青木ヶ原樹海
2022年8月6日
山梨県 西湖ネイチャーセンターで、樹海ツアーに参加しました。1時間ほどのお手軽な観光ツアーでしたが、素晴らしいガイドさんのおかけでたくさん勉強になりました。
樹海は面白い!
青木ヶ原樹海とは
今から1200年前、富士山が大噴火した際に流れ出た溶岩の台地に形成された広大な樹林です。
1200年前といえば平安初期なので、奈良時代の人々は青木ヶ原樹海を知らないわけです。なんとも若々しい森です。
特徴は、季節変化のない常緑針葉樹の森ということです。
溶岩台地は凸凹が激しく、土壌が少ないため、植物は溶岩表面を這うように根を張り、林床には苔類が繁茂して独特の景観をつくっています。
地質
動植物の様子は、その土地の地形や地質、気候によって特徴が異なります。
青木ヶ原樹海の生物の特徴は、溶岩台地という生態系基盤に結びつけて考えるとわかりやすいです。
そこで、まずは地質の整理から。
昔、学校で習った岩石分類
岩石は、マグマが冷え固まった火成岩と、海や湖の底に積み重なって固まった堆積岩に大きく二分されます。
火成岩は、マグマの冷却速さと鉱物成分によって6分類、堆積岩は粒径の大きさと堆積物によって6分類されます。
中学、高校の地学の授業を懐かしく思い出します。
①火成岩(マグマの冷却)
1)火山岩(浅場で急冷)
・流紋岩(粘性強、白)
・安山岩(中間)
・玄武岩(粘性弱、黒)
2)深成岩(深場で緩冷)
・花崗岩(粘性強、白)
・閃緑岩(中間)
・班れい岩(粘性弱、黒)
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②堆積岩(海底、湖底の溜まり)
・泥岩(鉱物、細粒)
・砂岩(鉱物、中粒)
・礫岩(鉱物、粗粒)
・凝灰岩(火山灰)
・チャート(放散虫)
・石灰岩(貝、珊瑚)
※凝灰岩は、火山活動由来なので、火成岩のような微妙な立場です。
玄武岩
青木ヶ原樹海の溶岩は"玄武岩"です。
マグマ由来の火成岩のうち、地表付近の浅場で急速に冷却された火山岩です。マグマの粘り気が弱かったので、石英成分が少なく"黒っぽい"のが特徴です。
ところで玄武と言えば、古代中国の伝説に登場する空想動物で、たしか亀・蛇のような格好をした黒い霊獣です。
朱雀、青龍、白虎と併せて方位を守護する四神獣とされ、玄武は北の守護神です。
陰陽道では、五行の水、方位の北、色の黒、一日の夜、季節の冬、人生の玄冬などが当てはめられます。
磁石が狂う磁鉄鉱
樹海は、方位磁石が狂って遭難する、という話がありますが、実際はどうなんでしょうか。
溶岩台地の玄武岩には、黒っぽい石と赤茶色の石あります。
黒い石は、磁鉄鉱が多く含まれている石なので、磁性を帯びておりコンパスを狂わせます。しかし、磁力がとても弱いので、コンパスを石に直着けすれば反応するものの、普通に立って手に持つ程度に離れると、コンパスは狂いません。ガイドさんが丁寧に実践してくれましたので、よーくわかりました。
一方、赤茶色の石は、赤鉄鉱が多い石で、磁力はありません。
溶岩が冷え固まる時、玄武岩溶岩流の内部は酸素不足のため、鉄分が磁鉄鉱(Fe3O4)に変化して黒っぽくなります。
一方、溶岩流の表面部は、空気に触れて酸化が進むため、鉄分が赤鉄鉱(Fe2O3)に変化して赤茶色になります。
風穴・溶岩洞穴
青木ヶ原樹海の溶岩台地には、富岳風穴、鳴沢氷穴、西湖コウモリ穴などの有名な観光地の他にも、至る所に"穴"があります。
この穴は、1200年前、富士山が噴火したときに、粘性度の低いドロドロとした玄武岩質マグマが冷え固まる過程でできたものです。
空気に触れたマグマ表面は急冷固化するが、ドロドロしたマグマ内部はさらに低い土地へ流れ出ていき、結果、空洞ができるそうです。
ツアーで登場した生物
青木ヶ原樹海のツアーで話題に出た動植物は次のとおりです。
高木の5割は檜ヒノキ、2割が栂ツガ。他に赤松など。常緑針葉樹が圧倒的に優占しています。
低木の代表は、冬青ソヨゴ、馬酔木アセビ。やはり常緑。
苔や菌類は種名がわかりませんが、森全体に旺盛です。サルノコシカケ、タマゴタケ、マツタケ。
他にヤマガラ、シジュウカラ、ザトウムシ。
樹海の生態系の特徴
溶岩台地という地質から考えると、樹海の生態系の特徴がわかりやすいです。
・保水力が低い
→沢水、溜池がない
→蚊がいない
→花が少ないので昆虫も少ない
・土壌層が浅い
→深く根を張れない
→倒木が多い
→広葉樹が少ない
・土壌の養分が少ない
→針葉樹や苔が優占し、広葉樹が少ない。
針葉樹と広葉樹
シベリアのタイガもそうですが、日本でも岩盤が露頭する崖地、海岸、高山帯のような過酷な環境に生育している樹木は大抵が針葉樹です。盆栽もそうですかね。
進化の過程では、広葉樹よりも針葉樹が先輩(古くて原始的)で、組織も単純。太古の過酷な地球環境に適応している、ということでしょうか。
その他のトピック
菌類の話
自然界は、
・植物の生産者
・動物の消費者
・菌類の分解者
の三者が物質循環して成り立っています。
「一は全、全は一」
キノコなどの菌類は、生物死骸を分解して養分吸収する腐生菌と、生きた生物に寄生する共生菌に大別されます。
①腐生菌(死骸を分解して養分吸収)
サルノコシカケ、舞茸、椎茸など。
→これらが付いている樹木は枯死している。ホダ木で栽培できる。
②共生菌(生きた生物から養分吸収)
1)菌根菌(相互吸収)
・マツタケ
2)寄生菌(一方的に吸収)
・冬虫夏草、ナラタケ
苔の話
苔は、水と光さえあれば生きていけるので、養分吸収する根がないそうです。凄い!
ザトウムシ
8本の長い足をもつ小さな虫です。
どうでもよい話ですが、虫は虫でも足が6本ではないので、昆虫ではありません。節足動物ではあります。
一見、蜘蛛のようですが、胴体にくびれがないので、蜘蛛でもない。むしろダニに近い仲間だそうです。
雑食性ですが、毒や棘などありませんので害はありません。
自殺の名所
都市伝説かも知れませんが、青木ヶ原樹海は自殺の名所として有名です。
昔は、大規模な捜索隊を組んで、自殺者を探していたこともあったそうですが、今は、未然に防ぐという考え方に変わって、小規模パトロールのなかで声かけ活動などを行なっているそうです。ご苦労様です。
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