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身近な組織を見直す-COVID-19と都市計画 その7

 COVID-19、そろそろ第一波が終わりそうなので、えらく大変な事態は避けられたのかな、と思いつつ、第二波、第三波に備えて、もうしばらくnoteを書き溜めておこうと思います。第二波、いつくるんですかね。スペイン風邪の第二波は半年後だったらしく、数ヶ月くらいのインターバルだとすれば、次に備えて仕込む時間はそれほど無いということですね。

 さて昨日に我が家にもついにマスクが届きました。10万円の給付金の申請書も届きました。前者は国家から日本郵政の仕組みを使って行われた再配分、後者は市町村の仕組みを使って行われた再配分です。日本郵政は昔の郵便局が2007年の郵政民営・分社化にともなって現在の形になったもの。郵便制度そのものは1871年に始まっていますから、築130年くらいの古民家をリノベしてから13年が経ったということですね。
 一方の市町村は、2000年代に(都市計画は1990年代からですが)ぐいぐいと地方分権が進みました。これも古い仕組みですが、市制と町村制が公布された1888年をはじまりとすると、築100年くらいの古民家をリノベして10年が経ったということ。私は仕事柄、ここ20年の都市計画の地方分権をひしひしと感じていますが、普通の人にとってみれば、あまり実感されていないかもしれません。とはいえ、COVID-19の経済対策でプレミア付き地域振興券なんてものを配った自治体もあるそうですから、そういった独自の気の利いた施策を打てるのは、地方分権のおかげということです。
 郵政についての評価はちょっと微妙ですが(この迅速でない感じが、配達の仕組みに起因するのか、調達の側に起因するのかがわからないので)、いずれにせよ、ここ15年くらいで改善してきた社会の仕組みを動員して、できたことがこれくらい、ということです。

 未知な現象に対してはまずデータを集めないといけません。マスクは不安感をやわらげるために行なったらしいので(市場価格を下げたってのは後付けだよなー)、マスクがあるかないか、それによって人々がどれくらい不安になっているのか、マスクと不安感の因果関係も含んだデータがまず必要です。そしてそれを分析し、何らかの政策を立てます。そこには専門性が必要になることが多いので、COVID-19への対応のように専門家会議が作られることもあります。政策は専門的な知見だけでなく、それが実行できる資源が十分にあるかどうかということ(予算あんの?誰やんの?っていう問題)に制限されるので、理想論と現実論が折衷したところで作られます。例えばマスクの場合は、たぶん急に動かせる予算の制約と生産能力の制約、そして誰が配るのかっていう問題があったのではないかと思われますので、それらのすり合わせで一家庭2枚という、(絶)妙な政策が作られたのだと思います。
 そして最後はそれを実現する段階。政策の種類にはざっくりと二つしかなく、集めた税金の再配分の仕方を変える(例えば保育園つくろうと思っていた予算をマスクにまわした、みたいな変え方。(これは事実じゃないですよ))か、社会のルールをかえる(例えばマスク工場の立地を促進するために土地利用の規制を緩和するみたいな変え方(これも事実じゃないですよ))です。二つの例えからわかるように、前者の方が後者より直接的に効果があらわれます。COVID-19で不安定化した社会を安定させるために迅速さが求められたため、マスクも給付金も前者の「再配分の仕方を変える」という政策がとられました。そして実際の再配分を日本郵政と自治体がそれぞれ担ったわけです。

 どんな政策を実現する時であっても、データを集める、分析する、政策をつくる、実行する仕組みが必要です。今回のマスクと給付金についての評価はかなり分かれると思います。データの集め方が間違えていたのかも、分析が間違えていたのかも、政策が間違えていたのかも、実行の方法が間違えていたのかもしれません。逆に言えば、政策の質をあげるためには、データ、分析、政策立案、実行の仕組みを改善していくしかありません。この仕組みは、明治維新で近代国家をつくって以来、延々と改善されてきました。その最近の改善が郵政改革だったり、地方分権だったわけで、この改善がうまいこと機能したのかな、ということを考え、次なる改善につなげていかないといけません。

 さて、改善の主体は私たち自身でもあります。ここ15年のあいだ、まちづくりだ、コミュニティデザインだっていろいろなことをして、私たちは自身のまわりにデータ収集、分析、政策立案、実行の小さな仕組みを作ってきました。今回のCOVID-19でその仕組みがどう機能したのか、機能するべきだったのかを考えなくてはなりません。
 そんな視点で考えたときに、COVID-19への対応で、ほとんど機能しなかったんじゃないかと思っているのが、市町村よりもさらに身近なスケールで機能する仕組みです。例えば町内会と自治会。これらはほとんどの地域にあると思いますが、例えば町に住んでいる人の情報(誰が困っているか、誰が感染してしまったなど)を掴んでいた、掴もうとしていたところはほとんどないでしょう。集合住宅には管理組合がありますが、集合住宅の入り口にアルコールを配置する、なんてことができた管理組合はどれくらいあるのでしょうか。消防団のように防災のための組織もありますが、それは都市を封鎖する、市民の行動を制限するときにどういうふうに機能するのでしょうか。(ちょっと曖昧な書き方になっているのは、もしかしたら機能したところもあるかもって思っているからです。一般的に市街地が古く、あまり人口移動がないところであればあるほどこういった組織の紐帯が強いので、素晴らしい動きをした組織があるかもしれません。)

 これから次なる第二波、第三波にむけてデータ収集、分析、政策立案、実行の仕組みを改善していくことになると思いますが、そのときにこれら身近なスケールで機能する仕組みを少しだけ鍛えることができればよいのではないかと思います。
 そこを鍛えるとは、その仕組みに携わる人力を増やしていくということになるのですが、自粛警察のように、自分たちを守るために何かやらなくては、と利他的な行動をする人は地域に多く住んでいます。自粛警察は人的リソースの無駄遣い、空回り感があるので、それを的確に振り向けることができたら、かなりのことができるんじゃないかと思いますし、そこにデータ収集、分析、政策立案、実行のツールをうまく分配することができれば、かなり面白いことができるんじゃないかと思います。
 リモート会議のシステムを使うことによって、町内会の会議なんかが活性化するんじゃないと思いますし、毎朝市長がそれを使って町内会長に状況伺いする、それを市役所で地図化して夕方にはウェブサイトで公開する、そして翌日には必要な物資を配分する、なんてこともできるんじゃないですかね。

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