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リリーフ投手こそコントロールが必要?

皆さんは「球が速いけど、コントロールに不安のある投手」はどのポジションで使うのが良いと思いますか?おそらく、多くの方が「リリーフ」と答えるのではないでしょうか。1イニングであればなんとか、球の勢いはあるしコントロールも誤魔化せるのではないか、そう考えるのが一般的ではないかと思います。しかし、実はそうではないのではないか、というのが今回のテーマです。

今回は、「コントロール=BB/9(与四球率)の低さ」と定義し、話を進めていきます。BB/9は9イニングあたりの与四球の数を意味するので、値が小さいほど与四球が少なく、コントロールが良いということになります。昨年の阪神のリリーフ陣のBB/9を見ると、以下のようになっています。

阪神リリーフ陣 BB/9(10イニング以上)

スアレス 1.16
アルカンタラ 2.12
岩崎優 2.34
小川一平 2.95
リーグ平均 3.03
石井大智 3.12
馬場皐輔 3.23
岩貞祐太 3.26
齋藤友貴哉 4.63
小野泰己 4.91
小林慶祐 4.95
及川雅貴 5.54
藤浪晋太郎 7.45

こう見ると、岩崎・スアレスという通年勝ちパターンを担っていた2投手は、平均よりコントロールが良かったということになります。終盤にかけて勝ちパターンの直前を担ったアルカンタラや小川も、リーグ平均以上のコントロールでした。また、馬場や岩貞といった年間通してまずまずの成績を残したリリーフ投手も、平均に近いコントロールを持っていました。一方で、リリーフとして今ひとつ一軍に定着しきらなかった齋藤や藤浪らは、平均を大きく下回るBB/9となっています。
しかし、石井や小林、及川のように、与四球率が必ずしも成績に比例しているとは言えない例もあります。これも当然の話で、四球を出したからと言って必ず失点に繋がるというわけではないし、単純に打たれているケースもあるからです。ただ、投手のBB/9は実力の面が大きいので、この数値はおおよそ投手の安定感に繋がっているように感じます。そして、安定感が高いほど試合の中で重要な立場を任されるようになるため、結果としてコントロールの良い投手が勝ちパターンになりやすく、逆にコントロールに不安のある投手はリリーフとして定着できないのではないかと考えました。

阪神だけでは例が足りないかと思い、昨年優勝を果たしたヤクルトのリリーフ陣の与四球率についても調べてみました。

ヤクルトリリーフ陣 BB/9(10イニング以上)

近藤弘樹 0.96
石山泰稚 1.64
大下佑馬 1.86
清水昇 2.39
田口麗斗 2.50
大西広樹 2.82
リーグ平均 3.03
梅野雄吾 3.20
マクガフ 3.22
今野龍太 3.63
スアレス 3.74
星知弥 4.07
坂本光士郎 4.59
吉田大喜 4.63

ホールド記録を更新した清水や途中からリリーフに加わった田口、序盤獅子奮迅の活躍を見せた近藤など、大事なところを任されたリリーフはやはりリーグ平均以上のコントロールを有していました。守護神を務めたマクガフは平均を若干下回っており、悪くはないが少し不安があるという感じでしょうか。
また、阪神と比べるとヤクルトのリリーフ陣は全体的にBB/9が低く、余計な走者をあまり出さなかったことがわかります。昨年のヤクルトリリーフ陣の安定感はこれが一つの要因でしょう。

ここまでを見ても、リリーフとして通用する投手、すなわち勝ちパターンに入るような投手は基本的に平均以上のコントロールを持っているということがわかります。逆に、コントロールに不安のある投手は、安定感を欠きやすく、リリーフとしてもあまり活躍できていないことが多くなっています。

次は視点を変えて、ポジションごとの投手の役割を考えてみます。
先発投手はある程度長いイニングを投げることが求められ、その上で試合を作ることが役割です。失点が少なければ少ないほど良いですが、必ずしも0で抑えることが最大の仕事というわけではありません。それに対して、リリーフ投手は0で抑えることが最大の仕事です。1点差の終盤であったり、あるいはいきなり満塁の場面からマウンドに上がることもあります。この2つのポジションを比較して、どちらが一つの四球でも致命傷に繋がりやすいかというと、明らかにリリーフ投手なのです。
このように、求められる役割を考えても、リリーフ投手こそコントロールが必要ではないかと思うのです。

ここからは余談ですが、「リリーフ投手こそコントロールが必要」という考えを逆手に取って育てられた先発投手がいます。それは、昨年のセリーグ二冠に輝いた阪神の青柳晃洋です。
青柳といえば、サイドスローよりも更に下から投じる変則フォームとそこから繰り出される球威のあるボールが持ち味ですが、入団当初はとにかくコントロールに苦しみ、まともにストライクが入らないことさえありました。こうした変則かつ球の速い投手は往々にしてリリーフとして使われますが、当時の金本監督は一貫して青柳を先発として起用しました。青柳は1年目からBB/9は5を超えながらも、防御率は3点台に留めるなど、走者を出しても最少失点で切り抜けるピッチングを展開します。
そして3年目には、「8割程度の力で投球する」という投法を採り入れます。1イニングに全力をぶつけるリリーフではなく、長く投げる先発だからこその投法だと言えましょう。これが功を奏してコントロールを改善した青柳は、変化球を増やすなど更に投球の幅を広げ、今に至るのです。
このように、コントロールに不安がある投手はリリーフではなく先発として起用することで、先発ならではの投法で改善させるという手法もあります。阪神ではこれ以降、制球不安の投手に先発をやらせることが増えています。一昨年BB/9が5.57だった小川一平も、昨年二軍で先発を経験したことでコントロールの不安が改善され、一軍では中継ぎとしてBB/9も2.95をマークするなど、後半戦欠かせない投手となりました。

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