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性格とは真逆の投球

阪神のエース・青柳晃洋は、とにかく素直な性格だ。青柳に関する記事やインタビューに触れてみると、「嬉しい」「悔しい」なんていう感情がいつもストレートに表れている。好きなものに対する表現も素晴らしく、球団公式YouTubeチャンネルには、好きなマンガを笑顔で紹介していた様子も収められている。
青柳の素直さは、感情表現だけには留まらない。聞かれたことは素直に答え、それどころか聞かれたこと以上に話す。その姿勢には、記者の方々も感服しているそうだ。また、若手に対しても、素直にアドバイスを送る。チームメイトとはいえプロは個人事業主、特に同じ投手ともなれば全員がライバルと言ってもいいが、それでも青柳は自らの技術と経験を素直に伝えていく。

しかし、青柳晃洋という“投手“の最大の特徴は、素直でないところにある。投球の半分近くを占めるツーシームは、ストレートと見せかけて沈むように曲がり、打者の芯を外して打ち取るというクセ球。さらにそのツーシームとは逆に動いて芯を外すカットボール、そして途中までは速球のように見えるのに急に止まってから曲がるかのような動きを見せるスライダーも武器とする。特にスライダーは、打者が空振りした後に体に当たることもあるほど。途中まで打者が打ちたくなるような軌道を描いている証拠だ。とにかく、いわゆる「素直な真っ直ぐ」はほとんど投げない。打者が打ちたくなるようなコースに投じ、そこから曲げてゴロを打たせてアウトを積み重ねる。それこそが、青柳の投球スタイルだ。

そんな青柳が、出口の見えないトンネルを彷徨うチームを光へ導いた。得意のツーシームやスライダーでテンポよくゴロを打たせ、ピンチを迎えても3つの併殺で乗り切った。会心の一打を打たせることもなかった。その投球が流れを呼び、佐藤輝明とメル・ロハス・ジュニアの2本のツーランに繋がり、阪神は勝利を収めた。
試合後のインタビューでは、素直な青柳が帰ってくる。第一声で出遅れたことを謝り、そしてファンの大歓声については「最高っすね!」と少年のような笑顔で答える。出遅れたことへの悔しさも素直に表現していた。まさに青柳晃洋という人物の良さを凝縮したようなインタビューだった。

本当は3月25日、開幕の日にマウンドに立っていたはずの青柳。日付こそ3週間遅れたが、青柳は最高の開幕を迎えた。素直なのに素直じゃない、そんなエースの姿から、再スタートしよう。

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