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明治の唱歌を合唱ソフトに唄って貰う540

六 広島大学教科書ライブラリー 發兌
大日本圖書株式會社
(M.26.9.14印刷M26.9.17発行)
巻之六下
6-b21


古戰場
作曲 ベルチニー氏
作歌者 未詳


引(ひき)かへさじと争(あらそ)ひし
荒野(あらの)の末(すゑ)をとめ来(く)れば
ゆみはり月(づき)に雁啼(かりな)きて
靡(なび)くもあはれはた薄(すすき)

淺茅蓬(あさぢよもぎ)にところ得(え)て
すだく鈴虫轡(すずむしくつわ)むし
それとまがひて聞(きこ)ゆれど
駒(こま)の嘶(いざゆ)るこゑは
なし

古戰場
此曲の主調の、變「イ」調なるは、先づ新出調號變「二」より、下へ四度數へて、之を判知し、次に
第一、第二、第四段の末音の、變「イ」なるによりて、確定すべし。然れ〓(とも)、此曲の特質は、第三
段に於て、「ロ」を本位に復し、三個の半音を連用して、一層惨憺なる光景を冩出せし點
に在り。而して第四段に於ては、「二」を、本位に復して、一たび屬和絃變「ホ」に轉調し、又忽ち
主調に還りて、其曲を終結せるものなり。

此歌は、古戰場の荒涼たる光景を叙せるにて、其第一歌は、昔、勇將猛卒等が、互に死力を
盡して、退かじ負けじと爭ひし場所に來て見れば、弓矢も、旗幟も、形無けれど、其名さ
へ忍ばるゝ、弓はり月に、雁鳴き渡り、はた薄の、秋風に靡くさまには、其當時も想ひ出
されて、いとゞ物凄し」となり。

其第二は、斯る荒野を、誰とて訪ふ人もあらざれば、淺茅蓬など、蔓草、生ひ茂りて、種々
の蟲類の栖所となり、中にも、轡虫の、聲を限に鳴くを聞けば、さながら百千の騎士の、
馳駒するかとばかり疑はるれど、駒の嘶く聲は、斷えてない。嗚呼、如何にも哀れなる
かな」と懐舊の情を叙したるなり。

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