見出し画像

明治の唱歌を合唱ソフトに唄って貰う369

明治二十三年(1890)明治唱歌 第五集
29 農夫の吟
高知市民図書館アーカイヴより

農夫の吟
大和田建樹 作歌 奥好義 作曲

蛙(かはづ)なく門田(かどた)の水(みづ)に
けむりゆく雨(あめ)のどかなり
今(いま)ぞ時生(ときお)ひたつ苗(なへ)も
今(いま)ぞ時(とき)なはしろ水(みづ)も
山吹(やまぶき)の花(はな)さへ浮(う)けて
静(しづ)かなるわが世富(よと)ませり
知(し)るや人山田(ひとやまだ)の里(さと)の
春(はる)のこゝろを

夜(よ)はあけぬ雲雀(ひばり)は空(そら)に
日(ひ)ははれぬ雉子(きぎす)は谷(たに)に
いざ子(こ)ども残(のこ)りし麦(むぎ)を
刈(か)りてこん背板(せいた)わするな
孫(まご)も来(き)ていちごある野(の)に
木(こ)の葉笛(はぶえ)ふきても遊(あそ)べ
知(し)るや人山田(ひとやまだ)の里(さと)の
朝(あさ)の心(こゝろ)を

あれ秋(あき)よこがねの波(なみ)に
たちさわぐ雀(すゞめ)の声(こゑ)も
あれ秋(あき)よ稲葉(いなば)の末(すゑ)に
うちなびく祭(まつり)の旗(はた)も
里神楽(さとかぐら)われもまじらん
神代(かみよ)の秋(あき)われもうたはん
たれか汲(く)むゆたけき年(とし)の
賤(しづ)がこゝろを

牛(うし)の背(せ)に妻(つま)の笑顔(ゑかほ)も
うちのせて家(いへ)にぞかへる
玉(たま)すだれ吹(ふ)きまく風(かぜ)よ
よもしらじ此(この)たのしみは
勝軍(かちいくさ)てらす朝日(あさひ)よ
よもしらじ此(この)たのしみは
あはれこの勝(か)ちほこりたる
賤(しづ)がこゝろは

うゑはづる早苗(さなへ)の上(うへ)に
露(つゆ)みせて夕月(ゆふづき)しろし
うたひつゝ筧(かけひ)のみづは
笠(かさ)あらふ人(ひと)や待(ま)つらん
かやり火(び)ぞ夢路(ゆめぢ)のまもり
子(こ)はあとに猫(ねこ)はまくらに
都人(みやこびと)しるや田中(たなか)の
さとのゆふべを

高山(たかやま)に夕日(ゆふひ)かくれて
あとなく風(かぜ)こゝちよし
一(ひと)すぢの小川(をがは)のうねり
影(かげ)おとす雁(かり)のいくむれ
世(よ)の中(なか)は我(わが)ものなるを
稲(いね)しろく花(はな)も見(み)えけり
都人(みやこびと)しるや田中(たなか)の
さとのゆふべを

あの川(かは)の芦間(あしま)づたひに
あすもまた牛(うし)つれゆかん
あの岡(をか)のならの木陰(こかげ)に
あすもまた牛(うし)やすません
空(そら)のあゐ野辺(のべ)の緑(みどり)は
わが為(ため)のつきせぬ楽土(らくど)
きてもとへ都(みやこ)の外(ほか)の
ひろき世界(せかい)を

庭鳥(にはとり)を塒(とや)に入(い)れなば
孫(まご)も来(き)て種(たね)まき馴(な)れよ
たのみおく事(こと)はおほかた
たがふ世(よ)にたがはぬ空(そら)の
あめははや土(つち)にしめりぬ
豆(まめ)の葉(は)に力(ちから)を見(み)せて
きてもとへ都(みやこ)のほかの
秋(あき)の世界(せかい)を

あす一日(ひとひ)柴(しば)こりつまば
春(はる)またん外(ほか)にことなし
そばも刈(か)り麦(むぎ)もまきけり
雪(ゆき)よいざ畑(はた)をもうづめ
いとま得(え)し門田(かどた)の面(おも)に
あさる鶴(つる)いまこそ友(とも)よ
しるや人世界(ひとせかい)の外(外)に
世界(せかい)ある世(よ)を

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?