケニアの首都ナイロビで、マイクロファイナンスを立ち上げた株式会社HAKKI AFRICA代表取締役の小林嶺司(こばやし・れいじ)さん。現地には、真面目に事業を営んでいても、環境のせいで銀行口座がなく、さらなる事業成長のための融資を受けられない人が多いと言います。
「真面目に生きる人が幸せになれる社会をつくりたい」──。そう話す小林さんが事業に懸ける思いを聞きました。
(写真)HAKKI AFRICAのメンバー、写真左が代表取締役の小林嶺司さん
この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。
KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら
信用証明を持たないケニアの人々
(写真)ナイロビのスラムの様子
私は現在、東アフリカ最大の都市であるケニアの首都ナイロビで、小規模事業者に特化したマイクロファイナンス(小口融資)サービスを提供しています。マイクロファイナンスの例として、ムハマド・ユヌス氏(2006年にノーベル平和賞を受賞)が立ち上げた「グラミン銀行」を知っている人も多いかもしれません。
ケニアでは、人口の8割ほどが「インフォーマルセクター」、いわゆる非正規雇用者です。その多くが、「キオスク」と呼ばれる小さな小売店や道端の露天商など、自分たちで事業を営んでいます。
しかし彼らのほとんどは銀行口座を持っていないため、信用証明ができず、銀行からお金を借りることができません。事業を伸ばそうと思ってもそれが難しい状況に置かれているのです。
たとえ自分のレピュテーションを集めてお金を借りられたとしても、高い金利がのしかかります。現地他社のマイクロファイナンス事業者の金利は、平均でおよそ月利30%、年利換算で360%という日本では考えられない高金利です。そこで我々HAKKI AFRICAでは、テクノロジーの活用などで必要なコストを削減し、最低金利での融資を実現しています
スマホを持たない60%の人でも融資にアクセスできる仕組み
ではここから、具体的にどのように融資を実現するのか、その仕組みを紹介します。
まず先ほど話した通り、そもそも多くの人は銀行口座を持っていません。代替策としてまず考えられるのがモバイルマネーでしょう。日本人からすると意外かもしれませんが、現地ではモバイルマネーが流行しています。しかしそれでもモバイルマネーの決済に必要なスマートフォンを所有しているのは人口4000万人のうち40%ほど。1万円くらいで買える現地のスマホですら、維持費を支払うのが難しい人が多いのが現状です。
そこで私たちが融資の対象にしたのは、スマホを持たない残り60%の人たちです。彼らがスマホの代わりに使っているのはガラパゴス携帯です。一般的にガラケー端末だとマイクロファイナンスにアクセスできませんが、当社では、USSD(Unstructured Supplementary Service Data)と呼ばれるSIMアプリケーションでアクセスできる仕組みを導入。これにより、ガラケーからのアクセスも可能にしました。
そのほか返済の自動記帳や、自動返済のリマインド機能などテクノロジーの力を使うことで、これまで人的コストをかけてきた部分を自動化し、低金利での融資を実現しています。
全部がテックじゃダメ、泥臭い対面営業との両輪で他社に優位
一方で、全てをテクノロジーで簡素化すればいいというものでもありません。例えば他社のマイクロファイナンスの中には、申し込みから融資までまったく人を介さず、すべてアプリ上で完結させているシステムもあります。しかしそうすると、どうしてもデフォルト(債務不履行)率が高くなる傾向にあるため、高い金利を課さざるを得ないのです。
そこで私たちは、全てをテクノロジーで解決するのではなく、コストを集中させるべきところ、コミュニケーションを大事にすべきところには、人を配置しています。
私たちはサービスを利用してもらうために、まず最初は自分たちから地域の各店舗を回りました。ユニークな商材を扱っていたり、真面目に事業を営んでいたりする人たちのもとへ営業に行き、金利の低さなどメリットを伝えるのです。その後、対面での審査を経て、それを通過したら、それ以降は携帯からの借り入れが可能になります。1回目の借り入れは、丁寧に審査をするために融資まで6時間ほどかかりますが、2回目からは1時間以内に送金しています。
(写真)地域の各店舗に、サービスの利点を伝えに回る
私たちは現在20社ほどを競合として見ていますが、そのうち15社ほどは全てをアプリ上で完結させるアプリ型、残りの5社が当社と同じような仕組みです。
アプリ型には、先ほど挙げたような高金利を維持せざるを得ないデメリットがあり、一方で残りの5社はレガシー文化が根強く、テクノロジーを積極的に活用できていません。既存のビジネスモデルで儲かっていることもあり、金利を下げる必要性に迫られていないのです。
私たちはその中間にポジショニングを置き、テクノロジーの力でコスト削減と低金利を実現しつつも、各所に人の手やコミュニケーションを介在させることで高い返済率や安定した収益構造を実現しています。
サービス開始たった数ヶ月で大小合わせ640事業者に融資、返済率も高い水準を維持
(写真)HAKKI AFRICAのミーティングの様子
2019年11月のサービス開始から数ヶ月で、顧客数は640事業者ほど。現在の融資金額の平均は、1人あたり約6000円〜1.5万円で、コロナ禍以前は8000円〜1.5万円ほどで推移していました。
返済についても、現在はケニア政府からの通達で、返済に猶予を持たせることが義務付けられているので一時的にその率が下がっていますが、高い返済率を維持できております。
バックパッカー、鎌倉での起業を経てケニアへ、第1号社員との出会いが事業のきっかけに
現在、ナイロビに在住しながら事業を進めていますが、そもそも私がこの地での立ち上げを決めたのは、以前にバックパッカーとしてケニアの土地を訪れたことがきっかけの1つでした。当時、ケニアの国としての成長性や人々が考えていることが魅力的に映ったんです。また金融法の縛りもきつくなく、小規模資本でも起業しやすい環境だったことも理由です。
私は大学を中退してバックパッカーとして世界を巡ったあと、一度日本に帰り、鎌倉でシェアハウスやゲストハウスの運営などのコミュニティ事業を興しました。それを2017年まで7年間経営し、その後事業譲渡。アフリカへ渡ったのはそれからです。
事業分野がガラッと変わったように思われがちですが、自分の中では「コミュニティ」や「信用」がコアにあります。アフリカに来てから現在の事業を立ち上げるまでに、いろいろな事業を試しました。そこで目に留まったのは、事業取引の際の信用不足でした。一度メルカリのようなサービスを作ろうとしたときも、商品を送っても入金せずに逃げてしまう人がいたりと、相手の信用を図る手段の重要性に気づかされると同時に、日本のすごさを痛感しました。
(写真)右が第1号社員のブライアン
そうした信用が顕著に問われるのは、やはりお金に関する取り引きです。当社の第1号社員であるブラインアンは服の小売り業者で、真面目に事業を営んでいましたが、月収は頑張っても6000円〜8000円くらいが限界。事業を拡大しようにも、スラム出身の彼は投資資金にアクセスできず、環境のせいで信頼を得られない状態にありました。そういう人たちにこそチャンスを与えたいと思ったことが立ち上げのきっかけになりました。
真面目に生きる人が幸せになれるように
日本だと、ルールを決めて赤信号を設置すればみんなそれを守りますが、こっちの人たちは、それを得と考えなければ破ってしまうところがあります。ただその上で人の信用を重んじる文化は昔から根強くありました。ですから、誠実さを言葉ではなく、体現することができれば、きっと現地の人にも伝わると確信していました。
企業理念は、「可能性をふやす人をふやす」です。それをあえて言葉にしなくても、まず私自身が体現し、それを社員、お客さんへと広げていきました。相手をだまさず、誠実に生きる方が未来は明るいから、目先の数千円よりも信用を積み重ねることが大事なんだと伝えていたら、それが今では大きなコミュニティに成長しました。
私たちの最終的なビジョンは、真面目に生きる人が幸せになれる社会をつくることです。真面目な人が得をする文化をつくるために、現在は信用スコアを用いた点数づけで、次の融資にアクセスしやすくする仕組みづくりなど、テクノロジーを駆使した新たなファイナンスも検討しています。
HAKKI AFRICAの詳細はこちら>
取材、執筆:「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム」運営事務局(GOB Incubation Partners)
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