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明治の唱歌を合唱ソフトに唄って貰う517

四 近代教科書アーカイブ 發兌 大日本圖書株式會社
(M26.8.15印刷M26.8.18発行)
巻之四下
4-b19


*歌詞と譜面で齟齬あり、[]内が譜面
四季の月
作曲 ウエーベル氏
作歌 鈴木弘恭


櫻(さくら)が枝(えだ)にふけゆく月霞(つきかすみ)のおくに傾(かたぶ)くかげ
春(はる)の夜毎(よごと)に見(み)れど乀
あはれはつきぬものなりけり

深池(みいけ)の面(おも)にふけゆく月蚊遣(つきかや)りのよそに傾(かたぶ)く影(かげ)
夏(なつ)の夜毎(よごと)に見(み)れど乀
すゞしさそふるものなりけり

そよ吹(ふ)く風(かぜ)にふけゆく月雁(つきかり)なく空(そら)に傾(かたぶ)く影(かげ)
秋(あき)の夜(よ)ごとに見(み)れど乀
哀(かな)しさ添(そ)ふる[さそふ]ものなりけり

氷(こほり)の上(うへ)にふけゆくつき時雨(しぐれ)の後(のち)に傾(かたぶ)く影(かげ)
冬(ふゆ)の夜(よ)ごとに見(み)れど乀
さびしさまさるものなりけり

四季の月
此曲は、調號、及び首尾の音に依りて見れば、「イ」の長調の如くなれ〓(とも)、仔細に、心の感應に
徴すれば、然らずして、前半は、嬰「ヘ」の短調にして、後半に至り、其關係長調たる「イ」調に
轉ずるなり。前半中に、導音は見えざれども、其首尾音、共に嬰「ヘ」短調の屬和絃なるを
以て、推考の一端とするを得べし。但し斯の如き曲の判定は、初學者には、爲し易からざ
る所なれども、能く樂曲の構成に注意し、其主要の位置を占むる音に就きて、精思せ
ば、思、半に過ぐる所あらん。故に、教授の際、よく注意して、生徒に、考察の方途を示さん
ことを要す。今、此例に依り、樂調の長短を識別するには、臨時記號等の如き、肉眼にて
識別し得べきものゝ外、猶ほ心眼に照して、識別するの要あるを悟るべし。

第一歌は、春月の朧々たるを詠みたる歌にて、或は、櫻花の上に匂ひ、或は、柳の枝にか
ゝりて、かすめる影ののどかに、面白き氣色は、連夜にても、其興はつきぬみにぢや」と
いへるなり。
第二歌の、「みいけのおも」は、池の面(おも)にて、「み」は美稱する〓(とき)副ふる詞なり。「かやり」は蚊逐(かやり)
にて、即ち蚊遣火(かやりび)の煙の外(よそ)といへるなり。歌の意は、池水に映る影、又は、かやりびの煙の
末に、影清く傾く月は、いつ見てもすゞしくて、厭くことがない」といへるなり。
第三歌は、秋は、何となく物寂しきものなる故に、秋の夜更けて、秋風、そよ乀とふき
わたるに、月は、ことに清みまさる時、又は、思ひがけなき雁が音のきこゆる空に、稍く傾
きかけし影などは、いつももの哀れに、かなしさをそふるものである」と云ふの意な
り。
第四歌は、冬は、木草も枯れて、殊にものすごきに、月は、氷のうへをわたり、又、時雨の音
の、身にしみて寒きに、月影は、霜の凍れるが如く、軒端に傾けるなどは、さびしさの限
である」と云ふ意なり。

六 広島大学教科書ライブラリー 發兌 大日本圖書株式會社
(M.26.9.14印刷M26.9.17発行)
巻之六下
6-b20


櫻(さくら)が枝(えだ)にふけゆく月霞(つきかすみ)のおくに傾(かたぶ)くかげ
春(はる)の夜毎(よごと)に見(み)れど乀
あはれはつきぬものなりけり

深池(みいけ)の面(おも)にふけゆく月蚊遣(つきかや)りのよそに傾(かたぶ)く影(かげ)
夏(なつ)の夜毎(よごと)に見(み)れど乀
すゞしさそふるものなりけり

そよ吹(ふ)く風(かぜ)にふけゆく月雁(つきかり)なく空(そら)に傾(かたぶ)く影(かげ)
秋(あき)の夜(よ)ごとに見(み)れど乀
哀(かな)しさ添(そ)ふる[さそふ]ものなりけり

氷(こほり)の上(うへ)にふけゆくつき時雨(しぐれ)の後(のち)に傾(かたぶ)く影(かげ)
冬(ふゆ)の夜(よ)ごとに見(み)れど乀
さびしさまさるものなりけり

[教授法、及び解釋 仝上]

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