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岡田構想の”キーマン”小幡竜平にかかる期待

岡田新監督体制も始動し、気づけばキャンプも折り返し。さて、今年優勝するためのキーマンは誰ですか?と聞かれれば、僕はこう答える。「新外国人がどれだけ打つか、つまりノイジーとミエセスである」、と。しかし、岡田新監督の構想におけるキーマンは間違いなくこの人、小幡竜平である。今回は、その小幡を中心に岡田新監督の構想を深掘りしていこうと思う。

小幡竜平のこれまで

まずは、今季5年目を迎える小幡のこれまでを振り返っていこう。延岡学園高からドラフト2位で入団した小幡は、プロ2年目に一軍デビューを果たす。3年目の2021年には打率.261を残したものの、これまでプロ通算では打率.215、ホームランは1本でOPS.517にとどまっている。端的に言えば、類まれなる身体能力を活かしたスピードと守備が持ち味だが、打撃面に課題を持つ選手である。
では、なぜその小幡に期待がかかっているのか。それは、二軍成績からも読み取ることができる。

小幡竜平の年別二軍成績

上の表は、小幡の入団以降の二軍成績をまとめたものである。最も出場機会を得たルーキーイヤーの2019年は打撃課題が浮き彫りとなる数字が残っているが、それ以降は打率も高まり、三振も年々減少している。そして、特に注目すべきなのが長打率である。この数字が年々上昇しているのが、小幡の成長を示しているのだ。ISO(長打率-打率)で見ても、直近3年で.029→.053→.092と良化していることがわかる。
ここで、少し話が逸れるが、なぜ二軍成績で長打率に着目するかについて触れておきたい。二軍では、当然一軍よりも投手のレベルは落ちる。そして同時に、相手守備のレベルも落ちる。そんな相手に、野手の間を抜く巧打や内野安打等で打率を稼いでも、一軍で通用するかと言われると厳しいことが多い。一軍は投手の球の勢いも制球もより高いし、相手の守りも堅くなる。つまり、二軍レベルで振り負けずに強い打球を飛ばしていることは、一軍で通用するための最低条件の一つとも言えるのだが、それが見て取りやすい指標が長打率、またISOといったものになる。もう一つ最低条件と言えるのが三振率なのだが、こちらはイメージしやすいだろう。二軍投手の球に当たらなければ、一軍ではもっと当たらないことは想像に難くない。
話を戻そう。小幡は、二軍レベルにおいて、先程上げた最低条件である長打率に年々良化の傾向が見られる。そして同時に、もう一つの最低条件である三振率も年々改善している。もちろん参考にはなる打率も.331と素晴らしい成績を残しており、同い年が大学を卒業してプロ入りしてくるまでのこの4年間で、しっかりと成長してきたことがわかる。失策が多いことは課題ではあるが、守備範囲の広さや肩の強さ、そしてスピードなどは当初から評価されていた部分であるため、打撃改善の傾向が見えることで、一軍で使っていく段階に達したというのが小幡が期待される理由だ。

阪神の二遊間事情

次に、小幡が主戦場とする二遊間について見ていこう。2021年に入団した中野拓夢が瞬く間に存在感を示し、遊撃のレギュラーを掴み取ったことは、阪神ファンなら誰もが知ることであろう。そして、その相方となる二塁には、長らく打撃面が最も優れた糸原健斗がメインを張ってきた。しかし昨年、その糸原の打撃成績が大きく低下。元来二塁の守備には不安があり、また年齢ももう30歳になる糸原は、三塁での出場が増加した。代わって二塁で出場機会を増やしたのが山本泰寛熊谷敬宥木浪聖也らであったが、特に打撃での不安が目立ち、レギュラーを奪取した者はいなかった。その状況を見た岡田新監督は、昨年遊撃でベストナインを獲得した中野を二塁に回し、成長著しい、まさに今が「売り時」な小幡を遊撃で使うという構想を示した。

岡田構想への賛否

ベストナイン選手をコンバートしてまで小幡を使うという大改革に着手した岡田監督のこの構想には、もちろん賛否両論ある。
岡田監督は、守り勝つ野球を理想としている。しかし、近年の阪神は毎年のように失策数がリーグでも最多クラスにある。そして二塁にも目立った選手はいない。それならば、二塁の経験が豊富で守備力もハイレベルな中野をコンバートし、遊撃に守備力の高い小幡を使えば良いのではないかとなるのは、自然な流れと言える。実際、二軍ではやることがなくなってきたくらいに成長を見せる小幡をこのタイミングで一軍で使えるか腰を据えて試さなければ、ズルズルと機会を逸してしまうだろう。それは小幡の才能を潰すことにもなりかねない。また、小幡が期待通り成長しレギュラーとなれば、二遊間がハイレベルに固定できた状況となり、先も長く、黄金時代の到来も見えてこよう。
一方で、不安な点も多い。阪神は守備のミスが目立っているが、それよりも打撃面の課題が深刻である。昨年はなんと26回も完封負けを喫してしまった。その状態で、打撃成績が低下したとはいえまだチーム内では計算の立つ方である糸原、好不調の波が激しいながらも一軍での打撃実績は小幡以上にある山本や北條、そして日本ハム時代にはレギュラーとして打率.283打った経験もある渡邉諒らを端からスタメンで使う可能性を消してしまうこの構想はリスクが大きいことは否めない。せめて中野を遊撃のまま二塁のメインとして小幡を起用し、小幡が一軍で苦しむようなら上記の選手らを使っていくという方針で良かったのではないか、という意見もあろう。しかし、岡田監督には、一次政権時の就任1年目に前年打率3割を記録した遊撃手・藤本敦士を二塁にコンバートし、新人の鳥谷敬を遊撃で起用した経験がある。そして、その結果は大成功であった。このように、リスクが大きくても最大値を考え、やると決めれば固定を明言するのが岡田流。これを成功とするために最大限のサポートをするのが岡田監督のやり方であり、正解にできるかは選手にかかっている。

ライバル・木浪について

ここまであまり触れてこなかったが、遊撃争いのライバルとなる木浪についてもここで触れておきたい。木浪は小幡とドラフト同期であるが、年齢的には6つ上である。逆方向に打球を飛ばす力はチームの二遊間随一であり、守備もそつなくこなすが、攻守とも良い時期があまり継続しない傾向にある。小幡と比べてどちらが計算が立つかと言われると正直木浪だと思うが、しかし岡田監督はあくまで遊撃には小幡を使う前提で考えているように映る。中野よりも年上の木浪を使うためにわざわざ中野をコンバートするというのも考えにくく、そもそも木浪も遊撃と二塁なら二塁の方が上手い選手だからだ。結果的に現状争いという形にはなっているが、やはり相当アピールに差がない限りは小幡がまず使われていくのではないかと見ている。しかし、小幡も一軍での経験は浅く攻守とも粗さはまだまだ残っているので、その隙を突いていけるかがポイントになるだろう。

まとめ

岡田監督は、二遊間が固定しきらない、高卒野手がなかなか出てこないという近年の阪神の状況を打開し、かつ守りからリズムを作る野球を展開するために、守りに優れた小幡竜平という5年目の若手に期待している。しかし、これは現状だけを見れば、昨年からチームとしての打撃の期待値は更に低下する可能性が高い構想である。それを成功とするためには、小幡を我慢して起用し続けられるほどのチームとしての攻撃力を保つこと、つまり既存戦力の底上げと何より新外国人の活躍が求められ、その上で小幡が攻守両面で一軍で通用する選手へ成長することが求められる。
プロ野球界において、大々的にチャンスを与えられる選手はひと握りである。小幡はそのひと握りに入る素質と成長過程を見せている選手だ。一方で、そのような大チャンスを一度逃した選手が再びチャンスを得ることは相当難しいのがこの世界。ピンチはチャンスという言葉があるが、裏を返せばチャンスはピンチでもある。小幡竜平にとってこの1年は、レギュラーを掴むための最大のチャンスであり、そして掴み損ねれば一気にレギュラーが遠のくピンチだ。果たして、岡田監督が真っ先に期待をかけたその素質は開花するか。小幡にとって、そして岡田監督にとって勝負の1年が始まる。

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