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高まる希望、照らす夢

2020年のドラフト前のある日、僕は幼なじみとキャッチボールをしていた。阪神ファンでかつアマチュア野球に詳しい彼は、ドラフトに向けて注目選手を僕に教えてくれた。「合同練習会(※1)を見てて気になったのは、上田西の髙寺。バットコントロールが上手いし肩も強い」。彼のリストアップした選手の中に、髙寺望夢の名前があった。そしてその名前は、阪神タイガースのドラフト7位指名で呼ばれることとなる。

※1 合同練習会:2020年は疫病の流行により夏の高校野球が中止となったため、代替措置として高校3年生が一堂に会し実戦形式で練習を行った。

ドラフトで阪神に入団する選手が決まった後、僕は各選手の映像を検索しチェックした。その時に髙寺の映像も見たのだが、当初は右投左打で当てるのが上手い内野手・・・そう聞いていたため、非力なタイプという先入観を持ってしまっていた。しかし、実際は全く違っていた。髙寺はインコースの高めに速球を投げられても、上手くバットを出し芯で捉えてセンターから逆方向に強い打球を放っていたのだ。ファールの打球でも当てただけではなく、しっかりと振って感触のいい打球を飛ばしていた。引き付けて打っているように見えるのにインハイに強くコンタクトできる、その点だけを見ても、とてもドラフト7位まで残るような選手には見えなかった。きっと通常通り甲子園が行われていたら、ここまで残っていなかっただろう。いい選手を獲得したと僕は確信した。

年は明け、2021年の春季キャンプ。髙寺は二軍スタートとなった。まあ高卒ルーキーだし当然・・・と思っていたが、シート打撃や練習試合で二軍とはいえプロの投手に全く振り負けずに対応していた姿には驚かされた。高校時代の映像からしてセンスやポテンシャルは素晴らしいが、金属バットで打つ高校から木製バットに変わるプロでは少し対応に時間がかかってもおかしくはないと思っていたからだ。近年では練習時には金属ではなく木製バットを使う高校も増えているとはいえ、それでも野手の高卒ルーキーがまず最初にぶつかる壁を簡単に超えている姿に、僕はあることを思うようになった。「高卒1年目から二軍で打率3割近く打つんじゃないか……?」と。

僕の直感はあながち間違いではなかった。ファームが開幕して1ヶ月で、髙寺は46打数12安打で打率.261をマーク。あの時映像で見た、引き付けながらも芯で捉えて広角に打球を飛ばす打撃をプロの投手相手にも実践していた。元々一軍でも多く投げていたような投手相手にもしっかりと自分の打撃ができていた。

しかし、プロの世界はそう甘くはなかった。5月に入る頃には当たりが止まる。その後も本塁打が1本出たものの、毎月打率は1割台にとどまり、最後は故障で離脱。最終的な成績は136打数22安打で打率.161に終わった。毎日のように練習し試合に出る生活は高卒ルーキーにはあまりに大変で、体力的な限界があったのだろう。終わってみれば3割には程遠く、僕の直感は外れだった。

それでも僕は、髙寺望夢はドラフト7位まで残っていたとは思えないほど素晴らしいセンスとポテンシャルのある選手だという認識を持ち続けている。僕が頑固だからというわけではない。髙寺がフェニックスリーグ(※2)で29打数16安打、打率.552という驚異的な成績を残したからだ。フェニックスリーグはあくまで非公式戦であるため、過去の記録を遡ることは難しいが、それでも高卒ルーキーが打率5割超えとは聞いたことがない。さらにつけ加えるならば、三塁打が2本で四球が10個、そして三振はわずかに1つだ。引き付ける打撃で選球をしっかりしつつスイングをかけるとしっかりバットに当てて強い打球を飛ばす、まさに僕と幼なじみが惚れ込んだ髙寺望夢という選手の打撃であった。

※2 フェニックスリーグ:毎年11月頃に宮崎県で行われる二軍の教育リーグ。日頃は対戦しないウエスタンリーグの球団とイースタンリーグの球団で試合が組まれ、1ヶ月ほど戦う。

持ち前の高い打撃センスと体力面や守備走塁、もちろん打撃含めて様々な課題の両方を見せてくれた高卒ルーキーとしての髙寺の一年間。二軍公式戦では苦しい成績に終わったが、それでも能力の高さを僕は疑っていない。コンタクトも上手ければしっかり振れるパワーもある、現在は遊撃と三塁が主なポジションだが磨けば二塁や外野もこなせるだろう。将来はどんな姿になるか、考えるだけでワクワクしてくる。あらゆる希望と夢を乗せた背番号67の成長曲線をこれからも追い続けたい。

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