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鶏卵価格の高騰について思うこと

ここ最近連日ニュースになっている
「鶏卵価格の高騰」

完全にポジショントークになるけど、ど真ん中の当事者として思うことをまとめておこうと思います。

過去最高の鶏卵相場

2023年3月3日 JA全農たまご 鶏卵相場
東京 Mサイズ 335円/kg

過去最高で高止まり。
僕が物心つい頃からごく最近まで30年以上ずっと200円前後で、安い時は100円をきったりと推移してきました。

物価の優等生がもたらしてきたもの

「物価の優等生」と言われ続けてきた卵。
子供時代は、教科書にも書かれてて、卵ってすげーんだなーと少し誇らしげになったこともありました。
ただ事業承継し養鶏経営してみると、先人の養鶏家さんや業界を取り巻く飼料会社、育雛会社、設備やサプライチェーンも含めて並々ならぬ努力があって業界全体で価格維持してきたんだなと。

農業という括りの中でもとりわけ畜産・養鶏は近代化、効率化、機械化が早く、竹鶏ファームが創業した1960年頃は庭先養鶏がほとんどだったのが、寡占化が進み10万羽、100万羽以上の大規模養鶏が主流になりました。

この大規模集約化に関して賛否ありますが、事実として何十年も価格が上がらず「物価の優等生」と言われてきました。世界第2位の鶏卵消費国で、たまご大好き日本人にとっては決して悪ではないし、業界の経営努力に心からリスペクトしています。

だから、狭いケージの中で劣悪な環境はよろしくないと、一方的に養鶏場を悪と主張している言論を見ると、とても悲しくなります。もちろんそういった負の側面もあるし、改善すべき点はあるとも思ってます。ヨーロッパのようにアニマルウェルフェア(動物福祉)をより中心の価値観に置いた先にある鶏卵業界の未来やたまごの食文化の変化も見ていきたいです。

そういう意味でも、今回の鶏卵価格の高騰が転換点となって、「少し高くても卵を買う」という消費が一般化されれば、養鶏家としても多様な飼い方にチャレンジしていけます。


なぜこんなに鶏卵は高くなった?

話しを戻すと、連日ニュースで報道されている通りここまで高くなったのには理由があります。
大きく分けて2つ。

①鳥インフルエンザの発生が過去最多

毎年冬になると流行する「鳥インフルエンザ」
今季の被害は過去最多となりました。10月28日に国内1例目が確認されてから3月3日の時点で25道県77事例発生し、約1,500万羽が殺処分の対象となっています。全国に1億3000万羽を超える鶏がいたのに1割以上殺処分され、大きく供給が減り深刻な卵不足が続いています。

明日は我が身

僕らも正直、明日は我が身です。僕ら以上に万全に防疫対策をされた大規模鶏舎でさえ発生している状況です。今この瞬間、発生してもおかしくない大きなリスクを抱えています。養鶏家は、1年の半分をこの恐怖と隣り合わせでいなければいけません。

僕らは、幸いにも発生していませんが、発生された農場さんは本当に辛いと思います。行政の方々が動員され殺処分、出荷停止、そこからすぐに再開できるわけではないので、半年〜1年は通常に戻るまで最低でもかかるはずです。

また一度失った販路は、簡単に戻せるかも不透明です。僕らのような小規模養鶏(4万羽)であれ、大規模であれ大きなのリスクを抱えています。

いずれにしても、鳥インフルエンザが過去最多が一要因となり供給は大きく減りました。

②飼料価格の高騰

鶏のエサは主に配合飼料と呼ばれるトウモロコシなど複数原料をバランス良く配合し、鶏にとって必要な栄養素を確保できるよう飼料会社さんが作っています。竹鶏ファームでは、この配合飼料をベースに竹炭や飼料用米、おから粕などをブレンドすることによって独自性を出しています。

この配合飼料が、異常なほどまで高騰し経営を苦しめています。配合飼料の原料は基本的に輸入になります。よく国産にすればいいと言われますが、日本の国土では費用対効果が合わず、現在は輸入に頼らざる得ない状況です。もちろんすでに北海道や岩手で先進的に始めていたり、飼料用米も推進されてはいます。ただ今のところ輸入配合飼料にとってかわるものは出てきていないのが現状です。

1.5倍のエサ代

鶏卵の売上に対して30〜40%をこの飼料が占めている中で、2020年頃から通常時の110%弱、2021年には120〜140%に、2022年には、150を超えて170〜180%で現在高止まって推移しています。

畜産だから補助金も出てるんだろと言われそうですが、もちろん出ることは出ます。ただ通常時に戻るには程遠いのが現実です。

飼料高騰の要因としては、主にウクライナ情勢、円安、中国の需要増による需給が逼迫していることがあげられます。

2022年春、業界最大手の「イセ食品」経営破綻

この飼料高の苦しさを象徴するような出来事が森のたまごで有名なイセ食品さんの経営破綻でした。近年は大手企業さん同士の過当競争のような状況で、今とは真逆で供給過多で、たまごが溢れかえっていました。

生産量の削減へ

こうした飼料高騰を背景に、経営的にはやってもやっても赤字。業界全体として増産から減産にシフトされていきました。僕ら竹鶏ファームも古くなっていた鶏舎2割分を2023年1月に減産しました。

もろもろの値上げ

他にも、段ボールやパックのような資材費、最低賃金アップによる人件費、みなさん同じだとは思いますが、様々なものの値上げがありました。

養鶏やめようかと思っていた

竹鶏ファームは創業1960年、志村養鶏場から僕の父の代で法人になり23期目。3年前から代表を引き継ぎ経営してきました。付加価値をつけた特殊卵「竹鶏たまご」として、小規模ながら地域密着と首都圏向けに生産から販売までしています。手間暇がかかっている分、相場価格よりも少し高く販売できているのはうちの強みで、直接お届けするというビジネスモデルで売上も右肩上りで推移してきました。コロナ禍直後に4割減しましたが、みんなの頑張りとお客様に支えられて前年を上回れました。

ただ、もともと大きな利益はなく適正価格で販売していたこともあり、飼料代高騰の煽りは強く、昨年夏頃になると限界の2文字が見えてきました。やめるという選択肢も現実的に入るようになってきました。

座して死を待つよりやるだけやってみる

とはいえ、小さいながらに菓子製造もし、コロナ禍を乗り越え、出前たまごの宅配サービスも地元で始め、30名の従業員を抱えるようになりました。こんなところで、みんなを路頭に迷わすわけにはいかない。あらゆるやれることをやって倒れるなら前のめりで倒れよう。そんな覚悟で、値上げのお願い、さまざまなコストカット、無駄をなくすことを徹底してやりました。

ここから半年でダメなら売却しよう

秋になり、副社長と話した時に描いたロードマップは、飼料高騰は落ち着くことはないし高止まりしていく。まずは古くなっている鶏舎分はやめて、2割生産量を減らそう。そこから春にかけて再度値上げのお願いをしていこう。
うちのような小さな養鶏場でも、卵が余れば生物なので安くしてでも売らないといけない。今までは多少残っても何とかトントンだったのが、余る=赤字幅がただただ増えるようになってしまいます。なので、値上げをするにも簡単に出来ない。少しでも余るリスクを減らすために減産して値上げのお願いをするということを考えました。
これで春になって計画通りできなかったら諦めよう。そう話していました。

余談ですが、毎月のように東京の○○ヒルズや港区住所のM&A会社からご丁寧にお手紙が届きます。直筆風のフォントで「あなたの会社を私のグループに招きたいという優良企業様がいます。一度ご面談させてください」と。これはメンタルがやられてきます。破産や一斉解雇するぐらいなら売却した方がみんな幸せなのかも知れないと。

春となり、一番の正念場

3月になりました。
あれから半年が経ち、従業員もこの嵐吹き荒れる中でよくついてきてくれていると本当に感謝しかありません。

鳥インフルエンザによる供給減も影響し鶏卵相場は高くなり続けています。発生した農場さんのことを考えると複雑な気持ちですが、私たちにとっては追い風になっています。

当初1〜2月は減産しても余るだろう。ここが耐え時だと考えていましたが、例年と全く状況が逆でたまごの需要は減りませんでした。

3月となり、値上げをお願いしたお客様も継続していただける方ばかりです。本当にありがたいです。ただ、卵がこれだけ不足しているから高くても買わざる得ない状況もあるとは思っていて、いずれ落ち着いた頃には他社さんに切り替えることや安い卵を食べるお客様も増えるだろうと冷静に考えないといけません。それでも、仕方ないねと優しい言葉をかけてくださる取引先様やお客様ばかりで泣けてきます。

自分たちが地域密着でやってきたことや、日本で一番ありがとうの〝わ〟が生まれる養鶏場を目指そうとやってきたことが少なからず返ってきたのかと嬉しい気持ちになります。

今この状況は、決して楽観視できるわけではなく、ここが一番の正念場だと思っています。ここで舵取りを誤ったら、途端に崩れ落ちてしまいます。

お惣菜事業をスタート

竹鶏ファームを蘇らせるためにもう一つ新しい事業をスタートさせます。たまたま昨年末にお話しをいただき、仙台の藤崎百貨店さんの地下惣菜売場に3月末から出店することになりました。

卵だけでは苦しいと模索していた最中、突然のお声がけに心が震えました。今、たまごサンドを中心とした「たまごを食べる産直DELI」というコンセプトで絶賛オープン準備中です。

これも藤崎百貨店さんに約25年たまごのお取引していたことがあったのが大きかったのかも知れません。無名だった竹鶏ファームをずっと応援して使い続けてくれた藤崎さんに恩返ししていこうと思います。

養鶏場が買い手のみなさんにお願いしたいこと

ここまで赤裸々に書いてみて、ただ単に養鶏場が大変なんだよと言いたい訳ではないのでご理解ください。養鶏以上に苦しい業界も多いと思います。

ですが、一つだけお願いさせて下さい。
下記の青学大・原晋先生の言葉のように、

「適正な価格に戻すべき。安すぎたんじゃないか」

これなんだと思います。じつは僕の高校の恩師を通じて何度か青学大の陸上部さんに卵を送らせていただいたこともあり、勝手にファンになっています。
そんな原先生にこう言ってもらい涙が出ました。

卵は安いが当たり前ではありましたが、もう少し高くてもいいと受け入れてもらえると、養鶏業界はもっと進歩し後継者は増え、良いサイクルになるはずです。多様な養鶏家が増え、もっと日本のたまご文化は発展します。
地方の養鶏家の端くれとして思いの丈を書いてみました。


最後に

ここ数ヶ月で起きている鶏卵価格の高騰は、今に始まったことではなく、コロナ禍に入った頃から二重三重で押し寄せてきていた波が、今になり表面化してきたものです。

今回初めて、当事者として感じることを率直に書いてみました。不快に思われる方や違うぞという意見もあるかも知れませんが、どうかご容赦ください。
日本の養鶏やたまごを通じて幸せになる方、健康になる方が少しでも増えることを願い、これからもコツコツと養鶏という仕事に向き合っていこうと思います。

有限会社竹鶏ファーム
代表取締役 志村竜生


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