開業して3年半が経って

 久しぶりのブログになります。今回は開業して3年半が経って歯科医師の開業について私が思うことを書きたいと思います。比較的ありふれた個人の小さな歯科医院を開業した私の話ですが、開業を考えている同業の先生においては少しでも参考になれば幸いです。
 まず初めに私個人の話で、一般的な考え方とはもちろん違うところもあり、また今後は私自身考え方が変わっていくかもしれないことをご理解頂ければと思います。

 歯科医師であれば多くの方が「開業」という選択肢を考えることと思います。もちろん勤務医、または他の選択肢もあると思いますし、様々な事情から個人による開業という選択肢のハードルが高くなってきている昨今、それが必ずしも正解ではないと思います。歯科医師は開業して一人前で初めて社会的に認められるみたいなことを昔私も言われたこともありましたが、そんなこともないと思います。開業することが歯科医師全員にとって幸せとなることはないでしょうし。

 そもそも歯科医師はなぜみんな開業しようとするのか?というのを私はずっと理解ができずにいました。というか現在の医院を開業する直前まで理解できず、開業しない道を探していました。私は昔からリスクの高い選択を避け、できるだけ安全な道を選んできました。しかし悩み悩んだ挙句、歯科医師になってから、いや実は歯学部に入った瞬間からリスクの高い人生が始まっているのだということ、そして自分の今後の長い人生において一番リスクが低いのは自分で新規開業して、自分で自分の働く場所をつくる、そして自分のブランドをつくることだという結論に至りました。よって決して強く望んだ開業というわけではなかったですし、おそらく歯科医師でなければ独立していなかったと思います。なので私が開業した理由は「自分が一生働ける場所をつくるため」です。ちなみに私は自分の父親の医院を継承して開業していた時期もありますが、その経験から継承は新規開業より難しい場合、局面があると思いました。なので上手に継承されている先生方は本当に尊敬しております。

 新規開業するにあたって一番初めに決めなければいけないのが場所です。場所によって当然戦略は変わってきますし、そもそも近年競合が少ない場所はほとんどないので、その先生のやりたいこと、スタイルにあった場所、そして後悔しない場所を選ぶしかないと思います。とある激戦区で開業した友人に対して、「よくあの場所で開業したよね、自分には絶対できない。」と言ったところ、全く同じことを友人も私に対して思っていました。開業場所に優劣のようなものはないと思いますが、少なくともそこを選んだその先生にとっては運命の場所であり、物件になるかと思います。私にとってこの大宮駅前は運命の場所であり、「自分はここでなければ開業できなかった」と思うし、「この物件では自分以外できない」とさえ強気に思うようにしています。自分の約40年の人生においておそらく今が一番迷いがないのが、そこに誇りとプライドをもっていて、やるべきことが明確だからです。

 開業すると自分の医院に関する全ての決定権は自分にあり、全責任は自分です。来院される患者様、勤める従業員、技工士さんや業者の方々、その他医院に関わる全ての人は基本的に自分が選んで、選ばれ、そして自分自身を中心に動きます。臨床力も当然大事ですが、それより人間力のようなものが必要とされる場面が多々あります。
 また我々の仕事の多くの悩みが「人」です。特に採用に関しては昨今は人口減少の影響か、なかなか思うようにいかない状況が多いようです。当院も自動精算機、受付アプリ、予約システム、光学スキャナー、その他の機器等によってできる限り仕事を効率化していますが、無人化することは現時点では不可能です。仕事そのものが人と人の関わりで、結局最後は「人」で決まるでしょうし、教育も含めて基本的には悩み続けるしかないと思います。

 ただいずれにしても経営が成り立っていれば一応歯科医院としては成立しますし、上手くいかなければ倒産します。私が開業して一番変わったのはお金の使い方、というかお金に対する考え方です。開業すると出ていくお金、入ってくるお金が今までとは桁が違ってきますし、医院が成長するとさらに大きくなってきます。そのお金をどのように使うかが開業医にとっては非常に重要で、常に悩んでいる事でもあります。お金の使い方は人(雇用、集患)、物、場所、情報・知識(教育)、経験、そして時間等様々な選択肢があります。正直失敗したこともいっぱいありますし、逆にあそこにお金を使って本当に良かったと思えることもあります。いずれにせよ正解はないですし、無駄だった、失敗したと思ってたものが結局必要なもの、なくてはならないものになったというのはよくあることです。全てはやってみないと分からないですし、その経験そのものが大きな財産になると思います。そして全ての決定権と責任は自分にあり、最終的には誰も助けてくれないので、自分の信じた道を突き進むしかないのです。自分の医院の銀行口座の通帳を見て悩んだり恐怖を感じたことがある院長、理事長は多いと思いますが、この感覚というのは実際に開業をして自分の銀行口座で経営をしないと分からないと思います。
 実際に経営をしてみて自分自身は大きい金額を動かすのは向いていないと分かりました。もちろん大きいからいいわけではないのですが、本当に大きい金額を動かしてる先生や社長の考え方は想像できないし、真似できないなと思うようになりました。ただ新規で開業するというのは自分より大きい金額を動かしている同業の方達と戦う行為でもあります。例えば当院のようなターミナル駅の周りなどは資金力の競争となる場面が多々あったりします。もちろん資金力が全てではないと思いますが、ただ私の拙い経験から、歯科医院経営において守りに入るのは逆に危険な場合が多い気がしてます。当業界において競争はさらに激化していくでしょうから、負けないように、存続できるように、医院が成長していく必要があると思うからです。その成長というのは規模の拡大ということよりは、医院の質の向上、そして信用の積み重ねということを意識しています。そのためにもお金を動かす決断をするべき時を逃してはいけないと思っております。

 結論、新規で開業するというのは自分で場所を選んで、お金を借りて、そのお金で医院をつくって、物を買って、人を雇って、広告して、患者様を集めて、治療を行って、そして医院を経営すること。一から自分の医院をつくりあげる、というのを全部自分自身の決定で行うことです。私にとってはとても困難な道で、思うようにいかない日々の連続でした。思いもよらぬトラブルが起きたり、他人と比べて落ち込んでしまうことも多々あります。ただ今の自分の人生は一応充実はしていると思います。それは自分が一生働ける場所で自分自身がつくりあげた仕事をしているからだと思います。

 以上、今後とも小川信、ならびに大宮銀座通り歯科を何卒よろしくお願いします。

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