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佐藤輝明打順論

ドラフト制以降新人最多記録となるオープン戦6本塁打を記録したドラフト1位ルーキー、佐藤輝明。既に開幕スタメンを手中に収め、周囲はもはや「どの打順で起用すべきか」を議論している。そこで、私も佐藤をどの打順で使うのが良いか考えてみる。

6番打者

まずは、オープン戦で最多となる7試合でスタメン起用された6番について検討する。

6番打者の特徴
・一般的に下位打線にあたり、プレッシャーが少ない
・その一方で、前がクリーンナップであるため、チャンスで回ってくることも多い
・打順の巡りは遅め
・後ろの打力がさらに落ちるため、自力で塁を稼げる長打力のある選手が起用されやすい

一言で言えば、6番はかなり自由度の高い打順だと言える。チャンスで回ってくることが多いため、ある程度打力に期待できる選手を置く必要があるが、あくまでクリーンナップではないためプレッシャーは少なくなると考えると、最初のお試しとしては最適な打順ではないかと思う。佐藤にはずば抜けた長打力があることも、6番起用を後押ししている。
しかし、懸念としては、後ろの打者のレベルが落ちるため、ボール球を使って勝負されやすくなる点が挙げられる。もし佐藤を四球で歩かせたとしても、後ろは7〜9番であり、特にセリーグでは9番には投手が入ることを考えれば、得点に繋がる確率はそう高くはない。オープン戦を見る限り、佐藤は最低限の選球眼は持ち合わせているバッターと見受けられるが、歩かせてもいいという気持ちで際どいコースで勝負されると、結果を残すことが難しくなる可能性もある。

5番打者

次に、オープン戦最後の2試合で起用された5番について検討する。

5番打者の特徴
・クリーンナップであり、高い打力を求められる
・4番と勝負してもらうだけの打力が必要
・4番が帰せなかった時に走者を帰す確実性を重視した起用も近年増えている
・打順の巡りは遅め

5番打者となると、6番と比べると大きく重要度は増す。5番の前を打つ4番打者には今年も大山悠輔が入ると思われるが、昨年大山は前後にサンズ、ボーアの両外国人を据えたことで負担が減って打力向上した面があり、今年もその大山を支える役目を担うのがこの5番だからだ。5番の出来が今季の大山の成績に少なからず影響すると言っていいだろう。その役目をいきなりルーキーに背負わせるのは、重荷ではないだろうかと思う。また、大山が帰せなかった走者を帰す必要があると考えた時、現時点では三振の多い佐藤の打撃スタイルは5番に合っているとは言い難い。
しかし、佐藤が結果を出すのであれば、5番にいることは大きなメリットを産む。佐藤が5番に入ると後ろの6番にはサンズが入る可能性が高く、そうなると大山―佐藤―サンズでジグザグに組むことができる。これは、プロの左腕にはまだ対応しきれていない佐藤にとっては大きい。また、佐藤の後ろがサンズであれば、相手は安易に佐藤を歩かせることはできず、積極的に佐藤と勝負することになるだろう。そこを捉えることができれば、5番佐藤が脅威となり、相手に4番大山との勝負を選択させるという好循環が発生する。ハイリスクではあるが、ハイリターンでもあるのが5番起用といえるだろう。

3番打者

続いて、練習試合やオープン戦序盤で起用された3番について検討する。

3番打者の特徴
・クリーンナップであるため、チームの中でも高い打力が求められる。
・初回に必ず打席が回り、打席数が多い
・4番に繋げる打者を置きたい
・チャンスで回ってくることが多い一方、2死走者なしで回ってくることも多い

3番はクリーンナップに属する打順であり、一般的に優れた打力の選手が置かれることの多い打順である。しかし、それと同時に2死走者なしというチャンスから最もかけ離れた状況で回ってくることも多い打順でもある。このような状況から得点するにはどうするべきかを考えると、欲しいのは長打である。つまり、佐藤にとってそれなりに適性の高い打順ではないかと考えられる。佐藤は三振やフライが多いため、併殺となって4番に繋げられないという状況が発生する確率が低いことを計算できる点でも優秀である。
しかし、問題なのは現在の阪神のチーム状況だ。阪神は1・2番を近本と糸原の左打者2人で考えており、ここに佐藤を並べると左打者が3人続くこととなる。こうなると左投手をかなり呼びやすくなり、まだ左腕への適応は途上の佐藤にとっては好ましい環境ではない。また、阪神にはサンズやマルテといった高い打力を計算できる選手が他にも存在しており、彼らをより打席数の少ない打順に押しのけてまで佐藤をいきなり3番で使うべきかという点には疑問符がつく。これらの点を加味すると、いきなり佐藤を3番で使う必要はなさそうだ。

2番打者

今度は、オープン戦で数試合起用された2番について検討する。

2番打者の特徴
・初回に必ず打席が回り、打席数が多い
・出塁やチャンス拡大、小技など多様な仕事が求められる
・出塁やチャンス拡大の効率を上げる長打力も求められる

2番はチームの戦い方によって「最も簡単」か「最も難しい」かの両極端に分かれる打順だと考える。というのも、2番最強打者説を採れば、2番には小技など求めずシンプルにチームで最も良い打者を置けばいいため、2番は最も簡単な打順となり、いわゆる伝統型の2番を採れば、2番にはバントやエンドランなどの小技から一二塁間を狙って打つ打撃技術、さらには足の速さなども求められるため、最も難しい打順となる。
阪神においては、1番が2年連続盗塁王のタイトルを獲得中の近本光司であり、その近本の足を活かすとなると、1球待ったり揺さぶりをかけたり確実にコンタクトしたりという高い技術が求められてくる。矢野監督はそういった攻撃を一つの理想としており、上述の「最も難しい」タイプの2番をどちらかというと優先的に起用する。そうなると、現時点では佐藤には厳しい打順であると言えるだろう。
しかし、矢野監督は2番最強打者説を全く採らないというわけでもない。現にオープン戦で2番佐藤を試している。佐藤が実績を残せば、高いOPSを記録する理想の2番最強打者となる可能性は大いに秘めている。この時は近本の走力を佐藤の二塁打1つで帰って来れる武器という活かし方や、近本の足のプレッシャーで佐藤に甘い球を呼び込むという活かし方をすれば良い。近い将来、2番佐藤は当たり前になっているかもしれない。その時は、きっと今より強いチームになっているだろう。


これまでに実際に佐藤が起用された打順は以上の4つだが、あと2つ、打順を考えておきたい。

7番打者

7番打者の特徴
・下位打線であり、打力のあまり高くない選手が多い
・一発長打のある選手が起用されることもある
・6番までで帰しきれなかった走者を帰す役割がある
・打順の巡りは遅い

7番は文句なしの下位打線であり、打撃の期待値が高い選手が置かれることは多くない。あるとすれば、よほど打線が強い場合か、本来はもっと上位を打つべき選手が不調で降ろされている場合だろう。しかし、かの名将・野村克也氏は7番を「第2の4番」と評した。7番に一発長打のある打者がいることはかなり怖いのだ。
阪神においては、基本的に7〜9番は捕手、遊撃手、投手が入ることが予想されるため、佐藤が7番に入ることはあまりないと思われる。しかし、佐藤が実力を出せなかった場合や、捕手や遊撃手に入る選手が予想以上に打った場合、佐藤が7番に入ることは考えられる。特に後者の理由で佐藤を7番に置ければ、チームはいい状態になっているだろう。

1番打者

1番打者の特徴
・初回必ず先頭で打席を迎える
・最も多くの打席数が回ってくる
・高い出塁能力が求められる
・長打力があればなお良い
・一定以上の走力が求められる

1番といえば、「リードオフマン」という言葉もあるように、打線を引っ張る役目である。確実に初回無死走者なしで打席を迎え、投手に様々な球を投げさせたり、その上で出塁してチャンスを作ったりという仕事が主となる。こう考えると、佐藤が1番向きとはあまり思えない。しかし、1番は必ず無死走者なしで立つ打席が存在すること、打力の低い8・9番の後に回ってくるためチャンスでないことが多いという性格も持っており、特に色々考えず思い切り長打を狙って振ることが許されている打順と考えることもできる。そう見れば、佐藤が1番に入っても面白いのではないだろうか。
もちろん、基本的には佐藤は1番向きではなく、そもそもチームには近本という1番打者が存在しているため、佐藤を1番で使い続ける必要はないのだが、長いシーズン何か打開策が欲しいという時には一考の余地がある打順ではないかと考える。

結論

ここまで様々な打順を個別に検討し、佐藤に最適な打順を探ってきた。示してきた通り、各打順にはメリット、デメリットが存在し、この打順で使うことが必ずいいというものは存在しない。それでも、佐藤の打順を定めるとすれば、まずは6番から始めることが良いのではないだろうか。オープン戦でホームラン王を獲得したとはいえ、あくまで公式戦はまだ出場0のルーキーである。未知数な部分も多く、プレッシャーをかけすぎることは良くないだろう。そのような打者を起用するには、6番がちょうどいい。6番から始めれば、活躍すれば5番に、ダメなら7番に1つ動かして様子を見るということもできる。いずれにしても開幕前からここまで打順論争を巻き起こす怪物である、今後の活躍が楽しみで仕方がない。

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