ICSで22ポを飛ばすまで/飛ばしてから
みなさんこんにちは。オリエンテーリング Advent Calendar 2024 裏版22日目を担当させていただきます。筑波大学の加藤賢斗です。
一日は27:00に終わるということをオリエンテーリングで学びました。
遅刻して本当に申し訳ございません。
好きなものはオリエンテーリング、スプリント、キャンパススプリント、リレーの1走、白くてゴツい山、ワクワク遠征、串団子、ドーナツ、シマエナガです。
ICS2024
2024年11月16日に福井県あわら市のトリムパークかなづで行なわれたインカレスプリント2024。シード選手に選出していただき、ありがたいことにレース直前まで、レース中にも多くの方々から期待と応援をいただきました。
が。
ビジュアル後最後の回しからなかなか帰ってこない+帰ってきたかと思えばあり得ない方向から飛び出てきた+22番コントロール不通過の3コンボ。「何があった?」的なことを後日多くの方から聞かれました。
せっかくの機会なので今回のICS2024周りの話を、簡単な技術的な話を交えながら書かせていただけたらと思います。記録すら残ってない人間が書くのはおこがましいですが。
技術の話は、STOP&GOでスプリントができるようになった、始めたてだけどスプリントをもっと上達したいのような方にも届いてほしいです🫶
上級者にとっては当たり前の動作で退屈かもしれないです。ごめんなさい
大半が自分語りな上に普段アナリシスも書き切れないような人間の拙文ですが、暇つぶしとして読んでいただけると嬉しいです。
きっかけ
遡ること1年。ICS2023。
熱心にコーチングしてくださった方々のおかげで1年目ながらスプリントセレを通過した私は、「ME新人特別表彰」と「筑波のエリートの中で1位」の2つを目標にレースに臨んだ。反対に言えばこれ以上のことは頭にもなかったかもしれない。
前半は悪くなかったもののビジュアル後に大飛び。軽い現ロスもした。
しかし、いざ蓋を開けてみるとトップタイム更新。インタビューも受けた。あれ、意外と更新されない…
オリエンテーリングに取り組む過程でいつかは向き合うことになるだろうと思っていた「インカレ優勝」というワード。こんなに早く出会うとは。
来年は優勝を目指していいんだ。初めての秋インカレはそんな高揚感とともに、私のオリエンテーリングが始まった瞬間であった。
2年目
2年生になった私は「JWOCスプリント30位以内」「ICS2024優勝」という目標を掲げ、再びトレーニングに励んだ。結果としてはどちらも叶わなかったが。最低限の技術を駆使し、先読み段階でとりあえず見えたルートを脚力でゴリ押すようなスプリントをしていた1年目。今回の目標達成のためには技術面をさらに底上げする必要があると感じた私は、第一に基本的な動作や動きを春~夏に徹底的に叩きつけた。
以下読みづらいです。ごめんなさい。説明下手だ…
思考のサイクル
大事。スプリントどころかオリエンテーリングをやる人なら一度は考えたことがあるかも。ないかも
スプリント競技は、ハイペースで走りながらも瞬発的なルートチョイスとその実行を求められる。よって「地図を読む区間」「ナビゲーションをする区間」「精一杯走る区間」を交互に上手く回す必要がある。
さらにこれらの区間も「ルートを探し、引く動作」「その中からルートを選ぶ動作」「CPを見る動作」など細かく分けることができる。これらの動作を展開に合わせて瞬時に入れ替えることでテンポよくレースを進めることができる。
始点と終点の確認
大事。そのレッグのルートチョイスを考える際、どこからどこまでのチョイスを迫られているのかの把握。
例えば下の図に書かれている上向きのレッグは大きく右(赤)左(紫・緑)のルートがある。しかし、右左どちらを選んでもレッグ線中央の分岐までは辿る線が同じである。これが始点である。
このように真のルートチョイスが始まる点、また終わる点を見極めることでレッグ線の見た目に捕らわれない正確なルート選択ができ、かつルートチョイスの負荷を下げることができる。身体先行型であってもルートチョイスの始点を把握できていれば読み切る猶予を先延ばしにできる。
ポストから、ポストに伸びる線の確認
大事。下の図にある右向きのレッグ。
脱出方向は、始点となるポストに対して北向き(赤)と南向き(橙・青)の2つが存在している。
そしてアタック方向は、テニスコート北西の入り口からのルート(赤・橙)とテニスコート東の入り口からのルート(青)が存在している。
つまり、このレッグには脱出方向2パターン、アタック方向2パターンの計4パターンのルートが存在している。どのような脱出方向とアタック方向が存在しているのかを把握するだけでルートファインディングとチョイスがしやすくなる。簡単~普通のレッグはだいたいこれで対処できる…かも
勝負レッグになるとこれらの線を繋げる最中、更に新たなファインディングとチョイスを迫られたりする。これは私も得意ではないので上手い人に聞いてください。
CP
大事。地図上で引いた線をCPを経由しながら辿っていざ実行。しかし、CPを置く際、自身が見たいと思ったものが実際は現地で見逃してしまうようなものだと意味がない。
パークのような開けたテレインでは東屋などの建物、建物が並ぶ市街地では反対に空き地や駐車場、のようにイレギュラーなものに目を向ける。
そういったものが存在していないときはCPがある道の反対側などに何があるのかなどプラスの情報を入れられると安心。
これらの基礎固めの結果、夏頃から野良大会でそこそこの結果を残せるようになってきた。初めて優勝した時はとても嬉しかったし、練習の成果が結果として表れるのは大きなモチベーションとなった。
週のトレーニング
月 休養日 or リカバリージョグ
火 ジョグとかスプリント(ゆっくり)
水 ポイント練
木 スプリント(頑張る)
金 ジョグ
土日 オリエンの大会
9月まではだいたいこんな感じ。火水木は週によって調節。
週の走行距離は60~70kmぐらいで飛び抜けて多いわけではない。
夏場は昼間に走ると命に関わるので朝と夕方に分けて走ったりした。秋ごろからは徐々に頑張るスプリントの回数を増やしたり、ジョグをゆっくりスプリントに変えたりと身に着けた技術の実践の機会を増やした。
楽しくないとやってられないので気分が乗らなかったらその日は走らないようにもしていた。自分の機嫌を自分で取るのは得意である。
要領があまりよくないのでとにかくスプリントの回数をこなし、「これを意識したら上手くいった」とか「ここでミスをしたのはこれができてなかったから、対処法としてこれやこれが効果的かも」のような、レース中やレース後に思ったことをStravaに箇条書きでとにかく書く。よかったと思った点は取り入れて体に染み込ませ、よくなかった点は様々な方法を試して一番自身に合う改善方法を探す。ひたすらトライアンドエラー。
今思えば異常な回数のスプリントをしていた気がする。ミドルシーズンはめっきりスプリントをしなくなってしまうので少し、いやかなり寂しい。
筑波大学体育会オリエンテーリング部
既に多くの方が書いていると思うが。
私が所属している筑波大学はスプリント強豪校として名を馳せている。
私と同じようにICSで優勝を意気込むエリート選手、日本代表選手をはじめとしたコーチ陣の手厚い指導、練習にうってつけな難テレイン「森ヲ駆ケル恋人タチ」、大学周りの市街地地図とそのコースを無限に生成してくださるむらたさん、基礎的な走力アップのためにポイント練のメニューを組んでくださるたけしさん(ご飯もつくってくれる)、その練習や地図読みを共にこなしてくれるチームメイト、体育会である我が部のサポートしてくださるトレーナーさん、などなど。
特に今年はこれら全てが上手く噛み合いバチバチの環境だったように思う。
この環境にいられなかったらここまで頑張れなかっただろう。関わってくれた全ての人に感謝。実を言うと怖い。1年前はこんなバチバチじゃなかったので。
転機
インカレ1ヶ月前のAsOC選考会やしたらオリフェスのスプリントでナビゲーションでの大ミスを連発し、このままではマズいと感じた私は自身のオリエンテーリングを根本的に見直すことにした。
実行でミスをしたのは先読みで適切なCPを置けていなかったから?先読みに割く時間が短かったから? では先読みでもっと多くの情報を拾う必要があるしそのための時間を取るには…
先読みでそれ以降のルートを把握し全て完璧にこなせば理論上完璧なレースができる。先読みこそ正義。本当に???
では先読みをする時間が全くない区間はどうするのだろうか。レース序盤がそれ以降と比べて大きく異なっているのは「先読みのストックが全く存在しない」ことである。スタート誘導でなんとなく線を引いて先読みを開始すると大やけどに繋がることもある(経験談)
オリエンテーリングはナビゲーションスポーツである。今、現在進行形で進んでいるレッグすら完璧にこなせないで先読みは成立しない。
マルチタスクに向いていない自身の脳が完璧な実行をするためには、サイクルを回す際に実行と先読みの切り替えのきっかけを作ることができればいいのではと考えた。
そこで「CPの視認と通過」という項目に目を向けた。
レッグの実行は終点となるポストを視認した瞬間に終了する。
同様にCPも視認できればそこまでの実行は終了する。
始点のポストから走り出し、最初のCPを視認するまでは視認のための実行、次のCPの確認、CPを通過してから見える景色のイメージに集中。
CPを視認できたらスイッチを切り替えて先読みに徹する。
CPを通過したらまたスイッチを切り替えて次のCPの視認のための実行…
のようにサイクルを回すというよりもスイッチで2つの状態を行き来するイメージ。ただぼんやりと頭の中で切り替えるのではなく切り替えるための条件であるスイッチを自身の中でハッキリとさせておく。
スタート直後は特にこれを意識。スタート誘導からルートファインディングとチョイス、CPを置いてナビゲーション。今のレッグが完璧になるまでは絶対に先読みに移行しない。これでもかというほど丁寧にこなす。こうしてテンポ感を作っていければ先読みをする余裕は徐々に生まれてくる。
こうすることでレース中の頭の回転がクリアになった、、、気がする。
少なくとも、スランプまではいかないものの何かが引っかかったような時期をこの気付きで乗り越えた。
図まで作って大々的に説明したが正直当たり前のことすぎる。初心に帰ることと言語化することは伸び悩んだ時に必要なことであると学んだ。
ルートチョイスでベストを引き続けることも大切ではあるが、世界で戦うようなトップ層の選手以外はナビゲーションによる大ミスを減らすことが最優先のように私は思う。ナビゲーションによるミスはシンプルなタイムロスだけでなく、それ以降のレースの流れ、メンタル、スピード感など多くのものを犠牲にしてしまう。
対策
Google Mapのストリートビューや公園内を撮影した写真や動画をネットの海から漁りまくってテレインを研究した。といっても対策はあまり好きではないのでやりつつも半分くらいは人の成果を受動喫煙。
大会2週間前に発行された要項3にて競技情報が明らかになったのでコース組み開始。コース丸々1本を当てる必要はないので、スタートフィニッシュの位置、コース距離・登距離などの情報とレッグ線の形を踏まえて大まかな回しを予想。
回しの想定をしたら残りはそれに対応するレッグの予想。ここ数年のICSのコースの考察やテレインの特性を考慮しながら組んでは消して組んでは消して…
直前期
走行距離を半分ほどに落とし、その代わりに対策練やMリーグ(OBであるむらたさんが開催してくださるスプリント)の1本に全集中。本番を意識したレース展開と思考が上手くハマり、未来のインカレチャンプに30秒差をつけることもあった。
確信した。実力以上の上振れを狙う必要はなく、100%の力を発揮できれば優勝できると思った。傲りではなく地道に積み上げた努力による自信だった。
本番
スプリント観戦ガイド.pdf (ICSL2024 HPより引用)
先述の通り、私は120%のレースをする必要がない。かといって守りのレースをするわけでもない。心に余裕を持たせながらチームメイトやオフィシャルの方々とおしゃべりをし、ボードゲームをして、大好きな串団子を食べ、本番を待った。
理想の展開としては序盤は今のレッグを特に丁寧に、生まれた余裕で少しずつ先読みを進める。特別なことはせずにいかに100%に近いレースをするか。
身に着けた技術を駆使して予定通り中盤までテンポよくこなし続けた。怪しいルートを引くこともあったが自身の脚力があれば即ドボンになることはないだろうとメンタルを保っており、筑波の応援団の目の前で木に頭をぶつけても笑ってやり過ごせるぐらいには安定していた。
雲行きが怪しくなり始めたのは15→16のロングレッグ。
平静を保ちながらも、大舞台での高揚感からかなりのハイスピードで中盤まで進めており、おまけにテレイン内にはたくさんの観客。知っている人が視界に入るとそれが情報として処理されてしまうので苦手である(応援ありがとうございます)
15脱出の時点で先読みのストックが切れており、身体先行で西側に脱出。
真ん中の人口柵を縫うルートはスピードが落ちる上に読図負荷が高いので多少距離が延びる覚悟で大左の青ルートを全力で走ることを決めた。(グラウンドに出た瞬間ポストが見える&走りやすさで悪くないと思った。ここまで伸びるとは…)(右は見えてなかった。似たようなレッグ組んでたのに)
16のアタック時点で「苦しいな…早く終わらないかな…」と考えていた。もう集中が切れかけている。その後も後手後手のルートチョイスを続け、体力・思考ともにかなり限界がきていることを感じた。
19→20のビジュアル区間。本能的に流れで青ルートに行くのはマズいと感じた私はその場で出戻りかつナビゲーション負荷が低く走りやすい桃色ルートを選択。グラウンドに入り、21ポ東側の人口柵の先を視認したと同時に以降の先読みを開始した。
22→23は駐車場を右か左で巻く。23ポ北側の生垣が開いている(開いていない)からパンチしたら左に脱出して…
この時点で21→22を読み飛ばす。
焦り、かつその場しのぎのレースに穴が開いた。
21ポをパンチ。目の前に知らない人口柵。脱出するはずの左には生垣。
糸が切れた。
流石に脚力のアドを使い切ったと思った私は、とりあえずで乗ろうとした道に乗れず出戻りでグラウンド側に脱出。会場の方に向かえばいいからと読めていないのに南へ。人工生垣でふさがれた袋小路に迷い込む。真っ白な脳内に歓声だけが響き渡った。
ここからの記憶はない。
あとから分かったことではあるが、21ポ時点で2位に24秒差をつけていたらしい。全然地図読む時間あったじゃん!あとから分かったことではあるが!
自爆である。イレギュラーからの立て直しが弱すぎる。
これから
レース後のこの世の終わりみたいな私に「この1年は無駄じゃなかった」と言ってくれたコーチと「まだ2年もある」「来年は優勝してね」といってくれた先輩たち。たくさん褒めてくれたみんな。
もう1年覚悟を決めた。関わってくれた方々とここまで頑張ってくれた自分に恩返しをしたいと感じた。
これからはミドルシーズンであるが、スプリントで培った技術をフォレストに、反対にフォレストで得た発見をスプリントに活かすことができたらと考えている。スプリントの大会にもたくさん行きたい。多くのテレインで経験を積めば積むほど良い。
まだまだ課題は山積みである。技術的な部分もメンタル的な部分も。フィジカルだってまだまだ伸ばしたい。これからももっと強くなりたい。
一度掴みかけたICS優勝をまた全力で取りに行く。これからも精進します。
これからのその先
WOC2026。生半可な気持ちで目指すものではないとわかっているが。
「競技を通して素晴らしい景色を見たい」という自身のオリエンテーリングの原動力にピッタリだと考えている。まだ見ぬ素晴らしいテレイン、素晴らしいコースに出会うためにこれからも地道に努力を重ねる。
幸い、好きなものへの執着心の強さには人一倍自信がある。
最後に
ダラダラと書き殴ってしまいました。優勝してこの文章を書けていたらカッコよかったんですけどね。
ICSに始まってICSで終わり、間違いなく自身の大切な地盤となったこの1年を以前から何かしらの形に残しておきたいと考えていたため、こちらの機会を使って書かせていただきました。(こうでもしないと文章を書かないので)
ここまで読んでいただきありがとうございました。
おわり