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すべて狸ジジイが導いたもの

大楠を正面に見えるように板敷にあぐらをかく。
人前であぐらというのはいささか行儀が悪いかもしれないが、そんなに人目があるわけではなし、それに正座などでは集中ができない。
痺れて立てないなんていう方が格好がつかないだろう。それほど、ゆったりと座っていたかった。

5月の月参り。
どこへ行こうか全く考えていなかった。まだメモ書きに残っている「行きたい神社」リストでチェックが入っていないところはあるのだが、午後から国立科学博物館へ行きたかったので、なるべくそこへなるべく行きやすい場所を選びたかったのだ。

3年目に入った月参りは当初「晦日詣」として始めたものだったので、基本は月末に参拝する。
しかし、5月の最終週は一週間予報で傘マークが並んでいたので晴天が約束されている26日に行くことにした。
もう25日以降は月末だろう。

さて、どこに行こうか。
上野へ行きやすい神社……ちなみに五條天神社も花園稲荷神社も上野弁財天もすでに行っているし、基本その辺りはほぼ毎回トーハクやカハクに行く度に行く。
そこで浮かんだのが、上野東照宮であった。
上野東照宮も参拝したことはあるが、拝観料を払って奥に入ったことはなかった。

そういえば先月は三井記念美術館にも行ったし、テレビでも何度かここ見た。

毎月行く神社は、なんとなく「行くべきところ」という感覚がある。それが近くに二社あればそちらも巡るようになる。
もちろん探すのだが、それ以上に「この辺り」とか「この神社」というのがふっと浮かぶのだ。

今回も全くもって候補にもなかった「上野東照宮」がパズルのピースがハマるように浮かんでピッタリきた。

きっと狸ジジイが笑っている。松潤じゃない。丸っとした狸ジジイだ。食えない。

結論として、「ここ」だった。

狸ジジイのしてやったり顔が浮かぶ。教科書に載っている烏帽子被ったあの肖像画くらいしか咄嗟に思い浮かばないが、あれがほくそ笑んでる。

観光客が戻ってきたことや、修学旅行シーズンなのか海外の方や学生で賑わう上野公園内を抜けて上野東照宮へ。
手前の賽銭箱のところで一応お参りしてから、御朱印をいただき拝観料を払う。

レシートに自動ドアを開けるQRコードが仕込まれているというハイテクな仕様の扉を抜けると、大楠が待っていた。

綺麗な精心殿(名前そんな感じ)
そよそよと風が抜け、大楠の枝葉を揺らす。
御神木なだけある。見上げただけで涙が出そうだった。
人前だしね、これからカハク行くから泣かないけど。

拝観料という一手間をかけるだけで、こんなに静かな空間を楽しめるなんて贅沢だ。

大楠をしばらく見上げてから、ふと思い立って、次へ進む。

狸大明神かなんだかのお狸様のお社がある。狸は他抜き。他から抜きん出るということで、勝利や合格祈願などのご利益があるという。
確かに最終的に他を抜き去り、平安の世を開いた家康公にはピッタリの神様である。

そこから本殿へ。本殿内部は入れないが、外から見るだけでも清々しい。
こじんまりとしてはいるが、黒と金のそれから透かしの装飾は派手とか華美というよりは荘厳な雰囲気を醸し出してた。

ここにも賽銭箱があり、お参りする。
誰もいなかったので、一人でじっくり手を合わせて、ただ祈るのみ。

家康公なので、泰平の世が末長く続くように、そのために私を使えばいいよと。

そして、再び大楠のところへ戻る。
多分あまり戻る人はいないのかもしれないなと思いながら。

大楠を正面に見えるように板敷にあぐらをかく。
人前であぐらというのはいささか行儀が悪いかもしれないが、そんなに人目があるわけではなし、それに正座などでは集中ができない。
痺れて立てないなんていう方が格好がつかないだろう。それほど、ゆったりと座っていたかった。

今年から神社でやっていることがある。
それがメッセージをもらうということだ。

この場所はそれをゆったりできるだけの時間と雰囲気が備わっている。
目の前には大楠。
精神を落ち着かせるにはうってつけの場所である。

家康公がちゃんと天照大御神などと肩を並べる神様かという話は置いておく。
私たちは等しくこの宇宙の根源神の分け御霊なのだとしたら、本質的には神様だとしてもおかしくはない。

狸ジジイと言ってはいるが、偉大なる先達。
浮かんだ言葉を彼からのメッセージとしてスマホに打ち込んだ。

側から見たら、あぐらをかいてスマホを打っている女である。
しかし、内容は東照大権現からのメッセージだ。
ありがたいことこの上ない。

打ち終わってからも、しばし大楠の生命力を感じる。
ああ、幸せだ。

上野公園は賑わっているのに、ここは静謐さを極めている。
呼吸が深くなり、ただ自分がここにあるだけで満たされる。

たっぷりと平穏な空間にいる贅沢を味わい、上野東照宮を後にした。

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