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明治の唱歌を合唱ソフトに唄って貰う500

四 近代教科書アーカイブ 發兌 大日本圖書株式會社
(M26.8.15印刷M26.8.18発行)
巻之四上
4-a02


作曲者 未詳
作歌 林甕臣


ゆきほど白(しろ)き物(もの)はなし
雪(ゆき)ほど清(きよ)きものはなし
こゝろを雪(ゆき)に倣(なら)へかし
心(こころ)を雪(ゆき)にすゝげかし

ゆきをば積(つ)みて
學(まな)びてし
昔(むかし)の人乃(ひとの)ためしあり
雪(ゆき)ふる夜半(よは)も
怠(おこた)るな
むかしの人(ひと)に
ならへかし


・此曲は、何調なりや。
・「ハ」調なり。
・然り。一見、「ハ」調の如しと雖も、凡そ樂曲の調を確認するに、單に調號のみに依る可らざるは、既に汝らの、知る所なり。能く注意して、首尾の音、如何を見よ。
・首音は、「ホ」(3)にして、尾音は「イ」(6)なり。
・然らば、此曲の、「ハ」調の長音階に非ざるを知るべし。是は、短音階と稱するものにして、其(6)は、實に此調の主音にして、(3)は、其第五音に當る。然れ〓(ども)、律旋法は、(2)に終り、俗樂調第一種は、(3)に終ると言ひし如く、是も、便宜の爲め、(6)に終る旋法なりとするなり。
教師、是に於て、生徒に、注意を促し、第四小節に、嬰の記號あるは、如何」との問を發
さしめ、乃ち其理由を述べて曰く、是は、短調には、上行の場合に限り、其第七音を、導
音(主音へ導く音と云ふ意)と爲さんが爲め、(「ハ」調長音階の第五音(/ト)を)、半音高むる
の必要ある故、斯くは、爲したるなり。其第六音(「ハ」調長音階の第四音(/ヘ))も、亦之に准
じて、高むるの要あり。故に、今後、長音階の第六音、第一音、又は、第三音を以て始ま
り、第六音に終り、中途上行の場合に、其第四音、及び第五音を、半音高むるものあら
ば、卽ち短音階の曲たることを知るべし。
今、短音階の組成を見るに、「イ」「ロ」「ハ」「ニ」「ホ」「ヘ」「ト」「イ」の七種、八音より成り、唯だ上
行の場合に、「ヘ」「ト」の二音に、嬰を附するのみにして、下行の時には、是、亦本位に
復す。故に、此嬰は、全く臨時記號と見るべきものなり。然らば、「ハ」調長音階と、「イ」調
短音階とは、全然同材料より成れりと云て可なり。是れ此長短二種の音階の、密接
なる關係を有し、甲は、乙の關係調なりと稱する所以なり。
凡そ長短二種の關係調は、互に短三度の音程を以て、相距るものなり。卽ち長音階「ハ」
調の關係短調は、其下短三度なる「イ」調にあり。長音階「ト」調の關係短調は、同一の
理によりて、「ホ」調にあるが如し。斯の如く、二者の異なる所は、主音の位置に關す
るのみにして、全く同名の諸音より成れるを以て、其調號も、亦同一のものを用
ふるなり。長短二調の、相異なる要素は、第三音にありを存し、一は、二個の全音よ
り成り、一は、全音一個と、半音一個とより成る。斯く甲は、乙より、その音程の距離、長
きに依り、之を、長と稱し、乙は、甲より、其短きにより、短とは稱するなり。而して其
調性、甲は、活潑雄壯の音に富み、乙は、森嚴悲哀の聲を帶ぶものなれば、短調の曲
を授くるときは、一層、感情を深からしめんことを勉むべし。
[注意]此曲を授くるには、先づ「ハ」調長音階より始め、其關係短音階たる、「イ」調の旋律
的音階に及ぼし、兩者の比較圖を、盤上に書し、之に就きて練習し、漸く本曲に入る
べし。即ち其圖解、左の如し。
 ヒー|ナー|ムー| イー|ヨー|ミー|フー|ヒー|
  .1| 7| 6| 5| 4| 3| 2| 1|
  <---|
  ムー|ツー|ヤー| ミー|フー|ヒー|ナー|ムー|
  6| 5| 4| 3| 2| 1| 7.| 6.|
  |--->
  ムー| イー|ヨー|ミー|フー|ヒー|ナー|ムー|
  6| 5| 4| 3| 2| 1| 7.| 6.|
  <---|
  /イ|/ト| /ヘ| /ホ| /ニ| ハ| ロ| イ|
  /イ| /ト| /ヘ| /ホ| /ニ| ハ| ロ| イ|
  |--->
短音階數字練習には、便宜の爲め、右のごとく長音階の數字を用ふ。但し、嬰「5」音は、「ツ
ー」と呼び、嬰「4」は、「ヤー」と呼ぶべし。又、發音練習には、イロハニホヘト、/イの音名を用
ふるも、可なり。尤も短音階の場合に於て、「ヘ」と「ト」とは、上行の際には、半音上がるこ
とを、よく注意すべし。

第一歌は、歌詞の如く、白きことも、清きことも、雪に如(し)くものなければ、人たるものは、
此雪の清淨潔白なるが如く、心を、清くもちて、學業を勉め、職業をも励まねばなら
ぬぞ。心は、清白に倣へ、心を、雪の清白に滌げ」と云へるなり。
第二歌の、「むかしの人のためし」とは、晋の孫康が、家貧うして、燈油を買ふことあたは
ず、雪をつみて、書をよみ、業成りて、御史大夫になりしといへるの故事なり。凡そ學問
する者は、此孫康の如く、刻苦勉強せねば、成業はせぬものなれば、是等の故事をお
もひて、常住不斷、勉強せねばならぬぞ」と云ふを、此歌に因りて、「ゆきふるよはも云
々」とはいへるなり。

六 広島大学教科書ライブラリー 發兌 大日本圖書株式會社
(M.26.9.14印刷M26.9.17発行)
巻之六上
6-a02


ゆきほど白(しろ)き物(もの)はなし
雪(ゆき)ほど清(きよ)きものはなし
こゝろを雪(ゆき)に倣(なら)へかし
心(こころ)を雪(ゆき)にすゝげかし

ゆきをば積(つ)みて
學(まな)びてし
昔(むかし)の人乃(ひとの)ためしあり
雪(ゆき)ふる夜半(よは)も
怠(おこた)るな
むかしの人(ひと)に
ならへかし

[教授法、及び解釋 仝上]

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