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保険の請求漏れ年間1.6兆円──“かかりつけ医”「payee」で請求漏れを解消:Connpayto・窪田仁

この記事は、GOB Incubation Partnersが運営する「GOBメディア」でも掲載しています。

保険の請求漏れは年間約1.6兆円──。原因は、保険加入者と営業担当者双方が抱える課題にありました。

それを解決するのが、2020年7月にリリースしたスマホアプリ「payee(ペイイー)」です。開発者の窪田仁(くぼた・ひとし)さん(株式会社Connpayto代表取締役)は、30年近く保険業界に携わるエキスパート。現場にいるからこそ見えてきた課題に、シンプルな解決策でアプローチしました。

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(画像)payeeを開発する株式会社Connpayto代表取締役の窪田仁さん

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。

KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら​

自分と家族の加入状況、把握してる? アプリ「payee」1つで見える化

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私たちが開発、提供するアプリ「payee」は保険加入者やその家族からの請求もれをなくすためのプロダクトです。日本における保険の請求漏れは非常に多く、知り合いのコンサルティング会社に依頼して調査したところ、年間で約1兆6000億円の請求漏れが発生しているとの試算が出ました。

こうした問題が起こるのは、制度上、あらゆる保険サービスは加入者やその家族からの請求があってはじめて支払われる仕組みを取っているためです。生命保険や損害保険、共済保険......しかし、皆さんは自分の加入状況を正確に把握しているでしょうか。自分のことならわかっても、親がどんな保険に加入しているか、理解しているでしょうか。 

請求漏れの多くを占めるのは、おそらく家族が加入している保険の請求漏れです。例えば高齢の親が病気で入院したり亡くなったりした時に、請求せずにそのままになっているケースが多いのです。

私自身、親が亡くなった時に、加入している保険をすべて把握できていなかったため、実家を整理しながら手がかりを探し、1社ずつその請求手続きをしたことがありました。運よく見つかったものは請求しましたが、もしかしたら漏れていたものもあったかもしれません。

特に最近は、家族が離れて暮らしているケースも多いでしょう。そうなると、家族の加入状況や、家のどこに保険の書類をしまっているのかなど、昔よりもわからない人が増えているかもしれません。

請求の手続き自体も複雑です。30年近く保険業界で働いていた自分でさえ、保険会社によって手続き方法や提出書類が異なっていて、かなりの手間がかかりました。

「payee」はこうした課題を解決するために立ち上げました。構想から数年の間にいくつかのプロトタイプやトライアルの実施、ヒアリングを重ね、2018年にはグロービス経営大学院大学が主催する「第6回 GLOBIS Venture Challenge~失敗したっていいじゃないか。ガンガンに行こう!」のファイナリストに選出。2020年7月に正式にサービスリリースすることができました。

スマホで撮影するだけ、「 for family」で家族間連携も

payeeの使い方はシンプルです。

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(画像)保険証券を撮影するだけで、保険情報をデータ化できる

アプリをダウンロードし、保険加入時に交付される「保険証券」の書面をカメラで撮影、アップロード。すると、アプリが自動でデータ化してくれます。これで、加入している複数の保険情報を可視化でき、保険期間の終了前や更新前には通知でうっかり忘れを防止できます。

そして10月には「payee for family」をリリース。共有機能を使うことで、保険の加入情報を家族にも共有できるため、家族からの請求もしやすくなります。

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(画像)「payee for family」ならアプリを連携した家族の保険情報を一覧で見ることができる

請求漏れの要因は保険営業側にも......高い離職率の理由は?

このように、payeeは保険加入者の課題を解決すると同時に、実は保険の営業担当者が抱える課題にもアプローチしています。

保険の営業担当者にとって課題の1つは、顧客が加入している保険の管理、把握が難しいことにあります。特に保険の場合、契約時だけでなく、長期的にフォローが必要な商材なので、管理の手間がかかってしまうのです。

もちろん顧客管理系のシステムやツールは以前から存在していますが、営業担当者が把握できるのは自分が販売した保険のみ。しかし多くの顧客は他のチャネルからも保険に加入している場合がほとんどです。そうなると、営業担当者は自分が担当している保険のアフターフォローしかできませんし、顧客にとってはそれが不便の原因になります。

そして営業担当者が抱えるもう1つの課題は、その離職率の高さです。保険業界では3年で8割が辞め、5年も経てばほとんど残らないと言われています。実は、請求漏れの大きな原因の1つにこの離職率が関わっていると私は考えています。というのも、保険に加入するときの決め手の1つは、その担当者の人柄や態度によるところも多いはずです。しかし、その人だから契約したのに、数年で担当者が変わってしまっては、その後、これまで通り密なコミュニケーションは難しくなってしまうでしょう。保険会社からすれば、コールセンターを設置して顧客からの質問や相談に答えられる体制を整えていると言うわけですが、一方で加入者サイドに立つと、電話して音声ダイヤルからオペレーターにつながるまでにも時間がかかりますし、時間帯によっては混雑していることも。ちょっとした相談はしにくい状況です。

高い離職率の原因として、見込客づくりの難しさが挙げられます。保険営業者の多くは、見込客づくりが苦手なため、営業成果を持続することができず、その結果、続けたくても続けられないといった担当者も一定数いると考えられます。もし、既存契約のアフターフォローから見込客づくりをしやすい仕組みが作れれば、こうした意に反する離職を減らすことができるかもしれません。

payeeが保険の“かかりつけ医”に

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(画像)設定した営業担当者に対して、チャットで質問や相談

そこで8月に営業担当者に対して「payee for partners」の提供を開始しました。これに登録すると、payeeを利用している加入者は、アプリ上でpartnersに登録している営業担当者1人を相談員として登録できます。保険の“かかりつけ医”のような感じで、わからないことがあったときに、担当者にチャットで質問やアドバイスを求めることができるのです。すでに複数の人が有料での利用を開始しています。

こうすることで、営業担当者はよりコストをかけずに見込み顧客を獲得できます。「payee for family」との連携を考えると、その顧客の家族まで含めた新規提案が可能です。また従来であれば自分が担当している保険しか見ることができなかったところ、payeeなら他社での加入状況までを把握した上で顧客へ提案ができるので、営業担当者にとってはより効率的な営業が可能になり、また顧客にとってはより利便性の高い提案を受けることが可能になります。

このように、加入者やその家族と営業担当者をつなげることで、営業成績が原因の離職率を改善し、結果的に、担当者不在による請求漏れの防止につなげていきたいと考えています。

外出自粛で保険営業もオンライン化、新たな営業方法の模索が続く

昨今のコロナ禍は、保険業界にも大きな影響を与えています。これまで対面営業がほとんどを占めていた保険営業が、オンラインへと移行せざるを得ない状況になりました。ネット保険の需要も伸びています。

営業担当者に話を聞くと「以前より顧客のもとへ行けない」「全くセールスができていない」など、足で稼ぐことができなくなっている状況があるようです。そういう時にこそ、payeeのようなオンラインツールをうまく活用してもらいたいと思っています。オンラインで営業をする際にも、payeeで加入者の状態を把握した上で臨めば、さまざまなアドバイスや提案ができますし、担当する顧客の更新時期などを把握すれば、次の保険を提案する機会に結びつけることができるはずです。

葬儀、相続、デジタル遺品管理......隣接サービスとの連携で、より便利なサービス提供も可能に

まずは請求漏れを減らすために、加入者、営業担当者ともにpayeeの利用を広げることが一番です。その上で、payeeに登録いただいた情報から、いくつか別業種との連携も可能だと考えています。

例えば生命保険の請求には、家族が本人の死亡確認に同意する必要があります。payeeを使って、ある程度早い段階で死亡情報を把握することができれば、例えば葬儀や相続などのサービスと連携することで、その後必要な対応をスムーズに案内することができると考えています。

また最近ではデジタル遺品の管理サービスや、大切な人へのラストメッセージの送信サービスなど、亡くなった後に何らかの対応をするサービスへのニーズも高まっています。こうしたサービスのネックになっているのが、いつサービスを提供するかです。基本的には亡くなったことを条件にしていますが、その情報をどこから入手するかが難しいのです。payeeがこうしたサービスと連携できれば、保険の請求だけではなく、その後、残された遺族などがさまざまなサービスをスムーズに受けることが可能になるのではと考えています。

payeeのダウンロードはこちら>

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取材、執筆:「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム」運営事務局(GOB Incubation Partners)

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