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相棒の一眼レフ


ボクは一眼レフ。生まれはNicon、性別は黒色、ゴツめなボディが愛される所以だ。

生まれて初めて聞いた言葉は「高いけど買おうかな」

ボクらはニンゲンにとって安い買い物ではないらしく、だからこそ同じ商品棚にいる仲間たちが買われて旅立つのは嬉しい。


ボクらはピンキリだ。生まれながらに立派な性能を兼ね備えている遺伝子バンザイなヤツもいれば、初心者向けのライトな性能のヤツもいる。

ボクらカメラ本体に、レンズってのをガッシャンコして使うのだけど、このレンズってのと仲良くなれるのかは分からんもんで、初対面でいきなりタッグを組まされるんだから困ったもんだ。

ちなみに単焦点レンズのヤツは性格に難ありだ。クセが強い。ボクは好きだけどね。


ボクを手にとったのは20代中盤の優しそうな男性だった。

彼は会社員という生き方が肌に合わなかったらしく、毎日が息苦しくて、休日に遊ぶ趣味がほしくて、ボクを買ったようだった。

ずっとニヤニヤ眺められていたのを覚えている。


それからというもの、彼は週末になるとボクを連れて色んなところへ出かけた。

春にぽってりと咲いた桜の花、夏の日差しでキラキラと光る海、秋色のセーターと紅葉、冬の綺麗な星空。

一人で、いやボクと二人で、たくさんの景色を見た。彼は撮った写真を確認するたびにニヤニヤしていて、一緒に色んな " 嬉しい " を撮り溜めた。

ボクは週末が楽しみだった。


ボクと出会って半年が過ぎた頃、彼は会社を辞めて独立をすることを決めたようだった。いわゆるフリーランスという働き方だ。

「ごめんなさい、やめます。今までお世話になりました。」そう上司に伝えていた。

その晩、彼はボクを握りしめていた。カメラ一本で生きていけるのだろうか。会社を辞めた不安と、これからの期待と。とにかく良い目をしていたのを憶えている。


それから彼はたくさんの「人」を撮るようになった。

彼が撮る人はみんな自然体で笑っていて、たぶんその人が普段するであろう表情のそのままがボクには映っていた。

はじめはカメラの収入だけではキツくてバイトをしながらの生活だったけれど、彼は楽しそうだった。会社員の頃よりずっと。


やがて彼はカメラマンの収入一本で暮らせるようになった。

当然だ。彼ほどカメラを好きなヤツはいない。彼ほど嬉しそうに撮るヤツはいない。カメラで食えないハズがないんだよ。


ボクは彼のいろいろを知ってる。

フレームを覗き込むときの真剣な顔、撮ったあとの嬉しそうな顔、家に帰ってレタッチしてるときのニヤニヤしてる顔、たまに悔しそうな顔。

彼はふだん写真に映らない。撮る側だから。でも大丈夫。ボクが全部憶えているから。現像しきれないほどのキミが、ボクの中にいるから。



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