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三本の矢

手痛い逆転サヨナラ負けから一夜。今日阪神の前に立ちはだかるのは、高橋奎二。昨年、優勝争いの鍵を握る10月の甲子園2連戦で、甲子園の大観衆を背に0を並べ続けた、いわば天敵。今季も開幕2戦目で7回を0に抑えられ、9連敗に繋がる負の流れを作られてしまった。試合前には、阪神戦で49イニング連続して被弾していないという記事も上がっていた。そんな好投手を相手に阪神が繰り出したのは、“三本の矢“だった。

18時。試合が始まった。先発の高橋はいきなり近本に対してストレート3つで3ボールとする。しかし、そこからストレートを続け、力で近本を三振に斬ってとる。左腕から繰り出される唸りをあげる150km/h。あぁ、今日も押し込まれるのか…そう思わされるスタートだった。
しかし、今日の阪神は一味違った。帰ってきたマルテが、不振に喘いでいたマルテが、高橋の自慢のストレートをレフトに叩き込んだ。一瞬でスタンドに突き刺さる“矢“のような打球だった。
続く2回、高橋はなおも直球で押し込もうと果敢に投げ込んでくる。糸原が敵失で出塁するが、続く陽川は高橋のストレートに完全に押し込まれる。やはり今日の高橋は良い、きっと誰もがそう思った。その高橋のストレートを再び打ち砕いたのは、ピッチャーの西純矢であった。
西の打撃が良いことは、野球ファンの中では有名だ。高校時代は日本代表の中でクリーンナップを張っていた。既にプロ初ヒットも記録しており、その構えはとてもピッチャーのそれには見えない。しかし、相手は高橋奎二なのだ。日本シリーズで完封を成し遂げ、NPB屈指の速球派左腕であり、何より阪神の天敵である高橋だ。その高橋の内寄り、角度のついた150km/hを、西はなんと初球、一振りで捉えた。打った瞬間のプロ初本塁打に球場はどよめき、画面越しに見守る僕も鳥肌がしばらく収まらなかった。
3回。自慢のストレートを打ち砕かれた高橋を、阪神打線が仕留めにかかる。中野が粘って出塁しマルテが繋ぐと、5番の大山が高めに浮いた変化球をレフトスタンドへ運んだ。ヤクルトバッテリーはストレート勝負することができなかった。いや、阪神打線がさせなかったのだ。高橋は膝をついた。阪神打線が“三本の矢“で天敵を射抜いた。

本塁打攻勢はよく「大砲」や「花火」と言ったド派手なものに例えられる。しかし、今日の阪神は「矢」だ。要所で確実に相手を仕留める、矢のような攻撃だ。そしてその中心を飾った選手こそ、プロ初完投とプロ初本塁打を同日に達成した西純“矢“。投げては矢のようなストレートを、打っては矢のような打球を放つ20歳の若武者に、心が躍った5月の夜だった。

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