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One Temperature

2018年初頭この曲を含むアルバムAtune Detuneの制作追い込みをやっていた。

偽りのシンパシーと並んでこのアルバムのハイライト「One Temperture」の制作は僕、オオスミくん、吉井さんで始まった。

最初の二日間は方向性を模索することに集中した。

新しいHIPHOPの可能性を探ることもやぶさかじゃなかったし、何ならトライも試みたもののなぜかうまくことが運ばない。そう、僕らはスタイルではなく、感情的な何かを欲していたんだ。

何度となくスケッチを上書きしてたどり着いたのはオールドスクールなブレイクビート(グラウンドビート的でもある)とピアノのコードプログレッションのコンビネーション。

正直なぜこの和音が自分から出てきたのか今でもわからない。

懐かしいような、切ないような自分で言うのは恥ずかしいけど、ずっと聴いていられるコード循環と右手のパッセージだと思う。

そこからスタジオでテーマを話し合う中傍らにいたRHYMEが聞いていたColin Wilson(英:著作家)のインタビューから抜粋して再構築した文言を語りだした。

「たった一度上温度ががることで見える景色や開くヴィジョンが大きくなる」

これがみんなの腹に刺さった。そこからは分業で僕は歌の部分に集中、オオスミくんはラップを固める。

ラップ以外の部分が全て形になったあともオオスミくんからの連絡はなかなかこなかった。

恐らく二週間以上音沙汰がなかったと記憶してる。
吉井さん曰く、あんなにこもりっきりになってなにかをやっていたのを過去に知らないとのこと。

そんな長いトンネルを経て出てきたリリックは誰でもないオオスミくんらしいものだと思ったし、今となってはリリックの解釈は更に深度を増して届き、3rdヴァースは何度聴いても何度読んでも胸に熱いものがこみ上げてくる。

走り出した 月を追いかけ
秘密の相談 星に問いかけ
連れて行け どっか遠くに
お願いだ あなたの近くに
アスファルトに散らばる夢
拾い集め 現在地不明
暗いビルの谷間は迷路
明日は何色? 導く音色
the most beautifullest thing in this world
って具合だ 美しい力
そう 必ず夜明けは来るから
明日は8K 鮮明フルカラー
息を飲むようなヴィジョン目撃者
たった今 この胸に激写
強い記憶が未来に包まれる
何度でも新しく生まれる

アルバム発売後にMGで唯一オフィシャルにやったGREEN ROOMでのライブにBig-Oをひっぱり出すべく何度も懇願したのだけど、残念ながら実現出来なかった。

今年の初頭自身の配信ライブのための用意をしているとき、吉井さんからの電話で訃報を聞いた。

配信ライブの最後にこの曲をプレイすることにした。涙を拭い、何度も何度もミックスをやり直した。

後出しジャンケンみたいでなんとなく記しにくいのだけど、この曲ができあがったときに感じたなんとも言葉にできない叙情性の答えが見つかった気がした。

オオスミくんが全てなにかを知っていてここに導いたような気さえするのだ。

悲しさや、哀愁、理由不明な懐かしさなど、全て超越した意識下にあるさまざまな感情が混ざりあったものを再確認したのだった。

90年代後半あたりから割と近いところにいたのに実際の「縁」ができるには実に2010年代まで待たなければならなかっただけど、これも何かしら理由が有ったのかもしれない。

奇しくもこれが彼の最後のスタジオ録音の曲になった訳で、僕にとってはまさに宝物なのだ。

そして、彼はもうすでに「強い記憶に導かれ、新しく生まれ」世界のどこかで小粋なライムをかますベイビーになっているかも知れない。

Big-O オオスミくんに捧げる

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