見出し画像

明治の唱歌を合唱ソフトに唄って貰う508

四 近代教科書アーカイブ 發兌 大日本圖書株式會社
(M26.8.15印刷M26.8.18発行)
巻之四上
4-a10

松の操
作曲 東儀季煕
作歌 税所敦子

月(つき)の桂(かつら)も手折(たを)るべし
ことばの花(はな)もかざすべし
つきのかつらはたをるとも
言葉(ことば)の花(はな)はかざすとも
時雨(しぐれ)にそまず降(ふ)りつもる
雪(ゆき)にたわまぬ常磐木(ときはぎ)の
松(まつ)のみさをを守(まも)らずば
世(よ)に立(た)つかひやなからまし

松の操
教師、「オルガン」にて、本曲を、一二回彈じ、問ひて曰く、
・此曲は、何種の旋法なるか。
・律旋法なり。
・然り。何調なるか。
・盤渉調なり。
・何を以て、之を知れりや。
・律旋の曲の宮音は、調號に相當せる、長音階の調の、上一度に在り。今、此調號は、「イ」調の形なれば、此曲の宮音は、「ロ」に在るべし。而して「ロ」音は、盤渉の律に等しきを以てなり。
[注意]此曲には、低音多きゆえ、女生徒には、少しく歌ひ惡き所あるべくれば、特に注
意して、練習すべし。又、此歌は、最も女子の誠となるべきものなれば、清淑の意を、發
相上に表するを要す。

・「月のかつらも、たをるべし」は、支那の古書に、月中に桂樹のある由にいひ、又、儒家に
て試業に及第するを、折桂と云ひて、菅公の御母の歌にも、「ひさかたの、月の桂もをる
ばかり、家の風をも、ふかせてしがな」とあるなどをとりいでたるなり。・「ことばの花
も云々」は、歌詩文章などに巧にして、人も賞美するを云ふ。昔は、人の、藝能に秀でたる
を賞する爲め、花を、頭挿にさゝせしことあり。故に、斯くは云へるなり。
此歌の意は、縱令ひ學問は成就し、歌詩文章などには巧なりとも、人には、節操がなくて
は、肝腎の筋骨のなきと均しくて、物の用には立たぬ。故に、松の、嚴霜に逢ふも、色を變
ぜず、積雪の下にも、撓むことなく、能く終始を全うするが如く、節操を守れ」と喩した
るにて、特に婦人は、如何なる艱難辛苦に遇ふとも、貞操を立て通すが、婦徳の第一と
云ふものなれば、これを欠きては、世に立つかひは、なきものぞ」と戒められたるなり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?