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野球は9人ではできない

今季のプロ野球は日程全体のおよそ3割を消化し、残すところ約100試合。通常であれば各球団の勝率が4割〜6割程度に収束してくる頃合いだが、今年の阪神はここまでいまだ勝率7割(5/20時点)と驚異的なペースを維持している。この強さの要因は色々な部分に求められると思うが、今回は控え選手に注目したい。

今季の阪神で特徴的なのは、レギュラーと控えがかなりはっきりしている点である。ここまでスタメンのパターンは12球団最少の10通りしかなく、5試合以上でスタメンで起用された選手もわずか10人と、先発で出ている選手はほぼ固定されていることがわかる。これによって、各選手の役割は先発出場か控えかに大きく二分された状態となっている。
もう一つ特徴的なのは、控えの中でも打撃、足、守備といった役割が明確化されていることである。今季の主な控え選手と役割はこのようになっている。

今季の主な控え選手の試合数と役割(カッコ内は途中出場数)
山本:36試合(29) 守備22試合
板山:36試合(36) 守備30試合
陽川:31試合(27) 代打10試合、守備17試合
木浪:26試合(15) 守備10試合
熊谷:24試合(24) 代走15試合
糸井:20試合(18) 代打18試合
原口:15試合(15) 代打15試合
坂本:8試合(7) 守備6試合

このように、主な控え選手の役割はほぼ固定化されている。次に、上記選手の成績を見ることにする。

山本:1B:2試合,2B:13試合,3B:15試合,SS:11試合 失策1
板山:1B:1試合,LF:30試合,CF:2試合,RF:3試合 失策0
陽川:打率.226 2本6打点 OPS.785、1B:19試合,LF:2試合,RF:5試合 失策1
木浪:3B:1試合,SS:23試合 失策4
熊谷:盗塁5(成功率100%)、得点8
糸井:打率.273 2本3打点 OPS.924
原口:打率.308 0本0打点 OPS.785
坂本:犠打1(成功率100%)、捕逸・失策0

山本は内野全てを守れる守備固めを担う。失策もスタメン出場時の1つだけで、守備で首脳陣の信頼を掴んでいる。板山は主に外野の守備固めとして出場し、失策なし。時には内野も守るなどユーティリティぶりを発揮している。陽川は代打と一塁の守備固めを兼任し、パンチ力のある打撃と安定した守備力で貢献。外野を問題なく守れる点も大きい。木浪は控え選手というよりはどちらかというとスタメンを狙う選手であり、現在は再調整のため二軍落ちしている。失策は4つあるが、守備範囲などの指標は悪くなく、打撃を磨き直して再度スタメン取りを目指す。熊谷は代走の切り札になっており、盗塁数はリーグ5位。また、盗塁を決めたときはなんと全てホームに帰ってきている。糸井原口は代打がメイン。糸井は代打でこそあまり数字を残せていないが、全体の数字を見ての通り、能力はまだまだ落ちていない。代打のルーティンにいかに慣れるかがポイントだ。原口は今季は主にチャンスメイクとして使われており、さすがの成績を残している。坂本は守備力の高い2番手捕手として重宝されており、通算でも成功率10割を記録するバントへの信頼も高い。

さらに、全体に目を向けると、レギュラー選手(近本、糸原、マルテ、大山、サンズ、佐藤、梅野、中野)を除いた控え野手の失策数が6個(全体28個)となっている。これは、同じく出場数の多い上位8人を除いた控え野手の失策数が35個(全体85個)を数えた昨年と比べると大きな変化である。また、控え野手の盗塁数は11個であり、成功率は100%である。控え野手が守備走塁でしっかりと貢献していることで、締まった野球ができているのも強さの要因と言えよう。

矢野監督はよく「僕らの野球をする」という表現をする。この言葉が指す意味は、積極性を貫くこと、ファンを喜ばせること、そしてチーム一丸となって戦うこと。スタメンが固定されていても、戦うのは9人ではない。控えにいる選手も一緒になって戦っている。この意味がわかっているからこそ、控えの選手も気を抜かず、腐ることなく、常に準備をしている。それが現れた一幕が先日の代打原口、代走熊谷の積極攻撃でもぎ取った得点だろう。
多くの人はこう言う。ソフトバンクの強さの秘訣は各選手が一人一人自らの役割を理解していることだ、と。今年の阪神なら…チャンスはある。


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