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2021年の阪神の戦いについて

半年以上にわたる長い長いペナントレースお疲れ様でした。正直言うと優勝すると思いました。しかし、結果は2位です。悔しい気持ちしかありませんが、ここでは一度落ち着いて、2位に終わった理由や逆に優勝争いを最後の最後まで繰り広げられた理由などについて個人的にまとめたいなと思います。

投手について

まずは先発投手から。今季の先発防御率は3.04で、これはセリーグ1位。昨季の先発防御率は3.38だったため、良化していることになる。今季先発した投手は以下の12選手(※は先発時のみの成績)。

青柳晃洋 25試合156.1回 13勝6敗 防2.48 QS率72%
西    勇輝 24試合143.2回 6勝9敗 防3.76 QS率50%
※秋山拓巳 23試合130.2回 10勝7敗 防2.76 QS率52.2%
※伊藤将司 22試合137.1回 10勝7敗 防2.49 QS率59.1%
ガンケル 20試合113回 9勝3敗 防2.95 QS率65%
髙橋遥人 7試合49回 4勝2敗 防1.65 QS率71.4% 
※アルカンタラ 7試合40回 2勝2敗 防4.05 QS率57.1%
※藤浪晋太郎 6試合32.1回 2勝2敗 防3.34 QS率33.3%
※二保    旭 3試合13.1回 1勝1敗 防6.08 QS率0%
チ  ェ  ン 2試合9.1回 1勝0敗 防3.86 QS率50%
西    純矢 2試合8回 1勝1敗 防3.38 QS率0%
村上頌樹 2試合5.1回 0勝1敗 防16.88 QS率0%

規定到達者が2人、2桁勝利が3人とかなり安定した布陣を年間通して組むことができた。青柳は目標としていた13勝に到達し、五輪にも選出されるなど、エースへの階段を着実に昇っていることを示す1年に。西も今季は不安定な投球が目立ったが、移籍後3年続けて規定には到達するなど、イニングイーターとしての役目は果たした。更に2年連続の活躍を誓っていた秋山、外国人枠の争いを勝ち抜き成長を見せたガンケル、ドラフト2位左腕伊藤将を加えた5人はほぼ離脱なくシーズンを通して登板。この先発陣の安定は今季最後まで優勝争いを繰り広げた最大の要因であるといえるだろう。
一方、6番目の先発は春季キャンプでの髙橋の故障もあって長らく固定できなかった。それもあって、5人をほぼ固定で回しながらも、のべ先発登板人数は12人となった。この数は毎年各球団が先発させる投手の人数とさほど変わらない。
先発投手の誤算はやはり髙橋の故障が一番だろう。復帰後の成績は見ての通りで、年間通して投げられれば…と毎年思うところ。他にも、ガンケルがカバーしたともいえるが、チェンが故障でほぼ投げられなかったのも選択肢が減るという意味では痛かった。開幕投手に据えた藤浪も期待通りの復活とはいかず、シーズン中盤以降は一軍中継ぎと二軍の往復に。アルカンタラもシーズン後半は中継ぎとして好投を見せたが、先発としては攻め方が一辺倒になって中盤に捕まる課題を露呈してしまい、まずまずの数字にとどまった。中継ぎを務める中で攻め方の幅は広がっており、来季どのような役回りを任せるのかは楽しみなところではある。
また、二軍でも主に先発していた投手は高卒2年目の西純と大卒ルーキーの村上、さらにはベテランの中田や育成の牧などであり、先発として昇格させられる候補の少なさにも頭を悩ませる部分があった。今回のドラフトではその点を踏まえ、先発も務められる投手の追加を行っている。

続いては中継ぎ投手。今季の救援防御率は3.83でリーグ5位。昨季は防御率3.31であり、少し悪化した。しかし、防御率3.83は実は去年ならリーグ3位にあたる数値であり、全体的に今季のセリーグは救援投手の成績が良かったと言える。これにはおそらく延長なしで好投手を惜しまず注ぎ込めたことに理由があると思われる。以下は今季中継ぎ登板の多かった上位10投手の成績(※は救援時のみの成績)。

スアレス 62試合62.1回 1勝1敗42S 防1.16
岩崎    優 62試合57.2回 3勝4敗41H1S 防2.65
岩貞祐太 46試合38.2回 4勝0敗12H 防4.66
馬場皐輔 44試合47.1回 3勝0敗10H 防3.80
及川雅貴 39試合39回 2勝3敗10H 防3.69
小林慶祐 22試合20回 0勝1敗4H 防2.25
小川一平 19試合21.1回 1勝0敗2H 防2.95
齋藤友貴哉 19試合23.1回 1勝1敗1H 防4.63
石井大智 18試合17.1回 0勝1敗 防6.23
※アルカンタラ 17試合19.1回 1勝1敗6H 防2.33

開幕当初の構想通りに進んだのは、8回の岩崎と9回のスアレスのみ。あとは戦う上で使えそうな投手を探して使っていくという形になった。最終的にはアルカンタラ及川が7回、火消しに馬場、ビハインドと大量リードは小川小林という形に収まったが、誤算だったのはやはり岩貞になるだろう。昨年は途中から中継ぎ転向してセットアップ近辺まで任されるなど新たな道を開いたように見えたが、今季は数多く登板しながらも度々期待を裏切ってしまった。特にスライダーの被打率が4割超えと非常に高く、左打者への決め球としても機能せず、また右打者へもクロスファイヤーのストレートと見せかけての膝元へのスライダーを投げるところが真ん中に行って痛打という場面が目立った。今季は編成上左投手自体が少なく、またその中でも故障者が目立ったことで、この岩貞を秋口まで見切れなかったのは失敗だったといえよう。
その岩貞の穴を埋めるべく抜擢された及川が今季は非常にいい働きを見せたのは良い方の大誤算。150km/hも超える速球と本人も自信がついたと言うツーシーム、またスライダーのコンビネーションで一時はセットアッパーまで登りつめた。経験の少なさや若さ故に制球を乱す場面や失敗してしまう場面もあったが、この経験は間違いなく今後に活きるだろう。来季の起用法は不透明だが、先発としても中継ぎとしても輝ける能力を持っている。
ほぼ1年中継ぎとして投げた馬場も助かる存在であった。複数の変化球を高い精度で操る馬場は走者を背負った状態で登板させても四死球の可能性が低く、ゴロや三振で打ち取ることが期待できるため、火消しとして主に起用された。岩崎とスアレスを除けば経験の浅い投手、出してみなければその日の善し悪しが分からない投手が多かった状況で、ある程度計算できるほぼ唯一の投手だったともいえる。逆に他に火消しとして使える投手がほぼいなかったことが、今季中継ぎが例年と比べても安定しなかった理由ではないだろうか。
リリーフは外国人の去就や勤続疲労による故障など色々不透明なポジションであり、来季もある程度手探りから始まることは予想される。

野手について

まずは打撃面から。今季の打率.247はリーグ4位、本塁打121もリーグ4位。1試合あたりの得点数を見ても、昨季の4.1点から今季は3.8点となっており、若干攻撃力は落ちている。しかし、今季の阪神は積極的な補強をしてシーズンを迎えたはずだ。これは前半と後半の攻撃力の差が影響しているとみられる。

前半→後半
順に打率/出塁率/長打率 (本塁打数)

近本 .292/.328/.417 (06) → .345/.392/.478 (04)
糸原 .279/.326/.356 (01) → .294/.373/.345 (01)
中野 .278/.332/.339 (01) → .266/.308/.317 (00)
大山 .245/.288/.415 (10) → .280/.348/.508 (11)
マ ル テ .284/.400/.500 (16) → .213/.306/.366 (06)
サ ンズ.273/.350/.510 (17) → .189/.275/.311 (03)
佐藤 .267/.306/.527 (20) → .158/.224/.298 (04)
梅野 .247/.314/.332 (02) → .180/.281/.233 (01)
ロ ハ ス .098/.164/.157 (01) → .261/.325/.464 (07)
木浪 .175/.197/.281 (01) → .274/.333/.355 (00)
糸井 .200/.263/.400 (03) → .214/.274/.286 (00)

以上が今季100打席以上立った選手の前半と後半の打撃成績の比較である。前半の阪神には打率2割台後半の打者が多く2桁本塁打も4人、レギュラーメンバーはOPSも.800超えが3人、.700超えが2人とある程度高い攻撃力を有していた。しかし後半になると打率が大きく低下、本塁打数も減少しOPS.700超えの人数がロハス含めて4人と攻撃力が急激に落ちた。前半と比べて明らかに成績が向上したのは近本、大山、ロハスだけであり、その他は安定していた糸原を除けば軒並み低下している。これでは厳しくなることは必定だ。

前半戦は打線の流れとして非常に好循環が生まれていた。上位の近本糸原のどちらかは基本的に好調であり、さらに3番のマルテが繋ぐことで多くの好機を主軸に用意した。大山は不調に喘ぎつつも要所での一発や最低限で打点を稼ぎ、残ったチャンスは5番のサンズが掃除。7番には得点圏打率リーグトップクラスの梅野がおり、その前を打つ佐藤をカバーすることで佐藤は自由にバットを振ることができた。8番には俊足巧打の中野が入り、投手の犠打や代打を挟んで上位に循環させていた。このように、打線がまさに「線」として構築されていたことで、得点を安定して刻むことができていた。
しかし、後半戦になるとこの打順は成立しなくなる。それは、2番糸原と4番大山が揃って不調に入ったからだ。幸い2番は俊足巧打で近本と塁を掻き回す中野が入ることで埋まったが、4番が見つからない。まずは経験の多いサンズに任せたが、サンズ自身が失速しており不発に終わる。この頃になると佐藤も前半の勢いはなくなってきており、安定してスタメンで出ることすら厳しくなっていた。彼らの穴埋めとしてロハスがいたが、パンチ力こそ見せるものの粗さも目立ち、中軸に置くまでには至らず。結果としてマルテを4番に据え、その後ろを再び状態を上げてきた糸原、さらに6番7番に大山、ロハス、佐藤、さらには小野寺ら若手を相手に合わせて起用していく形を取らざるを得なくなった。一時は大山が復調したことで前半の打順を組めそうにも思えたが、その時には既に梅野が不振に陥っており、前打者のカバーができる状態にはなかったため見送られた。

結果的には後半戦の打撃が大きく響き優勝を逃したといえる阪神だが、光明もあった。それは島田、小野寺らファームで結果を出していた若手が一軍でしっかりした出番を貰えたことだ。残念ながら小野寺は目立った活躍とはいかなかったが、それでも初本塁打を放つなど、対左という意味では他の打者と比較すると相対的にではあるがアピールした。島田は過去にも一軍を経験していたこともあってか、主に対右で出番をもらうと、しぶとくコンパクトな打撃と自慢の足で準レギュラーまで至った。本格的な優勝争いを肌で感じたことで今後の飛躍に繋がれば、意味ある期間だったと言えるだろう。
また、個人的に目を引いたのが木浪の活躍だ。木浪はショートで今季開幕スタメンを掴みながらも課題の打撃で低迷し、守備のミスも連発したことで控えに回っていた。前半は一二軍を行き来したが、後半になると内野のユーティリティとして定着。数少ない打席でもこれまでとは打って変わって粘りの打撃や逆方向への打撃を見せ、安定感のある内容を披露していた。最終盤では、故障者の続出により自身初の5番起用もあった。試合数には差があるが、後半の木浪は前半の糸原とほぼ同等の打撃成績を弾き出しており、守備では上回るため来季は糸原のライバル1番手となりうる選手ではないだろうか。

続いては走塁面。この話をする上では、今季は彼らの活躍なしには語れないだろう。そう、植田・熊谷・島田の代走トリオだ。

植田 代走46試合 得点15 盗塁10(成功率90.9%)
熊谷 代走38試合 得点13 盗塁7(成功率87.5%)
島田 代走10試合 得点07 盗塁8(成功率88.9%)

昨季から植田は代走の切り札として活躍していたが、今季は熊谷島田も加わった。彼らはともに2018年の当時矢野二軍監督が使い続けた選手達であり、積極的に走ることを意識付けられてきた。その成果を今季は一軍で発揮し、失敗が許されない場面でも躊躇なくスタートを切ると高確率で成功させた。この代走陣は阪神の大きな強みであり、接戦の終盤になると監督は勝負手として惜しみなく代走を起用。この甲斐もあってか、1点差ゲームの勝率は阪神がリーグトップであった。
またレギュラーでも2年連続盗塁王だった近本に加え、中野が盗塁を次々と決め、今季の盗塁王に輝くほど走った。中野は驚異的な成功率で盗塁を成功させており、なんと32回企図して失敗は僅かに2つ(成功率93.8%)。他にも足が武器ではない梅野佐藤らまで隙があれば走った。チームの盗塁数は114でリーグトップ、さらには成功率も8割弱と高水準だった。
目立ったのは盗塁だけではない。走塁でも阪神はレベルアップした野球を見せた。盗塁はある程度の走力がないとなかなかできないが、走塁は足の速さに関わらず、意識すれば変えられるものだ。それを示していたのが主将の大山や外国人選手達であった。チーム一丸となって常に単打を二塁打に、二塁打を三塁打に、ヒット1本でより先の塁へ進む野球を展開。「暴走と好走塁は紙一重」とはよく言われることだが、今季は暴走もあったがそれ以上に好走塁を見せてくれた1年だったように思う。

最後に守備面。今季の失策数は86で、昨季に続きリーグワーストに終わってしまった。しかし、昨季は120試合で80失策を犯していたため、1試合あたりの失策数は少し減少しており、改善の傾向にはある。

中野 17個
大山 10個
サ ンズ09個
マ ル テ 08個
糸原 07個

これは失策数チームワーストの5選手だ。新人でショートを守った中野がダントツで多く、全体の2割弱を占めている。しかし、中野の失策はうち13個が前半戦で犯したもの。後半はわずかに4つと短期間で改善を見せた。また、守備の難しいと言われるマツダスタジアムで11試合出場しノーエラーも素晴らしい。守備範囲が広いためそれ故の失策というものはどうしても生じるが、来季は年間通して安定した守備が期待できそう。
個人的に失策で気になるのはサンズ。失策は今季9個あるが、うち7個は外野での失策だ。外国人の外野手に守備を期待ということはないが、それでも外野で7個は多い。中野以外でも大山糸原ら内野陣はせめて送球エラーは減らしたいところだ。最終戦の糸原の失策のようなものは避けられるはずだし、避けなければならない。
また、昨季大きな課題となったのが投手の失策。昨季はチーム80失策のうち17個も投手による失策が含まれており、春季キャンプでは臨時コーチの川相氏が投手の守備まで指導するなど、改善を図った。その結果、今季は試合数が増加しながらも失策数が10と減少。投手が失策を犯すと自分自身の首を絞めるためより改善していきたいところだが、ひとまず成果が発揮されたことは良かったように思う。
守備固めで多く入った選手としては、植田熊谷島田のトリオがノーエラー。内野全般を守った山本、木は途中出場時ともに2失策と堅い守りを見せた。彼らを一斉に投入する守備固めは延長のない今季の最終回によく見られたが、彼らの守りもまた先述の1点差ゲームの勝率の高さに繋がっているのではないだろうか。


まとめ

今季は優勝争いを繰り広げながらも最後は2位に終わった阪神。その強さを支えたのは投手陣、特に先発の力ももちろんだが、やはり打撃力だったように思う。一方で優勝を逃した最大の要因もまた、打撃力だろう。来季に向けて打撃力の更なる強化は避けて通れない課題となる。
また、守備力も改善の傾向にあるとはいえ、まだまだ課題だ。これは今春臨時コーチとして来てくれた川相氏の言葉を借りれば、「継続して練習すれば上達する」。来季も継続していくことで、今季よりさらに上手くなった姿が見たい。
優勝を目指し外国人を球団史上最多の8人用意するほどの姿勢を見せたが、枠とお金がかかる外国人を8人も用意できるということは、裏を返せばそれだけ日本人選手の力と実績が足りていないということ。つまり、日本人選手がこれからどんどん力をつけ実績を伸ばしていく余地があるということでもある。来季はさらなる若返りが予想されるチームである、その伸び代と若さで来季は必ず優勝を掴み取りたい。黄金時代はこれからだ。

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