法務担当が振り返るFCビジネスの1年


NH7023さんからバトンを受け継ぎまして、書かせていただきます。

【自己紹介】
ヘルスケア分野 toCビジネスをフランチャイズ展開する会社にて、一人法務(というか、総務兼務のため0.5人法務、ときどき1.5人になり、また戻る(涙))として、気が付けば12年勤務してきました。
法学部卒でもなく、司法試験にチャレンジしていた等の経験もなく、必要に迫られて経験しながら学ぶ+αでここまで来ました。
「企業法務とは、法務担当とはどうあるべきか」「業務の品質をいかにして担保し、高めていくか」「法務業務の生産性」「法務としてのキャリア」「法務チームの運営とメンバーの育成(再び(やっと)2名体制になったので)」等々、漠然と考えながら(不安に感じながら)も、法務という職種柄、なかなか他社の法務担当の皆さんの取り組みなどを知るすべがなかった(異業種同職種の集まりに行っても、当たり障りのない表面的な話に終始する)ところ、twitterや互助会を通じて学ばせてもらえる環境になり、「インターネットスゲー(今さら)」となっています(運営いただいている皆様、ありがとうございます)。
法務Advent calendarには、今年互助会に混ぜていただいて刺激を受け、数年ぶりにエントリーさせていただきました。錚々たるメンバーの中勢いでエントリーしましたが、「アウトプットすることに意義がある」の精神で、今年考えたこと、これを機に整理したいことを書かせていただきます。

【本日のテーマ】
本日は、「フランチャイズと関連法令」というテーマで書かせていただきます。ここのところの業界の動きと、自身の業務から「調べて整理しておきたい」と考えていることを「Advent Calendar」という機会に乗じて記載します。よろしくお願いします。

【フランチャイズビジネスと関連法令】
1.フランチャイズビジネス(FC)の発展

日本のFCビジネスの歴史は、1963年の「ダスキン」「不二家」から始まったと言われています。以来50数年、外食産業、小売業、サービス業…あらゆる領域でFCは私たち消費者の生活に深く根付いた存在となっています。
また、企業や個人事業主といった、事業者側の経営手法の一つとしても、FCの存在感は年々高まっていると感じます。

企業が、本業に次ぐ第二、第三の柱として、FCを通じて全くの異業種に進出することは一般的な選択肢の一つになっていますし、近年では、自社ブランドを展開する外食企業などが、同業他社が展開するFCに参加するケースも増えてきました。これは、FCビジネスの発展を考えるうえで、非常に象徴的な事案であると感じます。

「幸楽苑が「ひとり焼肉」 19年、10店舗を業態転換」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39390020W8A221C1TJ1000
「アレフが「ゴンチャ」FC事業」
https://www.47news.jp/5534622.html
「コシダカのFC12店舗で「から揚げの天才」50店超え。「から好し」は100店舗超え」
https://www.foodrink.co.jp/news/2020/10/2191830.php

他方、FC本部側にとっても、FCビジネスは成長戦略として極めて有効です。ある業態を直営で多店舗展開する場合、初期投資(一般的な飲食店で1店舗につき数千万円)をおこない、店長となる人材を採用・育成し、現地で従業員を採用し…ということを、出店数分おこなわなければなりません。資金が潤沢で人材が豊富な大企業であれば可能ですが、小資本の企業では資金調達が難しく、かといって出店した店舗の利益で賄っていくのではスピーディな展開は不可能です。最初の数店舗がいかにユニークで儲かる店舗であっても、そうこうしているうちに大資本の企業に真似されてあっという間にシェアを奪われてしまいます。

しかしFCであれば、各地の加盟店が投資をし、採用して出店しますし、法人の場合であれば、すでに事業経験を有する経営者が主体者としてマネジメントをおこないますので、FC本部に資金力がなくてもスピーディに展開することが可能となり、シェアの獲得とブランドの浸透を早期に実現することができます。
三軒茶屋の1店舗の焼肉店から、瞬く間に1000店舗に成長した「牛角」や、銀行を脱サラしてスタートし、大資本が直営展開するスターバックスと同じシアトル系コーヒーとして双璧をなした「タリーズ」はその好例です。

情報流通のスピードと消費者の趣向の変化が益々速くなっている現代において、ゼロから新しい業態を立ち上げて成功させることが、ますます難しくなっているのだと思います。
そのような中で、FCビジネスは「スピーディに店舗展開をしたいFC本部」と「オリジナルの事業をイチから試行錯誤して立ち上げるのではなく、『時間を買って』成功確率が高いビジネスに取り組みたい企業」そして「できるだけリスクを抑えて独立、起業したい個人」のニーズが合致して成長してきました。

2.フランチャイズ契約と関連法令
契約内容としては、FC本部から加盟店に対し、商標の使用権付与、商標を使用しての営業権付与、ノウハウの利用許諾、店舗の経営指導、商品、広告宣伝等を提供し、その対価として加盟店から本部に対し、加盟金、ロイヤルティ、商品代金、広告費等を支払うという継続的取引契約が基本となります。
これ自体は事業者間のギブ・アンド・テイクの契約であり、さほど複雑なものではありません。
しかし、
・同じブランドの下で、同一商品、サービスを提供すること
・同業他社と差別化を図る独自のノウハウ等を、他者に提供するものであること
という、FCビジネス特有の要素により、通常の取引では認められない事項が、例外的に認められています。例えば、
・価格の指定
・営業日や営業時間の指定
・仕入業者の指定
・工事業者の指定
・競業避止義務(契約期間中及び終了後数年間)
などです。また、
・(一部の大規模加盟店を除き)一方当事者(本部)に対する他方当事者(加盟店)の依存度が極めて高く、構造的に優越的地位になりやすい
ことも、FCビジネスの特徴であると言えます。

このような、ある種特殊な契約(取引)形態でありながら、FCビジネスをダイレクトに対象とした法律はありません。
FCの関連法令について、日本フランチャイズチェーン協会のwebサイトでは、以下のように記載されています。

<中小小売商業振興法>
中小小売商業振興法は、商店街の整備・店舗の集団化・共同店舗等の整備等を通じて、中小小売商業者の経営を近代化することで、中小小売商業の振興を図り、それにより、多様化する国民(消費者)のニーズに応えることを目的とした法律である(同法1条)。そのため、同法はフランチャイズ・ビジネスだけを規律することを目的としたものではない。しかし、同法は中小小売商業の経営近代化を図る有効な手段として、連鎖化事業(いわゆるチェーン事業)を位置づけている。この連鎖化事業の中にはフランチャイズ・システムも含まれ、フランチャイズ・システムを特に「特定連鎖化事業」(同法11条)として、その運営の適正化を図っている。具体的には、特定連鎖化事業を行うものは、その加盟希望者に対して同法が定める重要事項について情報を開示し、説明することを義務づけている。この時、本部から加盟者に対して交付される書面が「法定開示書面」と呼ばれるものである。
<独占禁止法>
この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇用及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としている。であるから、この法律もフランチャイズ・ビジネスだけを規律することを目的としたものではない。
しかし、フランチャイズ・システムにおいては、契約上、加盟者は本部から様々な拘束を受ける。そのため、こうした拘束が独占禁止法に反しないかが問題となったのである。
そこで公正取引委員会は、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について(「フランチャイズガイドライン」)」を発表し、その点についての基準を明確にしました。平成14年には現在のフランチャイズガイドラインに改訂された。

このように、既存の法律を組み合わせる、という方法で(特にFC本部が)行き過ぎた対応をしないように規制してきたわけですが、「これでは不十分であり、FCビジネスをダイレクトに対象とした法律が必要である」という意見は、一部の弁護士を中心に根強く主張されてきました。FC本部の法務担当として動きを注視してきましたが、特にその流れが強まった、という印象を持っていませんでした。

3.流れを変えた「東大阪の乱」
2019年2月、東大阪市内のセブンイレブンの加盟店が、人手不足を理由に24時間営業をやめ、独自に時短営業を始めました。本部であるセブン-イレブン・ジャパンはすぐさま通知を出し、「24時間営業に戻さなければ契約解除」と警告しましたがオーナーは翻意せず、時短営業(6時~25時営業)を継続。本部は「クレームが多い」等の理由で昨年末にFC契約を解除しました。オーナーは2020年1月に、解除は無効だとして店主の地位確認を求める仮処分を申し立て、これに対して本部も仮処分を申し立て、契約解除は有効だとしてオーナーに店舗の明け渡しを求めました。2020年9月、大阪地裁は双方の申請を却下しましたが、両者は仮処分とは別に大阪地裁に訴訟を起こしており、争いは継続しています。

本件については、様々なメディアで報じられていますので、詳細はそちらに譲りますが、これが「アリの一穴」となって公正取引委員会が動きました。

「優越的地位の乱用」巡り、公取委がコンビニ各社のFC本部に報告を「要請」
https://www.zaikei.co.jp/article/20200904/583771.html

これを受けてコンビニFC本部も、これまでになかった対応を見せ始めています。

ミニストップ、フランチャイズ契約が画期的!コンビニオーナー搾取問題を根本的に解決か
https://biz-journal.jp/2020/12/post_196343.html

業界4番手で、大手3社とは異なる戦略で加盟店との新たな関係づくりを目指すミニストップや、沢田氏率いるファミリーマートがどのような手に出るか、また、一部から「公取委からの警告に大手3社がタテマエだけの回答」と言われるような状況に公取委がどう動くのか、注目してきたいと思います。

4.FCビジネスと法規制の今後
「東大阪の乱」で空いた「アリの一穴」は、確実に大きな穴となり、法的にも、ビジネス的にも、「本部と加盟店の関係」を見直すきっかけになると思います。

法的には、「フランチャイズ法」が成立するかどうかはわかりませんが、公取委がコンビニ包囲網をより狭めてくることは間違いないと思います。またFCビジネスは、逆方向から、一見何の関係もなさそうに見える「労働基準法」の網も迫っているように見えます。

世の中のサラリーマンが、「働き方改革」だの「ワークライフバランス」と言われてどんどん労働時間が制限されている(のか?)中で、個人のFC加盟店は真逆の働き方をし、これが「独立事業者だから」のひと言で見逃されてきました。

確かに契約上は「独立事業者」なのですが、全てがマニュアル化され、働く時間も(実質的に)拘束され、ほとんど裁量がなく…という状態が、果たして独立事業者と言えるのか、という問題が叫ばれて久しく、ついにはこんな判断も出されました。

公文の先生は「労働者」 FC契約めぐり「画期的」判断
https://www.asahi.com/articles/ASM703J00M70UTIL00D.html

他方、多少縛りがあっても「一国一城の主」となり、自分の店を持つ。自分の店だから、サラリーマンよりも一生懸命働く。それにより加盟店の業績が良くなり、本部も儲かる。win-winの面があることもまた真実です。


「社員からFCオーナーとして独立したら昨日まで気づかなかった扉の小さい傷が気になるようになってきた。」@カンブリア宮殿「コメダ珈琲」

そして、最近絶好調のワークマンは、明らかにコンビニを意識して「ホワイトフランチャイズ」を標榜し、「年間の店休日を増やす」「閉店後5分で帰宅できる」等々「しない経営」を実践して、既存加盟店の圧倒的な支持と、新規加盟希望者(希望してもほとんどできないのですが)を集めています。

こう考えると、本部が優越的地位にモノを言わせて加盟店を「働かせる」タイプのFCには公取委が厳しく変革を迫り、同時にビジネスとしても、パートナーである加盟店の支持を得られなくなっていく。他方、「加盟店に無理をさせない」であったり、「真に対等なパートナーとしての関係を目指す」FCが支持を集めていく。

そのような流れになっていけば、今以上にFCビジネスをダイレクトに対象とした法律がなくても、公取委が独禁法を振りかざして規制に動かなくても、FCビジネスは良い方向に向かっていくように思います。

【あとがき】
うーむ…最後は完全に「駆け込み」のような内容になってしまいましたが、今年漠然と考えていたことを、多少なりとも整理することができ、今後注目していくべきことも見えてきたように思います。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

明日は、Daisuke Nakajohさんです。よろしくお願いいたします。

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