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ソルの練習曲に見られるギター曲としての考察、その2

セゴビア編の17番。ベートーベンのような重みのあるアルぺジョで
和声のグラデーションがとても美しい曲です。
ここでもソルはギターという楽器の可能性を追求しており、
1回目と二回目のバスに変化を付けて半音進行したりしていますが、
やはり私がう~ん!とうなってしまうような工夫が#4つのホ長調になってからです。それまで暗かったホ短調から一転明るくなっただけではなく
メロディも4分音符で前よりも滑らかに動いていきます。
そして、今回皆さんにご紹介したいのが3回繰り返されるモチーフの旋律の下降部分なのです。ソルですから勿論美しい変化を付けているのですが、
その和音のグラデーションは実に勉強になります。


3回の下降のパターンを書き出してみました。

全てに分かりやすくコードを付けてみましたが、見ての通り3回目のコードはかなり複雑になってしまいました(笑)これは後で説明するとしますが
コード理論で書く限界なのですね。

前半はホ短調で曲を進めた後に始まった、美しいホ長調のメロディが3回繰り返して下降するパターンが60,68,72小節です。
まず60小節を見ますと、1拍目が欠けたアウフタクトでミーレ#ード#と降りてきます。2回目の68小節はメロディもコードも同じで、何が異なるのでしょう?そうです、2拍目の3連符の2つ目の音がラからミに変わっただけです。大きな変化では無いようですがここで注目して欲しいのは60小節の3,4拍目の3連符の2、3個目のアルぺジョ伴奏の最低音がミでしたが、68小節で2拍目からミに代わり、最後の72ではすべての伴奏の最低音はミになっているのです。この音楽的な効果は3回行われる同じようなフレーズに、少しずつどっしりとしたような伴奏の印象を与えています。

そして、まだまだ工夫の考察は続きます。
72小節の全てのアルぺジョの最低音がミになった事は今書きましたが、
これは言い換えれば3連符の2個目(1個目はメロディですので)の
音だけ取り出すと
60小節がラーラーミーミ
68小節がラーミ―ミ―ミ
72小節がミ―ミ―ミ―ミ
となりました。この方が分かりやすいかもしれません。
では3連符の3個目の音を抜いて書き並べてみましょう。
60小節がド#ード#ーシーラ
68小節がド#ード#ーシーラ
72小節がレ#ード#ーシーラ
そうです。3回目に美しい旋律の3度下のハモリの追っかけが完成するのですね。これが1拍目の3個目の音が普通のド#でしたらコードももう少しシンプルですが、やはり横に流れる声部でハモリを表現したかったのだと思います。

では今度はフレーズ的に見てみましょう。すべての3回のフレーズの
前の小節から音名だけ抜いて並べます。
59小節がファ#ーミーミーー・ミーレ#ード#
67小節がファ#ーミーミーー・ミーレ#ード#
71小節がミーソ#ーファ#ーミーファ#ーミーレ#ード#
おぉ!何と1回目と2回目が同じで、3回目だけが前のフレーズも後ろのフレーズも変わっていますね。
下って、下っての1,2回目に比べて上って下って、大下り~!みたいになっているので、盛り上がり感が半端ないのですね。

最後にもう一つ大きな工夫が見られます。1回目は8小節のフレーズの4小節目に出て来て、2回目も同じく8小節のフレーズの4小節目に出て来ますが、最後はまさかの4小節のリフレイン(楽曲の各節最後の部分の繰り返し)
で2小節目に出て来てしまう、息もつかさぬ技で先述の最高の盛り上がりを見せるのですね。

今回はここに的を絞って書きましたが、この後の終始に向かうフレーズも美しいですね。最後の4小節の上でシミ~、下でシミ~の繰り返しがやはり
間隔を縮めてシミ~シミ~で静かに終わります。

しかし、この曲の考察の記事を書いて改めて思います。ソルはギターを愛し、伴奏のたった一つの音でもこだわって変化を付けて、盛り上がりに沢山の工夫を凝らした結果、このような素晴らしい曲になったのでしょうね。

最後に、あくまでこれらは全て私の考察で、ソル自身は特に何も考えずギターをつま弾き鼻歌でも歌いながら小1時間ぐらいで一気に羽ペンで書き上げたのかもしれません(笑)

どちらにせよ、真の楽聖が私たちに残してくれた宝物の曲の一つです。








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