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【本紹介】「生命科学的思考 (高橋祥子著)」

 日々直面するモノゴトに対する考え方/捉え方、それに適したアプローチの方法を、複数知っているということはとても大切だと感じます。自分の頭の中に"引出し"が複数用意されていて、それぞれの引出しの中にアプローチする方法/整頓された内容がぎゅっと詰まっている状態。異なる角度・視点から問題を観たり、現在という1点だけでなく未来の視点からもそれを観ることができる、そんな状態が好ましいし、複数のアプローチを持っていれば、心に余裕も生まれます。

 ①知識/知恵と、②試行錯誤を繰り返せる(粘り強い)行動力が共に揃えば、自分の望んでいるものを手に入れられる可能性が高まります。本書には、そのヒントとなる考え方が、わかりやすい言葉で丁寧に綴られています。全部で220ページという決して多くないページ数の本ですが、厳選されたその言葉たちは味わい深く、何度か読み返したくなります。なにか今の自分に引っかかった箇所に付箋を貼るなどして、後で戻ってこれるようにすると、読む度に深い学びを得られるのではないかと思います。

 本書概要、著者の説明は下記。自分が本書を購入したきっかけです。

 世の中には、原理原則のようなものがあり、これは抑えておきたいという基本があると思います。精神/心の持ち方の基盤/土台のようなもの。その土台がしっかりしていてこそ、知識がその上に蓄積され、実になります。

本書において著者は、この本を書いた目的を

生命の原則を理解すれば、人類は単純に生物的な本能に支配されるよりもずっといい未来に進むことができると私は信じています。本書はその考え方をみなさんと共有するため」に執筆しました。

生命の原理や原則を客観的に理解した上で、それに抗うために主観的な意思を活かして行動できる」と述べています。

 研究者としての著者は「主に遺伝子の機能を調べることで生命のしくみを解明しようとしている」が、企業経営者としての経験を通して本書に書かれる言葉たちは、我々に多くの学びを提供してくれます。


以下、私の本書からの学びの部分です。


・"死"と共に, 不自由なもの/厄介なものとして挙げられているのが"感情"。

・”感情”を持つことは、生命としての生存戦略上、有利だと考えられているためである。生命にとってそれぞれの感情を持つ意味が存在し、遺伝子に組み込まれている。怒りを他人に覚えるのは、自分の敵に対応するためであり、孤独感は人と集団で生活することで生き延びてきた人類が、一人で生きることを避けるための機能である。

・不安感について。①actionableな不安(不安の対象に対して具体的な行動を取れるもの)に対しては、考えられる準備をし、自分に取れる行動を取ること。②actionableでない不安については、(そこに自分の影響を及ぼせる可能性はないため)「蓋をする」ことを推奨。

・まず、個体として生き残ることが先で、個体としての生存の可能性が担保されてくると、次に種が繁栄すために行動するようになる。大人になっても自己中心的で視野が狭い人は、「自分の生存の可能性に安心できていない」可能性がある。

・答えや本質は、(自分が今それを捉えている)視野の外にある場合もあり、空間的視野・時間的視野を広くして物事を捉えることで、より良い選択をできる場合もある。

・「主観」とは、本能のままに,情緒的に,といった意味でなく、「個人が特有に持つ意志」を指す。

・私たちは基本的に遺伝子に従った生命活動を無意識に実行しているが、自由意志が存在すると考えることで、実際の行動自体が変わる余地が生じる。生命原則に歯向かう意思が存在すると思うことそのものが、遺伝子に歯向かう力になる。

・「課題」が存在するということは、現状よりもいい状態が既に頭の中にあるということ。課題を認識した時点で、自分が主観的に目指したい未来像はその人の手中に既にある。個人の"行動を起こすべき理由"こそが「課題」。課題のために人は行動しようとするのだから、課題は実は希望ともいえる。

未来の思い描く状況と現在の状況に差分があり、さらに現状維持のままでは思い描く未来に到達できないことがわかった時、その未来差分を解消しようと行動が生まれる。行動の初速が伴うことで、情熱が生まれる

・未来差分を描くのが上手な人にも、①自分で良い未来を想像して現状との差分を想像するのが上手い人と、②他者から刺激を受けて差分づくりをしている人の2種類がいる。

・刹那的に得られる快楽と(より長期的に得られる)幸福との違い。現在の快楽に身を委ねてしまいそうな時には、時間的視野を未来に広げ、達成したい目的を明確に意識した上でも尚その選択をするかどうかを自身に問う習慣をつけておくと幸福になりやすい

・利己主義と利他主義は相反するものではなく、利己主義を拡張して他人の利益も考えられるようになったものが利他主義であるといえるのではないか。

・情報はいくらでも集められる。周囲の環境が曖昧な状態で拠り所にすべきは、最後は自分の内発的な動機。情報を揃える重要性はいうまでもないが、最後には自分が面白そう、後悔の無いよう挑戦したい等の感情を持てるか。"主観"の力が一番の推進力になるのでは。主観はAIに代替されない

・人間の本質は、思い込みや主観にある。自身の未来差分こそれが、自身を動かす推進力になる。

何より、"時間"に関する説明が秀逸です。(本書p.79の図はぜひ参照頂きたい)

時間とは、「自分という単一の変化のみでは存在できず、環境など複数の変化があることで初めて存在し認識しうるもの。二次元における距離の概念が一点ではなく二点以上存在することで初めて成り立つように、二つ以上の異なる性質を持つ変化を比較することで、初めて時間を認識できる

・私たちが認識している時間の経過は、何と何の変化によって認識されるか。①自然変化(地球の自転、公転、セシウム原子等の変化) ②環境変化(自分の周囲の社会の変化。他人の社会活動、経済、政治などの変化) ③行動変化(個人の社会活動/行動の変化) ④生命変化(生まれ、成長し、老いて死ぬという人間の生命活動の変化))の4つの変化がある。

 特に、自分が膝を打ったのは、「時間」のとらえかたです。この4つの変化による時間の定義によって、人が認識する時間が説明される。"きれいな女性と過ごした1時間"があっという間に感じられたのは③の変化量が①に対して相対的に大きかったためであり、"スマホでぼーっと動画見てたら時間が早く過ぎた"ように感じるのは、①に対して③の変化量が相対的に小さかったため。

・時間の認識で大切なのは、何の変化と何の変化を比べているのかという、比較対象と主体。最近はAIによる自動化が進む中でいかに効率化するか、人々がどう生きるかという議論は、まさに"自然変化"や"環境変化"を比較対象にした考え。

・著者は、"生命変化"を比較対象とするのが良いと考えている。時間の認識が"二つ以上の異なる性質を持つ変化"の比較という相対的なものに基づくならば、その比較対象は自身の生命変化にするのが本来あるべき姿ではないかとの考えから。人生の充実度について考える場合、仕事の効率や生産性を他人と比較したり、自分と同年齢の人とどちらがより活躍しているかを比較することに意味はあまりない。

・それよりも、自分が生まれてから死ぬまでの生命変化や自分の行動変化を軸に、自分はどうありたいかを考え、どう過ごすかを決める方が行きやすくなると私は考えています。

 どうしても、同級生や身近な人を対象に比較しがちです。自分の行動変化と時間軸を中心にして、対象をとらえるのは容易ではない。でも自身がコントロールできるのは、今の自分を少し高いところから、俯瞰的な視点で自分を観察できれば、自分の行動変化しかないという当たり前の事実に気づくことができます。粛々と自分のできる行動を積み上げることが、自分が集中すべきことだと思うようになるはず。

人生の充実度に大事なのは自分の持つ生命変化の間にどのような行動変化を起こしたかです。自分の時間軸で考えるようになると、"まだ若いんだからこういう仕事をするべき""とりあえず新卒は石の上にも3年","もう年配だから成長は見込めない"なども全てナンセンスだとわかります。
目指したいものに対して覚悟を決めている人は、葛藤しない。
私の考える覚悟とは、「不確定で曖昧な未来に対して、どうなっても絶対に後悔しないと最初に決め抜いておくための、碇のようなもの」です。大切なことは「最初に決めておく」という時間軸です。初めに「これをやり切るまでは中途の過程で何があっても後悔しない、なぜなら自分がそう決めたから」と覚悟を決めたならば、葛藤はそもそも生じません。
"これからの1時間の打ち合わせは時間の無駄だったと後悔しないようにする", "これから2時間の作業は非効率だったと後悔しないようにする"など、小さな覚悟を積み重ねることで集中力をあげたり時間の使い方を後から悩んだりしないように普段から心掛けています。

 意志のみに頼るのは、なかなか長続きしないものです。まずはWhyを自分に問いかけること。深く掘り下げることができれば、自身の"覚悟"が生まれてきます。覚悟は、事前にわかっているものではなく、(例え不確定な状態であっても)行動をひとつひとつ積み重ねることで、その覚悟が輪郭を帯びたり、確かになっていくものだったりします。

「生命原則を客観的に理解し、視野を自在に切り替えて思考することで主観を見出し行動に移せば、自然の理に立脚しながらも希望に満ちた自由な生き方が可能になる」

 ニーチェは「過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える。」 と述べています。

本書をじっくり味合い、より”自分らしい"生き方をしたいものです。

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