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【イベントレポート】品川スタイル研究所2021 第1回Session「“品川港南”で「働く」〜より働きやすいまちになるために〜」

日本有数のオフィス街と呼ばれる、品川。
歳月をかけてまちの中で育まれてきた、ここならではの「ワークスタイル」と「働きやすさ」が、時代の移り変わりとともに変わり始めている。コロナ禍で加速したリモートワーク化で昼間人口の構成も大きく変わり、このまちにある「働き方」がさらに多様化し変わりつつある今。このまちの未来に関心のある皆様、まちに関わる実践者の皆様と“品川港南”の「より働きやすい未来像」をともに見つめ、意見を出し合いどんなアクションが今まちの中で必要なのか?ヒントを探るべく、2回の連続イベントを実施します。
港南で働くことに関して、前回「公開企画会議」で見つけた今まちにある声や想い、課題を受けて、今回のSessionではそれら課題を解消し夢見る港南像を実現するにはどんなアクションができそうかともに紐解きます。
今回の記事では、品川港南にご縁の深いまちの研究員の皆さまをお迎えし、地域で活動する上でのさまざまな観点から語り合ったイベントの第1回Session「“品川港南”で「働く」〜より働きやすいまちになるために〜」の内容をnoteにてご紹介します。

“働く”の今 -ワークスタイル最新潮流

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キーノート+パネリストとしてコクヨワークスタイル研究所所長・WORKSIGHT編集長 山下 正太郎氏をお迎えし、ディスカッションを行います。


山下 正太郎氏(コクヨワークスタイル研究所所長・WORKSIGHT編集長)
コクヨ株式会社に入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンサルティング業務に従事。手がけた企業が「日経ニューオフィス賞(経済産業大臣賞、クリエイティブオフィス賞など)」を受賞。
2011年、グローバルで成長する企業の働き方とオフィス環境を解いたメディア『WORKSIGHT(ワークサイト)』を創刊。また同年、未来の働き方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立ち上げる。
※見逃し配信動画内(10:30~20:50)で山下さんの「”働く”の今 ワークスタイル最新潮流」をご覧になっていただけます

山下 正太郎氏(以下、山下):働き方は「コロナ禍で変わった」という実感があるかと思いますが、コロナ前から働き方はこの10年で少しずつ変わってきていました。
まず、アクティビティベストワーキング(ABW)という、時間と場所を柔軟にして働き、優秀な人材を雇いやすくする動きです。一方、柔軟性とは真逆のなるべく同じ場所で働き続けるイノベーションリノベーション観点の動きもあります。GAFAに代表されるテック企業では、オフィスの中にスポーツジムをつくったり食事ができる空間をつくり、なるべくオフィス内にいてもらうことによりコミュニケーション量を増やしています。相反する働く形が大きく進んだなか、パンデミックによって全世界同時に「WORK FROM HOME(自宅で働く)」が強制されました。
ポストコロナ以降は、リモートとオフィスを組み合わせた「ハイブリッドワーク」という働き方を軸にして、さまざまな実践が展開されているところです。
ハイブリッドワークは、オフィスにいる人もいれば、オンラインの人、アバターでコラボレーションをする人など働き方のモードが多様化かつ混在していることが、従来のABWとは異なる特徴です。そして、ワーカーもオフィスから離れることで、自分の体力や意欲を趣味や副業など、別の活動に振り分けることができ「パッション・エコノミー」として新しい経済・社会をつくる原動力となっています。


ーーワーカーもオフィスへ行く気持ちが離れていると思うのですが、より働きやすくなるためのモチベーションアップにどのようなことが必要ですか?

山下:今までは習慣的にオフィスに行かなくてはいけない理由があったものの、働き方が自由になってしまった現在、オフィスの機能面だけでワーカーを呼び寄せるアプローチは難しくなっています。オフィス機能以外の要素を取り入れ、ワーカーが自然と選択したくなる環境を整えるのが必要だと思います。

ディスカッション①人のつながりでオフィスエリアを働きやすい空間にするため必要なことは?

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建築家/MACAP代表 西倉 美祝氏を招いてディスカッションを行いました。

西倉 美祝氏(建築家/MACAP代表)
東京大学大学院修了後、株式会社坂茂建築設計を経て2018年に独立。現在は京都を拠点に建築設計をしつつ、民間資本の公共性についての研究活動も展開。SDレビュー2018入選。雑誌「商店建築」にて連載執筆中。
※見逃し配信動画内(28:10~44:42)で西倉さんの「2021年以降の実空間の利活用方法「超-地方」から考える」をご覧になっていただけます

西倉 美祝 氏(以下、西倉):商業空間の公共性について、トラフィック(交通)量と種類を増やせば公共的な場所に近づき、商業的にもプラスになることをうまく循環させていけたらと思います。
品川の場合、オフィスへの出勤によって人の流れがつくられていると思います。
都心の商業空間は、目的的に購買活動をする場所として提供しているのでトラフィック量が減っている。一方、地方ではトラフィック量は都心にくらべ元々限られているので、限られたトラフィックをオンラインと総合的に考えるノウハウが進んでいる事例が多いです。。都心も既存のトラフィックに甘んじることなくオンラインと総合的に考え、実空間のトラフィックの質を変容させる必要があります。

山下:やはり目的性の高い空間(ディスティネーション)をつくることが必要ですが、オフィス空間はディスティネーションとは反対で習慣の塊という感覚ですよね。
これまでは駅など一定数の人の滞留があるから商環境が成功するという考えでしたが、人がいないということを前提にして、「特別な体験を描けるか」また「空間へアクセスさせるためのメディアなどの導線を描けるか」が問われています。

西倉:建築家は目の前で起きているコトやモノのみを強調し実空間をつくる発想になってしまうので、カスタマージャーニー視点が欠けており、議論からも外れている部分があります。
僕自身は公共空間よりも商業空間に重きを置き、「行動」を軸として実空間の設計について考えているので、実空間だけではない体験をつくって追従できるかを建築設計の視点から捉えようとしています。
その視点で現在の商業空間の動向を見ると、ディストネーション化している商業施設とそうでない施設が両極端になっているように思います。
また空間を行動を軸に捉える際、公民関わらず量的に分析する視点が必要ですが、パブリックスペースの利活用として、人が関わるかの観点を数字とデザインでどう評価するのかも建築家サイドの課題として残っています。

山下:人が関われるような建築はどのようなところがヒントとなりそうですか?

西倉:基本的に人が関わるのは建築のデザインで直接的にどうこうするというよりも、関わりたい人に「関わるチャンス」を与えるというのが重要かと思います。
例えば広場で集まったとき、誰かと会話をしたいかというとなんとなく距離をとる方が多いと思います。一方でいろいろな人と話したい人もいたり、なにかきっかけがあって話してみるということも多いと思うので、コミュニケーションを取るにしろ取らないにしろ、どれだけ選択できる行動のバリエーションが提供できるが重要かなと思います。

ーーリモートやハイブリッドワークができない方も港南エリアにはいらっしゃいますが、港南全体の働き方を向上させると考えたときにできることはありますか?

山下:今までのオフィス街は職住分離の世界観のもと、働くことに特化されていましたが、街中に働く以外の要素が散りばめられた多層的な空間ができれば魅力的な街になるのではと思います。
港南は住宅エリアも隣接しているので、生活圏でさまざまな体験ができれば、その方たちにとっても喜ばしい変化なのではと思います。

西倉:実体験として、2年前まで都内の自宅で一人で設計をしていたのですが、そこは窓も空間も小さく、仕事をしている時は仕事以外の、例えば気晴らしなどの行動に全く開かれていない空間だったんですね。仕事をする場所は仕事する場所、気晴らしをする場所は気晴らしをする場所、というように都心の生活は目的別に作られ、別の体験をするためには外に移動しなくてはいけません。
他方、現在は京都で暮らしていますが、山や自然が近く、窓から街も見渡せ、自宅の周辺には様々な歴史的スポットが眠っているという環境になり、一つの空間にいるけど仕事に縛られず様々な体験や行動に開かれていて、気持ちいいです。
港南エリアも、リアルなトラフィックが減り床が余るのであれば、余った床で今まで足りなかった体験や行動を実現できるかもしれないので、実際に出勤しなくてはいけない方にもこの流れは結果的にプラスになりえるんじゃないかと思います。

ーー仕事だけに凝り固まった街ではなく、いろいろな接点からQOLをあげられるような街に住んだり働いたりできると結果的に生活満足度が上がり働きやすさにつながる、というヒントをいただけました。

ディスカッション②企業で行う地域連携でより働きやすい空間に

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地域連携で働きやすい空間を構築するディスカッション②では、株式会社ディー・エヌ・エー デザイン本部CreativePR 後藤 あゆみ 氏にお話を伺いました。

後藤 あゆみ 氏(株式会社ディー・エヌ・エー デザイン本部CreativePR)2015年からDeNA デザイン本部 専属で、デザインを専門としたPR / ブランディング業務に従事。2018年にデザインプロジェクト「Design Scramble(デザインスクランブル)」を立ち上げ、渋谷でデザインフェスティバルを開催した。
参考:Design Scramble
https://designscramble.jp/
※見逃し配信動画内(1:09:27~1:22:57)で「Design Scramble」のお話をご覧にいただけます。

ーーDesign Scrambleとても素敵ですが、品川港南エリアは無機質な印象があり、企業でチーム連携をすると働きやすいのか懐疑的ではあったのが、ここまで出来ると凄いな思ったのですがどうでしょうか。


山下:そうですね、後藤さんのお話を伺って、企業集積する街の大きな可能性を感じました。何かをやりたいと思いっている人は相当数いると思いますが、Design Scramblのように実際にその活動に参画してもらうために何を工夫されたのですか?

後藤 あゆみ氏(以下、後藤):振り返ると、前例のない取り組みだったのによく参加企業さまがついてきてくださったな……と思います。なぜ協力してくれたかの点ですと、絶対にやりきるという自信と熱量でしかないかなと思います。

ーー何かをしたい、と考えている人たちの背中を押してくれたように思います。

後藤:参加企業さまは、デザイナー採用や組織ブランディングに活かしたいという観点も実現しているようです。

ーー企業間で親睦を深めるイベントを開催しても、広がりが限定的になっています。品川も通過点ではなく目的地にするための仕組みをつくっているところですが、行政や観光協会など、どのように地域や企業を巻き込んでいますか。

後藤:一般の方まではまだ巻き込めてないのですが、飲食店企業に参加いただいてイベント開催時は渋谷の飲食店で割引飲食ができる設定をしたりと、おもしろいコラボレーション施策をしています。
今後は行政や街のデザイン事務所、学校などとも連携できると新しい連携ができそうと思っています。

山下:シンプルに自分の良く知る仲間が沢山いる街は、悩み相談や仕事のつながりもあったりと働いていて気持ちがいいと思います。
ーー渋谷の活動のなかで、プロジェクトリーダーや責任者など、どのあたりの階層の方たちがまとまったのでしょうか。

後藤:もともとは自分のつながりで動いたので、職種でいうと、デザイナーの方がほとんどです。私が人材系企業にいたこともあり人事の方も多く、どちらかですね。

山下:企業の持ち出しが前提になると途端に動きが鈍くなったりすると思うのですが、企業の主体性・やる気を引き上げるコツや工夫はありますか?

後藤:実は特に何かをしたわけではなく、参加してくださる時点でエネルギーがある方しか乗らないという点が大きかったかと思います。
本当にデザインが好きだったり、採用活動に活かせそうだったり


ーーダイレクトに誰々に会える、仲間がいることが自分の働きやすさやその街で働く意味を見いだせるのではと思いました。

最後に 品川港南にできること

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ーーより働きやすくなるテーマでディスカッションを行ってきました。
オフィスのパブリックスペースとしてハイブリッドワークが進み、みんなが「いろいろな場所で働く」ことに慣れてきています。そのなかでオフィスに行くのも選択肢となるように、単一の街というよりも工夫付けが必要なのではと思います。

山下:ただ通うという習慣的な街から、わざわざ足を運ぶ目的的な街になるのが港南エリアのテーマだと思います。なぜ立ち寄るのか、機能が多層的(働く、学ぶ、暮らす)であること、体験がシームレスでつながることが特に重要だと考えています。そしてそれらを考える上で、核となる街のアイデンティティを見つめ直さなければなりません。例えば、品川のアイデンティティとして、「ものづくり」が挙げられます。企業内にいるものづくり好きな人を横軸でつなぐことができれば、新しい品川の価値創造につながるのではないでしょうか。

登壇者の皆様、ありがとうございました。
さらに踏み込んだ内容は、ぜひ動画を御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=ctA5RirnNsE