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タイキ晩成

「大器晩成」という言葉を国語辞典で引いてみると、次のような意味が載っている。『鐘や鼎のような大きなうつわは早く作り上げることができないように、本当の大人物は、発達は遅いけれども時間をかけて実力を養い、のちに大成するということ』。そして、今まさに、この言葉を体現しようとしている選手がいる。阪神の小野泰己だ。

※写真提供=空の(@sorano_16R)さん

小野は、細身の体から投じられる威力のあるストレートが評価され、2016年にドラフト2位という高評価を受け阪神に入団。将来のエースと嘱望され、1年目から主に先発として一軍での登板を重ねてきた。しかし、プロ初登板から7連敗を喫するなど、入団から5年で通算9勝15敗、防御率4.71。近年は先発として一軍登板することはなく、昨オフには背番号も28から98へと大きく変わった。当初の期待とは裏腹に、いつの間にか崖っぷちの選手となっていた。

小野にとって大きな壁となっているのは、コントロールである。元来ストレートが持ち味でストレートへの拘りを持つ小野は、投球においてもそれを投じる割合が非常に高く、投球全体の3分の2以上を占めていることも珍しくない。しかし、それほどストレートに頼っているために、ストレートでストライクを取れなければ投球がすぐに瓦解してしまうという危険性を常に孕んできた。また、ストレートに対応されてしまうと、投げる球がなくなり、結果的にストライクゾーンで勝負できなくなるというケースも目立った。2020年には大不振に陥り、一軍登板すら果たせないどころか、二軍でも防御率11.51、さらにイニング数を上回る四球数を与えてしまうなど、どん底を味わった。
それでも小野が支配下選手として契約され、それどころかそこから2年連続で一軍キャンプに招集されているのは、それほど球団に期待されているからだ。小野泰己は、間違いなく大器なのだ。

そんな小野は、今年、これまで強く拘っていたストレートから、変化球に意識を割くようになった。

ストレート以外の変化球がカーブ、スプリットなどカウントを安定して取りにくいものが多かったため、スライダーを130キロ台後半のカットボールのようなものへと改良。その結果、安定してストライクが取れる球種となり、以前のようにゾーンで勝負できないというケースが激減。変化球でストライクが取れるようになったことで、元々武器であったストレートで打者を押し込むこともできるようになり、さらには投手有利のカウントを多く作れるようになったことで、スプリットも活きるようになった。
そんなピッチングに、監督は勝ちパターン入りを期待している。昨年までの守護神・スアレスがMLBへと移籍した穴は大きく、それを埋める選手として小野の名を何度も挙げているのだ。そしてそれに応えるかのように、3月5日の楽天戦では、三者連続三振を奪う好投を披露。同月8日の広島戦では、1イニングを僅か7球で片付けるなど、制球もテンポも乱していた以前までとは別人のような投球を続けている。

元々ドラフト2位で入団するなど、大器として期待されてきた右腕。今では立場も背番号も変わってしまったが、ここに来て快進撃を続けている。今年こそはチームに欠かせない投手となれるか。タイキは晩(おそ)く成る。

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