「ビデオ教材と教師の顔映像」に関する研究紹介

先日、以下の記事を書きましたが、僕のデータだけ紹介し、関連研究を紹介していませんでした。先行研究をリスペクトすることは当然ですし、この問題は現在関心ある方が多く、これを機に関連する学術研究を盛り上げたいという気持ちもあります。そこで、後からで恐縮ですが、関連研究を合わせて紹介させてください。

アイトラッキングに関する研究

前回記事のはじめにご紹介したアイトラッカーについての研究は、僕が調べる限り高橋他(2007)がオリジナルだと思います。僕の紹介した研究は、顔映像(教師映像)無し条件の有無といった細かいところは違いますが、この研究の追試に当たります。高橋他(2007)は研究会資料のため手に入りにくいので、少し細かく紹介します。

この研究では、大学生を参加者として、顔映像と顔静止画の2つの条件を比較しています。加えて、後にテストを行う条件とそうではない条件を比較しています。その結果、後にテストを行わない条件では顔映像を顔静止画よりも見ることが示されていて、これは僕の研究でも追試されています。一方、テストを行う条件では映像と静止画で違いがありませんでした(僕はこの条件では追試をしていません)。これについては、テストがある場合には「スライドが情報入手の中心である」と解釈されています。僕の言葉で言い直せば、学習目的に対応して参加者が自分の注意をコントロールしている、と考えられます。

ちなみに、注意は動きに捕捉されることが一般的で、顔映像を見ているからと言って、映像に動きがあるために注意していた可能性があります。僕は「人であること」が重要であると考えていて、現在この問題に取り組み、データの分析中です。前回ご紹介した研究は、この研究を進めるためのはじめの追試に当たります。

成績向上

高橋他(2007)では、テストを行う条件で実施した理解度テストの結果も示されていますが、結果的に理解度テストに差はありませんでした。また、渡辺他(2014)は講師映像(こちらは腰から上が映像に入る)の有無による理解度テストへの影響を検討していますが、差はありませんでした。

ここについては、前回の記事で触れましたが、テスト成績を向上させる要因と向上させない要因の2つが絡み合っていて、おそらく条件によってどちらかに振れたり、相殺したりする可能性が高いとみています。学習成績の向上については、後でもう一度述べます。

感情的効果

高橋他(2007)のアンケートでは、「講師画像が動画と静止画でどちらが親近感が湧いたか」という質問に対して映像の方がポジティブな評価が得られています。また、森田他(2011)は、ヘッドマウントディスプレイで見る学習教材の中に講師映像を入れる条件と入れない条件を比較した後でアンケートを取り、興味や意欲、講師の存在感が高まったことを報告しています。これらは、先日僕がご紹介したアンケートデータや学習ログの分析と一致していて、平均的には顔映像が好まれると考えられます。このような好みの側面を、とりあえず「感情的効果」と呼ぶことにします。

この感情的効果ですが、先に挙げた渡辺他(2014)の研究では講師映像にネガティブな評価が多かったという結果になっています。また、先日ご紹介した僕の大規模ネット調査でも、顔映像の効果はありませんでした。この点については、渡辺他(2014)がモバイルデバイス用の小さな画面を扱っていたり、僕のネット調査は「1人1種類だけを見る」(他の研究はすべての条件を1人の参加者が見て相対評価を行う、いわゆる「参加者内要因」)という細かな条件の違いが影響している可能性があります。そのため、感情的効果が起こる条件が明確に明らかになっているとは言えないでしょう。

もういちど成績向上(少し領域を広げて)

顔映像と成績向上について、少し領域を広げて考えてみたいと思います。

これまでの認知心理学的研究では、通常は、たとえば装飾目的で文章内容との関係が薄い挿絵は読解成績向上には貢献できないといったように(たとえば、Carney他, 2002)、学習内容と直接関係ない情報は学習を阻害するという考えが一般的です。しかし、一見関係ない情報に感情的効果があるとすれば、情報がたくさんある中で選んでもらう、やる気をサポートする、といった効果があり、間接的に学習成績を向上させることはあると考えています。

少し話はズレますが、僕は以前から、挿絵、タイトル、レイアウト等で教材を魅力的にして、見てもらうといった、教材の動機づけ効果について研究しています。その一連の一つである僕の論文(島田, 2016)で、先の高橋他(2007)を引用して論じていますが、顔や講師の映像が教材を魅力的にして、見てもらう効果はあると考えています。上記の研究を含めてeラーニング教材をレビューしている冨永他(2014)では、「講師のプレゼンスを高めるeラーニング教材」という文脈で議論されています。

最近面白かったのは、Schneider他(2018)の論文で、AIに関して説明するテキストに擬人化したロボットの写真を合わせて提示することで、学習成績が向上することを示しています。人間とロボットでは異なるという考えもあると思いますが、ある側面から見れば連続的でもありますから、人間に関する情報を付加しても同様の成績向上効果がみられるのではないかと考えています。この手の研究で学習成績向上を示したものは珍しく(少なくともパッと出てくるレベルでは)、注目しています。

これらの研究は僕の現在の関心である人間の学習の社会性(情報は人から人へ伝えられるのが本質なのではないか)と、その自動化(本物の人間じゃなくても「人間っぽいAI」が作れれば講師は不要になるのではないか)という関心で研究を進めています。関心がある方がいらっしゃれば、議論させてください。

さいごに

前回記事の関連研究を含めて紹介しました。研究動向をすべて追い切れていないかもしれませんので、引用の内容が間違っている、こんな研究もある、といった情報があればお知らせいただけるとありがたいです。これを機に、学術研究をもっとアピールしたいな~と考えています。

引用文献

高橋純・堀田龍也・山西潤一 (2007). e-learning画面の講師画像が動画か静止画かによる効果の違い 日本教育工学会研究報告集, 07-5, 265-270.

渡辺雄貴・瀬戸崎典夫・森田裕介・加藤浩・西原明法 (2014). モバイルラーニング動画コンテンツの指示方法に関する一考察 日本教育工学会論文誌, 38(suppl.), 109-112.

森田裕介・藤島宏彰・瀬戸崎典夫・岩崎勤 (2011). デジタル教材を重畳提示する天体学習用ARテキストの開発と評価 日本教育工学会論文誌, 35(suppl.), 81-84.

Carney, R. N., & Levin, J. R. (2002) Pictorial illustrations still improve students' learning from text. Educational Psychology Review, 14, 5-26.

島田英昭 (2016). 教材の構成要素が読解への動機づけに与える影響 教育心理学研究, 64, 296-306.

冨永敦子・向後千春 (2014). eラーニングに関する実践的研究の進展と課題 教育心理学年報, 53, 156-165.

Schneider, S., Nebel, S., Beege, M. & Rey, G. D. (2018). Anthropomorphism in decorative pictures: Benefit or harm for learning? Journal of Educational Psychology, 110, 218-232.