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明治の唱歌を合唱ソフトに唄って貰う529

六 広島大学教科書ライブラリー 發兌 大日本圖書株式會社
(M.26.9.14印刷M26.9.17発行)
巻之六上
6-a03


屯田兵
作曲者 未詳
作歌 小田深藏


はても限(かぎ)りもえぞ知(し)らぬ
蝦夷(えぞ)の荒野(あらの)に身(み)をよせて
國(くに)の冨(とみ)をばますらをが
開(ひら)く田面(たのも)ぞたのもしき

事(こと)し起(おこ)らばつるぎ大刀(だち)
起(た)ちて揮(ふる)ひて夷(えみし)らに
みいつ見(み)せんときたひたる
北(きた)のおさへぞいさましき

屯田兵
・此曲は、何の調なりや。
・「ハ」調なり。
・然り。然れ〓(とも)、何か、新奇なるものあらざるか。
・第二段の第三小節の「へ」音の前に、嬰の記號あり。
・余が、今、教へんとするは、其事なり。試に問はん、「ハ」調に、一嬰を加ふれば、何調となるか。
・「ト」調となるなり。
・此曲の第三段は、實に「ト」調を用ひたるなり。時に、作者の意匠により、一曲中に、ニ調以上を用ひ、或調より、他調に移ることあり、之を、轉調と稱す。さて此曲には、何調と何調とを用ひしぞ。
・「ハ」調と、「ト」調とを用ひたり。
・然り。「ト」は、「ハ」の第何音なるか。又、其音に對する和絃の名を知れりや。
・「ト」は、「ハ」の第五音に當り、之を稱して、屬和絃と云ふと聞けり。(又は、知らず。)
・竝に特記すべき要件あり。ニ調以上を用ひたる曲に在りては、首尾を連貫せる調を、主調と云ひ、或部分に變用せる調を、附屬調と云ふ。附屬調は、概して主調の第五音、即ち屬和絃の調、又は、其第四音、即ち次屬和弦の調、若くは、主調の關係調(長短の)なり。本曲に於ては、主調は、「ハ」にして、附屬調は、「ト」即ち「ハ」の屬和絃に當れるなり。

此歌、第一は、北海道を、維新前までは、蝦夷(えぞ)といひしゆえ、其地の、いと廣くて、際限も得(え)
知らぬほどゝ云ふに、「えぞ」と云ふ詞を假りて、「はてもかぎりもえぞしらぬ」といへ
り。・「ますらを」は、男子の總稱なるが、「ます」といふ詞を假りて、國の富を「ます」とかけ
ていへり。・屯田兵が、事あらん時は、兵士となれど、平常は、鋤鍬をとりて、墾田に從
事するを、「開く田の面」といひて、その「田(た)の面(も)」と云ふに因みて、「たのもしき」とはいへり。」

其第二は、屯田兵は、平常は、拓地墾田に從事すれど、萬一、外寇の事など起れば、直に兵
器をとりて、皇國(みくに)の威光を輝すべきことを、劍をきたふにたとへたり。・「えみし」は、
此所にては、外寇の事に用ひたり。・「みいつ」は、威光なり。・「きたのおさへ」は、北門
の鎮䑓とも云ふべき詞なり。

此歌に「つるぎ[たち]、[たち]て、」「[み]いつ、[み]せん、」「[きた]ひたる、[きた]のおさへ」など、前句の
末音を、後句に疊用せるは、語勢を強むる一種の躰なり。

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